ここではないどこかへ -Anywhere But Here-

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国家の品格/藤原正彦

2006-05-24 21:46:38 | 
曇りのち雨。

著者の藤原正彦氏は新田次郎の息子なのだそうだ。読むまで知らなかった。
図書館に予約していたが、ベストセラーでようやく私の番が回ってきた。

こういうことを言う親父がひとりぐらいいてもいいんじゃないか。
確かにここ数年、アメリカの独善的な価値観の押し付けには辟易していた部分がある。
京都議定書を批准しなかったあたりから、自分達の論理の楼閣に篭るアメリカの姿を何度も見せ付けられてきた。
大義の戦争だったはずのイラクだって、肝心なところで歯切れの悪さを残している。
一方で市場原理主義とも揶揄される市場ルールにはアメリカの押し付けがましさを感じる。
そしてそのアメリカにべったりと寄り添って言いなりの日本。

欧米に比べれば伝統的に日本には倫理や情感に対する美学があったはずである。それが著者が主張するところの武士道に通じていく。
日本人が本来持っていた道徳意識の高さや慈愛、誠実、忍耐、正義、勇気、惻隠といった武士道の精神はもっと世界で評価されるべきであると。
経済を背景とした日本のプレゼンスが世界の中で相対的に薄れていくなかでのあせりもあるのだろう。
日本はいつも金だけで、その金が出せない日本は世界中で軽んじられているのではないか。
であれば、日本が日本たる所以である、高い倫理性や文化的な水準の高さで世界に評価される国になっていこう、
その意味で孤高の存在であることは悪いことではない。
・・・とまあ、ある意味で論調はかなり保守主義的だが、もっと日本人よ自信を持っていこうぜ、と取れなくもない。

ただ、著者自身が数学者であるからか、数学の学問的価値にはかなり水を引いているきらいがある。
一方で、門外漢である経済学を始めとした社会科学の分野に対してかなり冷淡なのが、
ちょっと鼻につくし、感情的なところがにじみ出ている。

日本人の多くが忘れかけているものをもう一度取り戻そうという主張自体には共感すべきものもあるし、
昨今の日本の風潮を考えると、こういう主張の本がベストセラーになる日本は、まだバランスを保てているという気はする。