江戸観光案内

古地図を片手に江戸の痕跡を見つけてみませんか?

陽岳寺

2012-02-11 | まち歩き

陽岳寺は深川の清澄通と葛西橋通が交わる角に建つ臨済宗のお寺です。二代将軍徳川秀忠に仕え、徳川の水軍を率いた戦国武将である向井忠勝が開基[1]となり、寛永十四年(1637年)に創建されました。明治三年に陽岳寺内に開かれた寺子屋が、すぐ近くの明治小学校の発祥となったことでも知られています。


陽岳寺は、池波正太郎著「剣客商売(十六) 浮沈」の中で、秋山小兵衛のかつての弟子である滝久蔵が住む寺として、また、秋山小兵衛とかつて剣を交えた男の息子である山崎勘之介の家の菩提寺として登場しています。


池波先生の文章を引用させて頂くと、陽岳寺周辺の風景は、“このあたりは油掘をはじめ、大小の運河が錯綜しており、陽岳寺の門前も三つの運河が合流しているそうな。”、“陽岳寺の門前には橋が三つ。掘割にはぎっしりと船が舫(もや)ってあった。”と書かれています。古地図[2]を開いてみると、確かに陽岳寺の門前には富岡橋、黒江橋、江川橋の三つの橋と油掘を含む三つの運河が描かれています。これらの運河は現在は埋め立てられて消失していますが、かつての運河がどこに在ったかというと、油掘は首都高速9号線のところを流れており、残り二つの運河はだいたい葛西橋通りのところを流れていたようです[3]


運河や橋が無くなってしまった一方で、“このあたりには、法衆寺、玄信寺、心行寺などの寺院がぎっしりと立ちならんでいる。”と記された風景は今も同じように残っています。玄信寺、心行寺は実在するお寺で、法衆寺というお寺は実在しませんが、おそらく法乗院の間違いと考えられます。法乗院が法衆寺になった経緯は定かではありませんが、僭越ながら池波先生がお間違いになられたか、先生が参考とされた地図が間違っていたのではないかと思われます。


[1] 開基とは寺院を創立すること、あるいは寺院を創建した人や創建させた権力者のこと

[2] 本所深川絵図、文久二年(1862年)

[3] 参考文献:東京時代MAP大江戸編、新創社


陽岳寺が登場するその他の作品

  • 藤沢周平著「闇の歯車」(講談社)
  • 池波正太郎著「密告」(鬼平犯科帳(十一)に収録、文藝春秋)

陽岳寺 東京都江東区深川2-16-27

東京メトロ・都営大江戸線 門前仲町駅から約300m 徒歩約4分


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