出合の河童 「南紀土俗資料」
2025.4
龍神村大熊(和歌山県田辺市)の出合の淵にも河童(があたろ)がいた。
ある時、この里の湯の倉と言う所の田圃の中へ牛を放して置いたところ、河童が上がって来て尻を抜こうとした。牛は驚いて河童を引きずりながら、一生懸命大熊平と言う所まで逃げてきた。村人が飛んで行って、その危急を救って、大騒ぎとなった。
その結果、河童は生捕られた。そして、殴られたり、田ノ草取などをさせられて、こき使われた。
辛抱しきれなくなった河童は、とうとう
「今後、天に星が無くなり、河に真砂が消え、竜蔵寺に小松が生へるまで、此の地の湯野々から上の人には危害を加えません。」と誓約して放免された。
その誓文は石碑に刻して龍蔵寺の手水鉢の下に埋めた。
後に龍蔵寺の荊山といふ僧が住して庭前に二本の小松を植えた所、湯野々の某々二人が、ある時この川へ夜釣に行くとて、出たまま行方不明になってしまった。
これは龍蔵寺へ松を植えたので河童が災したに違ないと、人々は僧に談じて早速松を伐った。
それからは先は特別の異変もないと。
河童を捕へて、もう此の里へは上って来ないからと誓はせて放免したといふ伝説は川中村の田尻にもある。
以上、「南紀土俗資料」土俗編、水界神話的伝説 より
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