江戸の妖怪、怪奇、怪談、奇談

江戸時代を中心とした、面白い話を、探して、紹介します。

踊が岩の古狸 土佐風俗と伝説

2020-02-08 00:02:18 | キツネ、タヌキ、ムジナ、その他動物、霊獣
踊が岩の古狸 土佐の狸の怪 1.              
                              2020.2
今は昔、天保(1831~1845年)の頃、長岡郡本山(高知県長岡郡)の葛原に色々と怪しい事があった。

ある里人が夕暮れにそこを通りかかると、大入道が木の葉の衣をつけ、一本歯の高下駄を履いて、人をにらみ付けていた。
里人は恐れて帰り、大熱を病気になった。

又、或旅人が通ると美人が病いに苦しんでいた。
介抱してやると、よくなった。
しかし、一緒に山を下りている途中で、たちまちに美人は鼻が欠け目が消え、姿が一変し、のっぺり坊主となった。
そして、噛み付いてきた。
旅人はきやっと驚いて、気絶して倒れた。
が、夜明の冷気に目が覚めて見ると、葛原の墓場の中に、泥まみれとなって寝ていた。
このような噂が、ぱっと弘まり、誰もこの葛原を通る者がなくなった。

さて、ここに本山の隣りの田井の伊勢川に、白助と言う勇敢な猟師がいた。
葛原の怪異は古狸の仕業であろうと察して、鉄砲を提げて、夜な夜な葛原に通ったが、そのことを察知したのか、怪物は一向に姿を見せなかった。

さて、時節も過ぎて、その年の大晦日の夜も、白助はあいも変らず九刻頃(夜十二時ころ)に銃を提げ、葛原へ行った。

すると、岩陰に妙な歌の声で、
「今晩は晦日(みそか)、晦日の夜には、如何(いか)な白助さんも、よも来まい」
と歌ひ澄ましていた。

白助は、暗い夜であったが、星の光に透かして見ると、白綾の衣(ころも)、緋の袴(はかま)、官女の姿そのままの美人が、扇をあおぎながら踊り舞っていた。
おのれ古狸め、と一発鉄砲の弾を打ち放てば、弾丸美事に命中した。
あの美しい官女は、たちまちに姿を消した。

翌朝、草を分けてその怪物を探したが、身長約五尺もあろうと言う大狸であった。
身体一面に、木の葉や川藻を付着させて居た。
この後、葛原には何も怪しい事が起こらなかった。

今に至っても、里人は、その岩を踊り岩と言っている。

「土佐風俗と伝説」より