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とりビーな毎日

中年おやじの映画鑑賞メインの趣味の記録です

「薬の神じゃない!」(ネタバレ注意)

2020-10-23 23:59:00 | 映画
2014年に起きた偽薬事件を元にした中国映画。
企業の利益と人間の命の相克、また法の秩序をどう保つかなど、
多くの問題を含んでおり、見応えのある作品だった。

欧州と中国の格差、中国国内での格差、中国とインドでの格差など、
昨今の世界情勢も織り込まれている。

スイスの製薬会社が販売する慢性骨髄性白血病の薬を巡って、
高価で薬を買うために困窮している人のために、
認可されていないジェネリック医薬品をインドから密輸して、
安価に提供する男が主人公だ。
主人公は警察に捕まるのを恐れて、一度は、商売をやめてしまう。

しかし、白血病の人々の窮状を見かねて、再び、密輸を始める。
しかも、今度は仕入れた価格よりも安く、慈善事業的に活動する。

最終的には、スイスの製薬会社の圧力で、
インドの製造元が閉鎖され、主人公も逮捕されてしまう。

この事件をきっかけに、中国の医療薬業界が改革され、
慢性骨髄性白血病薬は医療保険適用となり、
庶民も安価に服用できるようになったらしい。

この作品では、スイスの製薬会社が悪者のように描かれているが、
そもそも薬の開発には相当の投資が必要で、
薬の開発自体に命を賭けている人がいるのも事実だ。
また、慢性骨髄性白血病以外でもお金さえあれば助かる命はある。

そんな世界中のすべての人を救うことができれば素晴らしいが、
病気以外にも命を危険にさらしたり、
心身にダメージを受けることは世の中に溢れている。

例えば、画期的な技術が開発されて癌が撲滅されたら、
癌の治療で生計を立てている人は、他の仕事を探さないといけない。
人類にとっては福音であっても、一部の人にはそうでないかもしれない。

ある日突然、変化が訪れる訳ではないので、
新しい状態に世界は徐々に慣れていくのだろうが、
そのための社会的なコストは発生する。

現在のコロナ禍にあって、膨大なワクチン開発費用が投じられているが、
これも数年後、抗体が広がったら、必要なくなる可能性がある。
本来、社会的に維持し、投資すべきは、
今後発生するかもしれない新しいウィルスへの対応ノウハウをオープンにして、
多くの企業がすぐに対応できるような仕組み作りではないだろうか。

点数は、8点(10点満点)。

タイトル:薬の神じゃない!
原題:我不是薬神
製作年:2018年
製作国:中国
配給:シネメディア
監督:ウェン・ムーイエ
主演:シュー・ジェン
他出演者:ワン・チュエンジュン、ジョウ・イーウェイ、タン・ジュオ、チャン・ユー、ヤン・シンミン
上映時間:117分


桃山 天下人の100年(東京国立博物館)

2020-10-23 23:30:00 | 博物館
東京国立博物館にて、
「桃山 天下人の100年」を鑑賞。

室町幕府の滅亡(1573年)から、
江戸幕府の開府(1603年)までの
安土桃山時代の前後に花開いた
「桃山美術」の名品をたどりつつ、
日本人の美意識を捉える展示である。

「桃山美術」の特徴は、
時代の気風にのって
豪壮かつ華美であることだ。
そのカウンターカルチャーとして、
茶の湯のような侘び寂びを貴ぶ文化も
発展した。

また、航海技術の発展により、
これまでは中国経由で
外国文化に触れていた日本文化が、
西洋の影響を直接的に受けるように
なったことも大きな変化だ。

言ってみれば、社会の急激な変化の中で、
カオス状態から生き残ったものが、
この時代の文化と言えるかもしれない。

そんな中、異彩を放っていたのが、
長谷川等伯の「松林図屏風」だ。
世間の喧騒から離れて、
束の間、この画を眺めていると、
時が止まったような感覚になる。
自分だけが雪の中に存在している寂寥感、
いずれ自分も雪の中に溶けて無に帰る、
そういった普遍的な人間存在の無力さを
表しているようにも思える。
逆に、自分の無力さを自覚することで、
やれることをやるしかないと開き直れる。
人間そのものであったり、
芸術を含めた人間の営みの本質を
突き付ける鋭さもある。
静寂の中に狂気を孕んでいる恐さがある。
時代の流れであった豪壮、華美とは
逆方向の作品だが、
奇をてらった訳ではなく、
生まれるべくして生まれた作品と思える。

いいものはいい、というのが感想だ。


KING&QUEEN展(上野の森美術館)

2020-10-23 23:00:00 | 美術館
上野の森美術館にて、「KING&QUEEN展」を鑑賞。
英国王室の歴史を肖像画と肖像写真でたどるという企画で、
大河ドラマをみているような面白さだった。

やっぱり、ヘンリー8世(1491~1547:即位1509)が凄い。
長身で体格に恵まれ、若い時はスポーツ万能だったのが、晩年は激太りし、
自力では動けないので、椅子ごと担がれて移動していたとのことだ。
また、6度の結婚と4度の離婚、妻のうち2人は処刑。
多くの臣下を処刑し、度重なる戦争。
自分の権力を維持するための苦悩の結果であれ、誰も止められないとこうなるのか。
この後、娘のエリザベス1世(1533~1603:即位1509)の時代に英国は大きく発展することになる。

時を隔てて、ヴィクトリア女王(1819~1901:即位1837)の時代からは、
肖像画に加え、肖像写真が使われるようになる。
また、王個人から王家の家族にスポットが当たるようにもなっている。
それに伴って、王家の一人一人が必ずしも品行方正で完璧な人物でなく、
自分の境遇に悩み苦しみながら生きている、良い意味での人間らしさを感じることができる。

レベルは違えど、どこの家族にもあるような、すべての人が感じるような
自ら選べない生い立ちの理不尽さと闘いながら、人生を自分のものとしていく歩みの縮図がここにあった。