森友学園に対する国有地の大幅値引き売却をめぐって、財務省による決済文書の改ざんが発覚した。27日、行われたキーマンの佐川宣寿・元理財局長の証人喚問では、佐川氏は改ざんの動機や自らがどう関わったかは、「刑事訴追の恐れがある」ことを理由に明らかにしなかった。その一方で、首相や昭恵夫人、官邸の「関与」については明確に否定した。根拠を何ら示さずに断言答弁する姿勢も変わっていない。
政権が描く幕引きのシナリオ通り「トカゲのしっぽ切り」の「しっぽ」を忠実に演じようとしているような印象だ。
佐川氏喚問で「幕引き」狙い
真実を知る人物は「隔離」
証人喚問では「刑事訴追の恐れがある」とした証言拒否は少なくとも46回を数える。「刑事訴追の恐れがある」が「文書は消去した」に取って代わっただけで、説明責任を果たそうとしない姿勢も相変わらずだ。
だが国会証人喚問での「訴追の恐れ」で証言拒否できるのは、犯罪行為にかかわる事項だけでだ。そう考えると、証言からいくつもの疑問がわいてくる。
たとえば、昨年3月15日の国会答弁について契約文書を見ていたかどうかを言えないということは、その時点で犯罪行為にかかわるという認識があったということだ。
ならば、佐川氏の答弁に応じて文書が改ざんされたのではなく、2月17日の安倍総理の総理も国会議員も辞めるとの国会答弁を受けて、契約文書の改ざんが同時進行していた可能性を示唆していることにならないか。
これまで「交渉記録も面談記録も消去した」を盾に事前の価格提示を否定してきたが、あの発言は「文書管理規則」を説明したものだという証言にも無理がある。
さらに、国会答弁を大臣官房にもあげていたかと問われて、形式的には大臣官房にあげるが、実質的にはあげていない、という証言も無理がある。
首相や昭恵夫人との「親交」を誇示する籠池夫妻が経営する森友学園に、「便宜供与」が行われたことはなかったのかどうか。
国有地貸し付けから売却に至るまでに、定期借地権設定、「価格非公開」、そして大幅値引きという異例ばかりの「特例的」な案件について、誰が何を目的に指示をして決裁文書の改ざんが行われたのか、はっきりさせねばならない。
その際、真実を知る者が実質「隔離」されていることが真相の解明を妨げている。
与党は、佐川氏の証人喚問で収束を図ろうとしており、昭恵夫人の証人喚問には応じない構えだ。
田村嘉啓国有財産審理室長に「口利き」のファックスを送った総理夫人付けの政府職員の谷査恵子氏は、事態が発覚するや、イタリア大使館一等書記官に異例の昇進をし、海外にいる。
さらに、証拠隠滅や逃亡の恐れのないにもかかわらず、籠池夫妻は、詐欺罪を適用され「容疑者」のまま7ヵ月も拘留されている。
隠ぺい、恣意的データ作り
文書改ざんの横行
政権の「隠ぺい体質」が浮き彫りになったのは森友疑惑だけではない。
安倍政権になってから、証拠になる政府文書を隠す、都合のいいデータを作る、時には政府文書そのものを改ざんする、といった事態が横行している。
安倍首相の「長年の友人」の加計孝太郎氏が理事長をする加計学園の獣医学部新設をめぐる疑惑問題でもそうだった。
昨年7月に、獣医学部新設4条件を満たしているかどうか非常に疑わしいまま、加計学園を国家戦略特区(今治市)の事業者に決定した。この問題を追及されて、松野博一文科相は、2016年9?10月に行われた内閣府と文科省の会合記録文書の存在を否定した。その文書には「総理のご意向」と書かれた文言が含まれていた。
ところが、前川喜平前事務次官が文書の存在を確認すると、文科省は「再調査」で文書があったことを認めた。それでも、「総理の意向」を文科省担当者に伝えたとされた萩生田光一官房副長官(当時)、和泉洋人首相補佐官らは「記憶にない」で押し切った。
さらに、事業者決定を審議していた内閣府の国家戦略特区ワーキンググループ(WG)の議事録でも、常識では理解できないことが起きていた。
事業者決定の前の段階で、今治市職員と加計学園関係者がこの会議に参加していたが、この時の事前参加の記録は「未記載」だった。そして、国家戦略特区WGの「議事要旨」部分について、2016年12月に開示されたものは大半が黒塗りされ、その分量は約2頁ページ半あったが、17年8月の開示分では1ページに短縮されていた。ここでも文書改ざんの疑惑が浮上している。
また安倍首相自身も、加計氏を長年の友人と認め、ゴルフや会食を繰り返していたにもかかわらず、加計学園が特区の事業者に決定したことを正式に決定した「17年1月20日に初めて知った」という。
いかにも不自然な答弁を国会でしたが、それ以前に知っていれば、関係業者の供応接待や便宜供与を禁じた大臣の服務規定(国務大臣、副大臣及び大臣政務官規範)に反することになる。
同じ頃、南スーダンPKOの日報隠し問題も露見した。
陸上自衛隊がPKOで派遣されている南スーダンが実質的に「戦闘状態」に陥っていることが書かれていた「日報」を、防衛省は当初「廃棄済み」としていた。
しかし、その後、電子データが発見されたことを知りながら、稲田朋美防衛相と黒江哲郎防衛事務次官が隠蔽した。隠蔽が発覚して稲田防衛大臣は粘ったあげくに、世論の批判が強まり、ようやく辞任した。
最近では、「働き方改革」で、質問事項の違うデータを“恣意的”に使って、政府は裁量労働の方が一般労働者より労働時間が短いと主張した。
当初、加藤勝信厚労相は、国会などでの追及に対して「個票データはない」としていたが、これも、後日、本省内の地下室から大量のデータ資料が出てきた。
そこには、残業時間の数値が勤務実態と矛盾するなどの「不適切データ」がたくさん含まれており、役に立たない調査であることが露呈した。
このように見てくると、財務省だけ、あるいは佐川宣寿氏ひとりが改ざんをしたとは考えにくい。これは安倍政権の体質の問題だと考えざるを得ない。
内閣府人事局を設置して600名もの霞ヶ関の幹部人事を握ることで、官邸の意向を推し量って、政権の都合のいいように使える「忖度官僚」を生み出し、本来は、中立公平であるべき官僚制そのものを壊した。
国会に出てくるすべての資料は虚偽でできているとすれば、もはや国会審議は何の意味も持たなくなる。
そして、いったん権力を握れば、どんな不正も腐敗行為も行うことができるようになってしまう。国の統治機構そのものが崩壊してしまう事態に直面していると言えよう。
「原発再稼働」でも
首相側近が官邸を仕切る
こうした「崩壊」現象が顕著になったのは、福島原発事故の処理から始まっているように思える。
3月17日付の朝日新聞によれば、福島原発事故が起き、1~4号機が次々に水素爆発を起こしていた2011年3月12日~15日に、松永和夫経産事務次官(当時)は寺坂信昭保安院長に「再稼働を考えるのが保安院の仕事だ」と言い放ったという。
新潟県と東京電力ホールディングスとの合同検証委員会によれば、清水正孝東京電力社長(当時)が、事故を過小に見せるために、炉心溶融(メルトダウン)という言葉を使わないように社内に指示していたとされる。
未曽有の原発事故という危機の状況で、情報の混乱や情報の開示自体が新たな不測の事態を招きかねないリスクを考えざるを得なかった面があったことは確かだ。
だがこれ以降、情報を隠蔽し、内々で物事を進めるやり方に抵抗が薄れ、一部の首相側近が情報を管理し、さらには情報を統治に都合よく使って、ということがひどくなった。
「原発再稼働」でも、今井尚哉政務秘書官を筆頭に、経産省(資源エネルギー庁)や電力会社などの「原子力ムラ」の面々が、公安警察出身の杉田和博官房副長官と戦前の特高警察を礼賛する論文(「外事警察史素描」(『講座警察法』第三巻)を書いた北村滋内閣情報官らと連携して、政権を動かしている。
ちなみに、今井政務秘書官は、昭恵首相夫人付き政府職員で、財務省の田村国有財産審理室長に、森友学園の土地取引について「問い合わせ」をするファックスを送った谷査恵子氏の上司にあたる。
国民に対しても、前言を翻し「嘘」をつくようなことも起きている。
自民党が政権を奪回した2012年12月の総選挙では、安倍自民党は「原子力に依存しなくてもよい経済・社会構造の確立」を掲げていた。
ところが、第2次安倍内閣は発足早々、政府と国会の事故調査委員会の報告書を無視し、フォローアップする有識者会議も設けずに福島原発事故の原因究明を放り投げ、十分な避難計画も整備しないまま原発再稼働へ動いてきた。
そして、2013年9月7日、東京オリンピック・パラリンピックを誘致するために出席したIOC総会では、安倍首相は、福島原発の状況を「アンダーコントロール」と述べ、公然と嘘をついた。
その後も、政府のエネルギー計画策定で、原発を「ベースロード電源」とし、全電源に占める原発の比率を「20~22%」と、「脱原発」の流れを逆戻りさせ、再稼働に邁進していく。
2016年12月9日に、経産省「東京電力改革・1F問題委員会」は福島第1原発の事故処理費用が11兆円から約22兆に倍増したと発表。東電幹部の経営責任や監督責任を問わないまま、処理費用のうち2兆円を税金でまかない、7~8兆円を託送料金に乗せる方針を出したのである。
長年の友人や近い関係者を“優遇”
異論や批判は封じ込める
森友問題をはじめとした様々な疑惑や国民を欺くような背信行為を生み出した背後にあるのは、安倍政権の時代錯誤的なクローニーキャピタリズム(縁故資本主義)にある。
縁故資本主義とは、民主主義的チェックが働かず、権力者周辺に利益がばらまかれる経済体制をさす。
「アベ友」と呼ばれる一部の親しい関係にある人や逆らわない人に利益を誘導する一方で、異論や批判を力で封じ込めてしまうやり方だ。
このことが典型的に現れているのが金融政策だろう。
まず、日銀の政策委員の多くを「リフレ派(インフレターゲット派)」で固めることによって、「2年で」としていた2%の物価上昇目標実現時期が6回の延期を余儀なくされても、「政策的失敗」に対する根本的な批判を封じ込めてしまった。
その結果、いまや日銀の金融緩和政策は出口のないネズミ講のようになっている。
日銀が金融緩和を止めたとたん、株価が暴落し、金利が上昇して国債価格が下落して日銀を含む金融機関が大量の損失を抱え込んでしまう状況だ。
産業政策もおかしな事例が続出している。
新しい生命科学(ニューライフサイエンス)分野で、国家戦略特区の事業者に指定されたのは、鳥インフルエンザの研究実績のある京都産業大学を押しのけて、加計学園獣医学部だった。
加計学園は高齢化した教員構成や設備の不備も指摘されていたが、モデル事業者として選ばれた。
コンピュータ開発では、ペジー・コンピューティング社による補助金の不正受給、詐欺事件が起きた。
スパコンにかかわって成立した国際特許がなく、高度な科学計算論文もなく、実用性がなく民間納入はない、ただベンチマークとなるコンピュータ速度だけを上げるスパコンに100億円近くの資金が注ぎ込まれてきた。
とくに科学技術振興機構(JST)は2週間緊急募集でまともな審査を行ったかも疑わしく、しかも9割返還の必要のない52億円の融資を垂れ流した。
社長の斉藤元章は自ら役員に収まっていくつも会社を作るという手法を使っていた。そして同社への助成金支給を媒介したのは、「準レイプ疑惑」の元TBS記者だと言われているが、この人物も、『総理』という著作で知られ、安倍首相と近い関係が指摘されている。
原発でも、アメリカで相次ぐ原発の建設中止・中断によって東芝が経営危機に陥っているにもかかわらず、政府は、総額3兆円という日立のイギリスへの原発輸出プロジェクトを推進するために、政府系金融機関を使って出資させ、メガバンクの融資についても政府保証をする方針を出している。
福島原発の事故処理・賠償費用を国民負担させている東京電力にも出資させる計画だ。
原発はいまや採算がとりにくくリスクが高い事業で、へたをすれば事業の失敗は国民の税金で後始末を余儀なくされる可能性が高い。
この時代錯誤的な原発輸出を担う日立会長の中西宏明氏も安倍首相と近い関係にあり、しばしば会食する間柄だ。
大手建設会社4社の談合が表面化し逮捕者も出たリニア新幹線の場合も、JR東海の葛西敬之名誉会長が安倍首相の長年の友人として知られている。
安倍首相と友人関係にある人物らが担う事業に多額の国家資金が注ぎ込まれている構図だ。
すでに、日本の産業競争力は衰弱の道をたどっている。
この“縁故資本主義”は、競争力を失った遅れた産業に巨額の資金を注ぎ込んで旧体制を支える一方で、新しい先端産業分野では不正・腐敗行為をもたらしている。
だが公正なルールを失ったところに健全な競争はなく、やがて国際競争力を一層失わせていくことになるだろう。
「一強政治の弊害」は日本経済までも蝕む事態になっている。
(立教大特任教授・慶応大名誉教授 金子 勝)
http://diamond.jp/articles/165153
diamond
安倍政権の終焉を占う指標「首相プレミアム」とは
ほんの2、3ヵ月前までは、2018年の焦点となる「出口」とは、日銀の異次元緩和策からの出口を指していた。しかし、今や、「出口論」の焦点は安倍政権そのものに移っている。
金融政策の出口を“QQExit”と呼ぶとすれば、2018年の焦点は、もはや“QQExit”ではなく、安倍政権がいつ終わるかという“ABExit”だ。なぜ“QQExit”は2018年の焦点ではなくなったのか。また、何を見ることで、「安倍内閣の終焉」の可能性を客観的に見極めることができるだろうか。
金融政策の出口(“QQExit”)は遠のく
低迷する企業の予想インフレ率
“QQExit”が現実味を持たなくなり焦点でなくなった背景の一つは、企業が予想する今後のインフレ率が低迷していることを示している。
例えば、直近の3月の日銀短観における『企業の物価見通し』では、「1年後」、「3年後」、「5年後」の予想インフレ率はそれぞれ前年比+0.8%、+1.1%、+1.1%となった。これはこの1年ほど、ほとんど変わっていない(図表1参照)。
つまり企業は、日銀の「物価安定の目標」である「CPI前年比2%」を、今から5年後においても視野に入れていない。
本来、長短金利操作が導入された2016年9月以降は、企業の予想インフレ率が上振れしてもおかしくない時期だった。
なぜならば、2016年9月以降、円安などで円建て原油価格が前年比マイナスから、一気に前年比プラスに転じ、足元にかけてもプラスが続いているからだ(図表2参照)。それにもかかわらず、企業の予想インフレ率は依然として低いままだ。
大量の資金供給によって予想インフレ率の引き上げを狙う日銀にとって、このことは2018年の“QQExit”がいかに難しいかを考えさせる材料と言える。
2014年、15年に及びそうにない
2018年の春闘賃上げ率
このように企業の予想インフレ率が低迷する中で迎えたのが2018年春闘だ。 しかし賃上げ率は、安倍首相が経済界に「要請」した「3%」にはほど遠い結果になろうとしている。
連合による直近の第3回回答集計(4月6日時点)によると、2018年春闘賃上げ率は2.13%(集計組合員数による加重平均)となっている(図表3参照)。
この状況では、最終的に2018年の春闘賃上げ率は、「3%」はもちろん2%台半ばにも届きそうにない。
それどころかアベノミクス前半の2014、15年の春闘賃上げ率にも満たない可能性が出てきた。
賃上げ率に影響すると考えられる(1)人手不足度合い、(2)企業の利益水準、(3)政府からの期待(ないしプレッシャー)は、いずれも2014、15年よりも2018年の方が強いはずだ。
それにもかかわらず、なぜ2018年の賃上げ率は2014、15年と比べても冴えないのだろうか。
その理由こそが、上述した企業の予想インフレ率の低迷だ。
ベースアップなど固定費型の賃金上昇を企業が受け入れるためには、自らの製品やサービスの売値を引き上げられるという手応えが欠かせない。そのためには、他社も売値を上げるだろうと予想できることが前提となる。
その前提がどの程度、満たされているかをはかるのが、企業の予想インフレ率である。
その予想インフレ率が2014、15年よりも下がった(前出図表1参照)ことが、2018年賃上げ率の足を引っ張ったと推察される。
こうしたことを踏まえると、異次元緩和からの「出口」の判断基準を物価上昇率にしている日銀にとって、2018年の“QQExit”は、現実味がなく市場の焦点でもなりにくい。
「安倍内閣の終焉」のリスクは
潜在的には存在していた
これに対して、2018年の出口論として、にわかに注目され始めたのが、安倍内閣の出口(終焉)つまり“ABExit”だ。
ごく最近まで「安倍一強」と形容されていた政治状況を思い起こせば、2018年の市場にとって、最も大きな環境変化の一つに政治を含めないわけにはいかない。
ただし日本の政治は本当に「安倍一強」だったのだろうかという素朴な疑問をぬぐえない。筆者は“ABExit”が具体化するリスクは、もともと存在していたと考えている。
その理由は安倍内閣の支持構造の特異性にある。
日本初の電話による世論調査として1987年9月に始まった日経新聞の世論調査(したがって時系列データが最も長い世論調査)を見てみよう。
具体的には、(1)内閣支持率、(2)自民党支持率、(3)立憲民主党支持率(過去の値は旧民主党および旧民進党で遡及)、(4)無党派層(「支持政党なし」および「分からない」の合計)に着目した(図表4参照)。
これを見ると、第2次、第3次、第4次安倍内閣のみに見られる1つの特徴が浮かび上がる。
すなわち無党派層の多さである。
安倍内閣(第2次~第4次)の下では無党派層が3~4割も存在する。このような内閣は、少なくともこの30年間には安倍内閣以外にはない。
では、この無党派層はどこから来たのだろうか。その多くは野党支持をやめた人たちだと考えられる。
つまり、確かに安倍内閣の下、野党は支持率を下げたが、野党の支持をやめた人が皆、与党支持に転じたわけではなく、「無党派層」となったと考えられるのだ。
この無党派層の多さにこそ、安倍内閣に対する支持が崩れるリスク、すなわち“ABExit”のリスクが潜在的には存在していたと筆者が考える理由だ。
“ABExit”のシグナル指標
「首相プレミアム」に注目
“ABExit”のリスクが無視できないとすれば、政権末期を示唆するシグナル指標が求められる。
そのような指標として、しばしば参照されるのが「青木の方程式」と言われているものだ。
これは自民党の参院幹事長を務めるなど、党内に強い影響力を持っていたた青木幹雄氏が参照していたとされるシグナル指標だ。
具体的には、「内閣支持率+与党第一党支持率(自民党が与党第一党の時は自民党支持率)≦50」という時に、政権末期が示唆される。
同式に基づくのであれば、いまの安倍内閣については政権末期のシグナルは出ていないと結論付けられる(図表5参照)。
また過去においても、小渕内閣と小泉内閣については、政権末期が近づいている時期でも、同式は終焉のシグナルを発していなかった(小渕内閣は小渕首相が亡くなったことで終わったという点でやや特殊であるが)。その意味で、「青木の方程式」のシグナル機能は高いとは言えない。
さらに、より根本的な問題として、「内閣支持率+与党第一党支持率≦50」の左辺にある「+」が統計的な意味をなしていない、ということがある。
本来、内閣を支持する人と与党第一党を支持する人の多くは同一人物だろう。その同一人物を足すことには「数遊び」としての意味はあっても、統計上の意味はない。
一方で筆者が政権末期を示すシグナル指標として注目するのが「首相プレミアム≦0」だ。
ここで首相プレミアムとは「内閣支持率-与党第一党支持率」と定義される。
内閣支持率から与党第一党支持率を差し引くことで、首相自身に対する支持率を抽出することになる。
この首相プレミアムがゼロ以下となる状況、つまり「首相プレミアム≦0」が政権末期のシグナル指標として注目される。
実際、「青木の方程式」が終焉シグナルを発していなかった小渕内閣や小泉内閣についても、「首相プレミアム≦0」という指標で見れば、政権末期であるとのシグナルが発せられている(図表6参照)。
しかもより注目されるべきは、現安倍内閣も「首相プレミアム≦0」という状況に近づいていることだ。
この意味で、“ABExit”はすでに市場参加者が警戒するべき具体的なリスクとなってきている。
パワーバランスが
政府から与党に
「首相プレミアム≦0」という状況は、「内閣支持率≦与党第一党支持率」という状況に他ならない。
つまり、政府と与党の間のパワーバランスが政府から与党に軸を移すことを意味する。
したがって、安倍内閣の下で「首相プレミアム≦0」となれば、2019年に控える統一地方選挙(4月)や参院選(7月)という重要な政治イベントを、安倍内閣で戦うのは難しいという判断を与党がする可能性が高まる。
つまり“ABExit”である。
辛うじて「首相プレミアム>0」となっている現状では、“ABExit”はまだリスクシナリオの段階だ。
しかし、「首相プレミアム≦0」となった時点でメインシナリオに格上げしなくてはならなくなる。
その意味で、今後、「首相プレミアム≦0」のシグナル機能に注目したい。
(クレディ・アグリコル証券チーフエコノミスト 森田京平)
安倍首相のお友達人事と強権に、身内の自民党から「NO」噴出
森友・加計問題に加えて、財務事務次官のセクハラ辞任などの問題が続出。内閣支持率の急低下もあり、確実かのように思えた今年9月の自民党総裁選での「安倍3選」にも黄信号がともり始めている。政権の求心力の低下に伴って自民党でも、今後の政局を見据えた様々な地殻変動が起こっているという。自民党内で蠢動し始めた反安倍勢力の動向について、政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏に聞いた。(取材・文/清談社)
安倍首相が連発する“お友達人事“に
入閣待機組の不満が爆発か?
第2次安倍内閣が発足して以降、自民党内からは表立って安倍政権への批判は、ほとんど出てこなかった。
「これまでは“安倍一強”の下で、表立って批判すると、人事で報復される場合もあり、反安倍の議員たちの多くは黙っていました。さらに安倍内閣の支持率も高かったために、声を上げることには躊躇もあったと思います。ですが、安倍政権に対して不満がたまっていないかといえば、そんなことはありません。例えば、初入閣を希望している、いわゆる入閣待機組の中堅以上の議員はざっと50人以上いると見ていい。彼らの多くは、安倍政権の人事に不満を持っています」(鈴木氏、以下同)
第2次安倍政権が発足してから、閣僚として重用される議員は稲田朋美元防衛相に代表されるような、安倍首相に近いお友達議員ばかりだった。しかも、お友達議員は再任やスライドも多く、なにかと優遇されがちだ。菅義偉官房長官や麻生太郎財務相のように、発足以来ずっと同じポストに座っている議員もいるので、どうしても人事は停滞してしまう。
「党内には人事に対して怨嗟の声がたまっていきます。また人事だけでなく、政策全般を官邸主導で決めていく強権的な政治スタイルに対して、批判的な議員も少なくありません。元々、自民党にはイデオロギーではリベラルな考え方の議員も一定数いますし、政策でも成長戦略や経済政策など幅広い考えがありますから」
反旗を翻すポスト安倍候補たち
自民党大物OBたちも不気味に蠢く
これまではおとなしかった自民党内だが、財務省の決算文書の改ざん問題が発覚して以降は、党内の空気も少しずつ変わり始め、政権を批判する声が増えてきたという。
「政権が揺らいできたこともあり、このまま“安倍一強”でいいのかという声が自民党内からも少しずつ上がってきています。不満の流れは2つあり、1つは現役の議員たち。代表的なのは、これまでも政権に節目節目で苦言を呈してきた石破茂元幹事長。財務省の改ざん問題でも、ハッキリと批判しています」
ほかに、なんと閣内からも非難の声が上がっている。
「野田聖子総務相です。彼女も、セクハラ問題で麻生大臣に苦言を呈すなど活発です。9月の総裁選への出馬を視野に入れている石破、野田両氏の発言は、安倍首相からの禅譲を狙っている岸田文雄政調会長とは対照的です。小泉進次郎氏も批判的ですが、彼の場合は、これまでも政権批判が目立っていました。また、村上誠一郎氏や、逢沢一郎氏、伊吹文明氏などベテラン議員の発言も、注目され始めています」
内閣の支持率低下に伴い、世論もこうした大物議員たちによる安倍批判に聞く耳を持ち始めている。今後、ますます安倍政権に対して厳しい空気が醸成されていく可能性は高い。
「それともう1つ重要なのは、党内にいまだに影響力を残すOB議員たちの動きです。公文書管理に熱心に取り組んでいた福田康夫元首相も現在の政権について批判をしていますが、かつて、参議院のドンといわれた青木幹雄元参議院議員会長や、山崎拓元幹事長、小泉純一郎元首相なども、活発に会合を行っています。当然、会合のテーマは、ポスト安倍。元々、安倍首相に対して批判的だった古賀誠宏池会名誉会長も含めて、各派のOBたちを中心に反安倍の動きが広がってきています」
新・竹下派結成の裏側は?
大物OBが反安倍に動く理由
中でも注意すべきなのが青木幹雄元参議院議員会長の動向だ。4月19日には、青木氏がかつて所属した平成研究会の会長が額賀福志郎氏から青木氏に近い竹下亘総務会長へと代替わりし、新・竹下派が発足している。
青木氏は、今でも竹下派に強い影響力を持ち、今回の交代劇も、青木氏の息のかかった吉田博美参議院幹事長を中心とした参議院議員たちが主導している。
「この交代劇は、単純なお家騒動ではありません。かつて小渕恵三首相や橋本龍太郎首相を輩出した名門派閥の平成研究会も、ここ最近は影が薄く、存在感を示せていません。そのため額賀前会長に対する不満が高まっていました。そして、このタイミングでの会長交代は、竹下新会長の下で、次の総裁選で派閥としての存在感を出そうという思惑があるからです」
「実際、竹下会長は総裁選について、『安倍3選を支持する場合もあれば石破氏や岸田氏の支持に回る可能性もある』とほのめかしています。これは総裁選キャスチングボートを握ることで、派閥の力を復活させる狙いがあるからでしょう」
活発に動き始めた、青木氏をはじめとする自民党大物OBたちの目指すところは何なのか。
「元々、自民党は保守派からリベラルまで様々な立場の議員がいて、良くも悪くも、党内議論は自由闊達で激しかった。それが国民政党と呼ばれた自民党の強みでした。ですが、安倍政権になり、昔のような雰囲気は失われてしまいました。OBたちが反安倍に向けて動いているのは、“安倍一強”体制が続くことによって、これまでの自民党にあった活力が失われることに危機感を持っているからなんです」
動き出したOBたちの安倍包囲網に対して、安倍首相はどのような手を打ち、3選を目指していくのだろうか。また菅官房長官を筆頭とする安倍周辺の思惑は…。野党が存在感を示せない今、自民党内の反安倍の動きから目が離せない。