Darkness Before the Daylight Blog

鋼の錬金術師、黒子のバスケにまつわる人々、漫画やアニメ、日々の楽しみ、その他つれづれ。

ロイ・たぬたんぐ大佐とエドにゃんのお話(5)

2011-12-14 00:54:31 | 小話

二匹は、それからも旅を続けました。

隣村を越え、また次の村を目指して進みます。

たぬたんぐ大佐はその途上、見つけた本屋や図書館、博物館などには全て立ち寄り、

錬金術についての本がないかを確認しました。

しかしなかなか、目指すものは見つかりませんでした。勉強熱心な大佐のこと、大抵の

本はもう読んでしまっているからです。

また、「自分の性格を直したい人の読む本」なども手に取りました。しかしこれまた、

あまり参考にはなりませんでした。自分の性格に悩んでいる人というのは、ほとんどの

場合、人付き合いをもっと円滑にできるようにしたいのが理由であって、大佐のように

優しい性格が仕事上災いしているというのは極めてレアケースなのです。

猫のエドワードは相変わらず、錬金術の理論上の基礎について教わりながら、

大佐大佐といつもついて歩いていました。

「大佐は本が好きなんだな」

エドワードの耳がひょこ、と動きました。

「だから錬金術がうまいんだな」

ひとり納得し、エドワードはふと尋ねてきました。

「そういえば錬金術の免許って、誰にもらうんだ?」

恐れていた質問です。

「…それは…私の仕えている、たぬきの大総統だ」

たぬたんぐ大佐は、また嘘をつくはめになりました。たぬきのくせに嘘が苦手というのも

困ったものではあります。たぬき寝入りは得意なのですが。

「じゃあ俺が十八歳になったら、その人に会わせてくれる?」

「……わかった」

「じゃ約束な。忘れんなよ大佐」

真剣な顔で念を押されます。指といっても大した長さはないのに、前足どうしをちょんと

くっつけて、指切りまでさせられました。守れもしないであろう約束ばかりが積み重なり、

大佐は内心罪悪感でいっぱいになります。ああ、なんとしましょう。

エドワードは、薄紫色をした実を二つ取り出しました。

「あっちに、おいしそうなあけびがなってたから、採ってきたよ」

季節はいつの間にか秋になり、美味しい木の実がところどころで見つかる時期でした。

「ほら、大佐の分」

小さい手で渡されます。受け取って礼を言うと、エドワードはにっこりしました。

物心ついた頃には捨て猫として暮らしていたエドワードは、このように周りの大人の

仕事や手伝いをすることが、自然な習慣として身についているのでした。そうでなければ、

ここまで生きて来られなかったかも知れません。そんな様子を見ていると、今までに

エドワードがしてきた苦労がしのばれて、大佐は切なくなります。

とれたてのあけびは甘酸っぱく、懐かしい味でした。

「おいしい?大佐」

「おいしいよ」

たぬたんぐ大佐はエドワードを見て唐突に、まるで悪魔のようだと思いました。

あまりに可愛すぎるのです。ここまでたぬき心のツボを突くとは、反則にも程があります。

その笑顔は何もかもを魅了してしまいます。あちこちにこんなふうに愛嬌を振りまかれた

日には、危険で仕方がありません。主に大佐にとってですけれど。

そこまで思い込んでいるのは自分だけとは思い及ばず、たぬたんぐ大佐はエドワードに、

誰彼構わずいい顔をしすぎては良くないと、しっかり教えなければと考え始めました。

そこに、カチカチホークアイ中尉が来ました。どんな方法で大佐の居場所をここまで

正確に把握しているのか、たぬきらしからぬオーバーテクノロジーです。

「こんにちは、大佐。ご無沙汰しております」

「君か」

「はい。今日、ブレダ少尉は非番ですので、私が代わりに参りました」

早速これを、と渡された書類に、たぬたんぐ大佐は目を通しました。

部下たちがたびたび来てくれるので、たぬき社会の様子が大佐にもしっかりと伝わって

いました。よく見るとたぬたんぐ大佐の不在を悲しむ雌たぬきたちの、旅の無事を祈る

寄せ書きまでありました。涙にくれる彼女たちを思い浮かべ、大佐はちょっとだけ

慰められました。こう見えても、大佐は評判の美男狸(びなんり)です。

「こんにちはー」

「あら、可愛い猫さんね。こんにちは」

笑顔で挨拶を交わし、少し向こうでとんぼを追いかけているエドワードを、ホークアイは

見つめました。

「…大佐」

「どうした」

「ブレダ少尉から報告を受けたのですが、あの子猫とは、ずっと一緒に旅をなさる予定

ですか?」

「そうなりそうだ。それから、あれは実は子猫ではないらしい」

「そうなんですか」

「自己申告では十五歳だそうだ」

「…了解しました」

えっまさか、などと言わないのが、この副官の優秀なところです。

「ですが大佐、あの子に錬金術を教える約束をしたというのは、本当ですか」

息をひそめて、中尉は心配そうに言いました。

「猫には、たぬきの化かし技は無理なのでは…」

「たぶん、厳しいだろう」

中尉は少し悲しそうな顔をしました。彼女は今日初めてエドワードを見たのですが、

大佐同様、この子を放っておけないと感じたのです。大佐もたぬきとしては規格外に

優しいのですが、それが伝染したのか、部下のたぬきたちも結構親切なのでした。

「旅はいいとしても、あまり期待させると可哀相ですよ」

「わかっているよ」

失礼しましたと中尉は頭を下げ、エドワードに前足を振りました。

「エドワード君、またね。気をつけてね」

「うん、ありがとう」

それが大佐が旅に出て、一週間後のことでした。

錬金術とは違う、エドワードの持つ不思議な力が花開いたのは、間もなくでした。

………続く………

もちろん「美男狸」などという言葉は存在しません(と思います)さっき考えついた造語です。

ご来訪、拍手、メッセージありがとうございます!

12/12  げーりぃさま

いらっしゃいませ!学園パラレルいつも読んで下さって嬉しいです!

話がちょっと重くなったので、書いていても切なかったですが、また続きを頑張って

いきたいです。ハッピーエンドは保証つきですので!

障子の写真に反応ありがとうございます!家の座敷は物があまりないのはいいのですが、

写真ではよくわかりませんが古い家なもので、とにかく寒くて大変なんですよー。

それから、プラスチック製の障子紙があるとは知りませんでした。紙のものと同じように

張れるんですね。そのうち探してみます!教えてくださってありがとうございました!


最新の画像もっと見る

コメントを投稿