だいずせんせいの持続性学入門

自立した持続可能な地域社会をつくるための対話の広場

合意形成について

2016-05-17 10:00:12 | Weblog

 大学院修士課程の授業「持続可能な地域づくり実践セミナー」で、持続可能な地域づくりの手法とそこに関わる学問のあり方について学習していた時のこと。学生から「市民参加が必要というけれど、様々な利害を持った人たちが参加して、自分の利益を主張すれば、話はまとまらないのではないか」という疑問が出た。そこで、私はそういう場合にはどうすれば合意形成できると思いますか、と聞いてみた。

 面白かったのは、中国人と日本人の学生でそれぞれ特徴的な答えだったことだ。中国の留学生からは、「多数意見を通す」「少数意見の人には個別に説得して妥協してもらう」という答えが多かった。日本人学生からは「いろいろ意見を聞いた上で、客観的な第3者が決定を下す」という答え。それぞれのお国柄というか、現実の政治のあり方が反映されているのだろう。

 中国では全国人民代表大会の巨大な会場が印象的である。中国国家の中枢では常に権力闘争が行われている。多数派が勝ち、少数派は排除される。全人代で何かが議論されているわけではない。多数派の政策を多数で賛同するということだ。

 日本では、政策は議会で議論・決定されているわけではなく、役所が開催する審議会で実質的には決定されている。議会はそもそもその議論に参加できず、予算においてそれを追認しているにすぎない。審議会には様々な業界代表がそれぞれの利害を胸に委員となって参加する。ひとしきり意見を出し合った後は、たいていは大学の先生で「客観的な立場」とされる審議会長が「あとは預かります」となって、役所の担当と最終案を作るという運びとなる。学生がその仕組みの詳細を知っているとは思えないのだが、社会全体の空気としてそういうことになっているのだと思う。

 私が学生たちに話したのは、両者に共通している考えは、個人の利害は固定されていて変わらないものであるということだ。その場合には、全員が納得するということはありえず、合意形成とはすなわち少数意見の妥協ということになる。

 現実の地域づくりの場では、そもそも個人の利害がはっきりしているわけではない。例えば、人口減少が進んで地域が衰退しているという現状をなんとかしようという場合に、人々は自分の何か金銭的な利害得失を考えてその場に参加するわけではない。なんとかしたいという思いは郷土愛のようなものである。あるいは元気な地域で暮らすことが自分の利益と考えるということである。もちろん最初から多くの人が同意してその場に参加する訳ではない。最初は少数のある意味「ものずき」な人たちの集りである。その少数者が何かを考えて、計画を立て、行動する。その結果、やってよかった、周囲もこれはおもしろい、大事なことだ、ということになれば、参加者が増える。小さな実践によって「そうかこう考えれば良いのか、こうやれば良いのか」という気づきが得られ、そのことによって合意が形成されていく。信頼関係が広がっていくと言ってもよい。そういう小さなサイクルを何度も回していくことによって参加者が増え、結果的に地域の中での多数意見になっていく。

 また全員が合意しなくては何もできないというものでもない。行動する人の中で合意があれば良い。合意しない人は、せめて足を引っ張らないで見ていてもらうということだけ合意しておいてもらえばよい。行動の結果によって合意が広がることもあれば、狭まることもある。狭まったとしたら、それは考え方ややり方が間違っていたということであり、考え直せばよい。小さくやっていれば軌道修正は簡単だ。

 実際の地域づくりの現場ではこういうダイナミックな合意形成が起きているのだと思う。そこでは少数意見に妥協が強要されることもないし、外部のエライ人に意見をまとめてもらう必要もない。参加する全員が対等で、信頼を軸に物事が進んでいく。そういう現場に関わることは、時間もエネルギーもかかってたいへんだけど、とても気持ちよい。

 学生たちの答えを聞いて思うのは、日本でも中国でも学校教育の中でこのような合意形成のあり方を学ぶ機会がなかったということだろう。もちろんそれは大人の世界が反映されているのである。多くの人が慣れていないところでこういうプロセスを進めていこうとすれば、現状ではファシリテータ役をする人が必要で、その人の力量によって場が左右される。私の授業はまさにファシリテーションができる人を育てようというのがねらいである。これから学生たちがどう変化するのか楽しみである。

 

 

 

 

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