だいずせんせいの持続性学入門

自立した持続可能な地域社会をつくるための対話の広場

学者っぽくない学者でありつづけること

2012-02-05 02:29:31 | Weblog

 先週は名古屋で、今週は三重県松坂市で、市民向けの講演を行った。講演後、どちらの主催者からも、ほぼ同じ内容のことを言われた。つまり、「大学の先生ではないみたい」、「大学の先生にしておくのはもったいない」・・・・よほど、大学の先生の話は分かりにくいらしく、それに比べて私の話はよくわかったということのようである。かなり微妙な心境であるが、お褒めの言葉として有難く受け取っておきたい。

 最近、ほぼ同じテーマを扱った二冊の本を読んだ。中村元『ブッダ入門』春秋社1991年と、ひろさちや『釈迦』春秋社2011年。どちらも、経典を解読しつつ、ブッダの生涯を追いながら、その教えを伝えるものである。そして、このお二人、東京大学文学部印度哲学科での師弟の間柄なのである。中村氏は岩波文庫に初期仏教経典を多数日本語訳された仏教文献学の巨匠である。ひろさちや氏は東大博士課程卒業後、気象大学校の教員をしていたが、中途退職し、その後はやさしい語り口の一般向け仏教解説書を多数出版されている。

 この師弟対決(?)、私はひろさちや氏のものの方が圧倒的によいと思う。私は別に仏教文献学に興味があるわけではなく、現代の社会や暮らしのあり方を反省し、これを改革していくための心のよりどころとして、ブッダの教えを知りたいのである。端的にいうと、現代の日本にブッダが生きていたら、彼はどう考え、どう行動するか、ということを自分なりに考えたいということだ。そういう観点では、ひろさちや氏の本のほうが参考になる。

 中村氏の本も、ブッダの教えをやさしく解説しようとしているものなのだが、私にはやや違和感があった。中村氏の語り口には、自らの文献学的研究の成果を披露したいという気持ちが汲み取れた。学者が本を書くのなら当然のことである。一方、ブッダの教えの柱の一つは、執着する心を克服するというものだと私は理解しているのだが、私には、中村氏の自分の学問研究の成果に対する気持ちが、ひとつの執着に感じられたのである。
 学問というのは、そういう側面がある。ようはその学者個人のオリジナリティが問われるのが学問である。真理を探究するというよりは、成果を競うのが現代の学問のあり方であり、他の同業者よりも速くすぐれた成果を出すことによって「競争的資金」を獲得し、研究を推進していこうとするのが学者の日々のお仕事である。それは、必然的に「自分の成果」に執着することになる。

 つまり、仏教学者であるということは、仏教信者として生きるということと矛盾してしまう。これがひろさちや氏が学問の世界から足を洗った理由ではないかと私は推測する。

 私たちは社会の近代化の中で、がんばって努力し、業績を出し、それを誇る、つまり自分の成果に執着する気持ちを心の奥底に身に着けた。持続可能な社会を作り出すには、その気持ちを解き放す必要があると私は考えている。本当に大事なことは、自分のものでなくてもよい。むしろ、みんなものであってほしい。私の講演の語り口が学者っぽくなく、いくぶんでも親しみやすいものだとしたら、そういう執着心のなさのせいではないかと思う。

 もちろん、学者としてやっていくためには、成果を出すことが必要だ。そうでなければ、私はともかく、私の指導生たちが卒業できずに路頭に迷うことになる。そういうことについても、ひろさちや氏の解説は明快である。
「-因は縁が調ったとき果を結ぶ-」  (p261)
地域の現実を前にして、単純に、何が本当に大事かということ、どうしたらよいかということを知りたい。その気持ちが因であり、そこにさまざまなご縁をいただいたときに、成果が出る。それは私の成果ではなく、いただいたご縁の成果である。論文に私の名前を載せるのは、ご縁の当座の代表者としてである。そういう気持ちで、日々精進したい。

 

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2 コメント

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ありがとうございました。 (くにとこたちのみあしのもと)
2012-02-09 22:59:33
私はサラリーマンをしております。成果があげられず、苦しんでおりました。「それは私の成果ではなく、いただいたご縁の成果である。」この言葉にはっとしました。事がなるまで、ただ出来る限り努力しよう、なるようになるはず。状況は何も変わらないですが、お言葉にすくわれました。
ありがとうございました。
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Unknown (Unknown)
2012-02-12 05:55:07
こんな感想だけですみませんが、感動致しましたとお伝えしたいです。
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