あやし小児科医院 第2ホームページ

あやし小児科医院第1ホームページに載せきれなかった情報、横道にそれた話題をランダムに掲載します。

「三月を愛さない」 照井翠

2016-03-11 14:46:00 | 地震

「三月を愛さない」

 ここ被災地では、私達は三月を愛さないし、

三月もまた私達を愛さない。

 

三月は凄惨な記憶を蘇らせ、私達の心をずたずたに引き裂く。

二月の後が、すぐに四月であったならと思う。


            照井翠 「釜石の風」より

 


照井翠(てるいみどり)

大震災を題材に俳句を詠む。1962年生れ。岩手県生れ。岩手県遠野市在住。高等学校教諭。俳歴17年。
平成2年「寒雷」入会。以後加藤楸邨に師事。同年「草笛」入会。
5年「草笛」同人。8年「草笛」新人賞、「寒雷」暖響会会員(同人)。
10年第一句集「針の峰」上梓。
13年「草笛賞」優秀賞受賞、第二句集「水恋宮」上梓。
現代俳句協会会員。

 


照井 翠 『龍 宮』 自選五十句


  喪へばうしなふほどに降る雪よ


  津波より生きて還るや黒き尿


  泥の底繭のごとくに嬰と母


  双子なら同じ死顔桃の花


  春の星こんなに人が死んだのか


  なぜ生きるこれだけ神に叱られて


  毛布被り孤島となりて泣きにけり


  津波引き女雛ばかりとなりにけり


  朧夜の泥の封ぜし黒ピアノ


  つばくらめ日に日に死臭濃くなりぬ


  石楠花の蕾びつしり枯れにけり


  気の狂れし人笑ひゐる春の橋


  もう何処に立ちても見ゆる春の海


  しら梅の泥を破りて咲きにけり


  牡丹の死の始まりの蕾かな


  春昼の冷蔵庫より黒き汁


  三・一一神はゐないかとても小さい


  唇を嚙み切りて咲く椿かな


  漂着の函を開けば春の星


  ありしことみな陽炎のうへのこと


  花の屑母の指紋を探しをり


  卒業す泉下にはいと返事して


  骨壺を押せば骨哭く花の夜


  屋根のみとなりたる家や菖蒲葺く


  ほととぎす最後は空があるお前


  蜉蝣の陽に透くままに交はりぬ


  初螢やうやく逢ひに来てくれた


  蟇千年待つよずつと待つよ


  同じ日を刻める塔婆墓参


  流灯にいま生きてゐる息入るる


  大花火蘇りては果てにけり


  人類の代受苦の枯向日葵


  片脚の蟻くるくると回りをり


  すすきに穂やうやく出でし涙かな


  鰯雲声にならざるこゑのあり


  柿ばかり灯れる村となりにけり


  死にもせぬ芒の海に入りにけり


  半身の沈みしままや十三夜


  廃屋の影そのままに移る月


  迷ひなく来る綿虫は君なのか


  雪が降るここが何処かも分からずに


  太々と無住の村の青氷柱


  釜石は骨ばかりなり凧


  寒昴たれも誰かのただひとり

  春の海髪一本も見つからぬ

   浜いまもふたつの時間つばくらめ


  亡き娘らの真夜来て遊ぶ雛まつり


  なぜみちのくなぜ三・一一なぜに君


  ふるさとを取り戻しゆく桜かな


  虹の骨泥の中より拾ひけり