あやし小児科医院 第2ホームページ

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日本小児科学会が出した日本脳炎についての質問書・要望書

2006-08-14 22:50:27 | Weblog
 平成18年7月5日

厚生労働省健康局結核感染症課
課長 塚原 太郎 殿

社団法人日本小児科学会
会長 別所 文雄

 日本脳炎ワクチンの定期接種における積極的勧奨が中止(以下、勧奨中止)されて(健感発0530001号、平成17年5月30日、全国都道府県衛生主管部(局)長宛、厚生労働省健康局結核感染症課長)、1年を経ております。それによれば、当面の勧奨中止であって、よりリスクの低いと期待される組織培養法による日本脳炎ワクチンの供給が出来た時の供給に応じ、接種勧奨を再開する予定である、とされています。

 質問:勧奨中止による影響と今後の動向について
 勧奨中止による影響について、厚労省Q&Aでは
「Q13 今回の措置により、日本脳炎が流行することはありませんか?
 A13 日本脳炎の感染源は日本脳炎ウイルスを媒介する蚊ですが、媒介蚊に刺されたからといって必ずしも発病するものでもありません。また、わが国では1970年代以降患者数は著しく減少しましたが、その理由としては予防接種の普及の他に、蚊のウイルス保有率の減少、環境改善による蚊に刺される機会の減少など複数の要因の組み合わせの結果と考えられています。
 そのために国内の多くの地域では、予防接種を行わなくても直ちに流行する機会は著しく減少し予防接種を行わなくても直ちに流行する機会は著しく減少していると考えられます。また、すでに予防接種をうけている年齢層では、ある程度の免疫を持っていると考えられます。これらのことから、本年予防接種をうけるべき年齢の方が予防接種をうけなくても、日本脳炎に感染し発症する機会は極めてまれと考えられます。」
 と説明しておられます。

 これについて日本小児科学会では、会員に対し見解として、日本小児科学会ホームページにて
「日本脳炎は潜在的危険性を持つ重症感染症であることには変わりがなく、日本にとって長い目でみて今後も必要なワクチンであると考えられます。しかし、ヒトからヒトへと感染が次々と広がる可能性はないこと、都会生活者が多いという現在の生活形態から多くの子供たちにとって感染のリスクが高いわけではないこと、急性脳炎としての顕性発症率は低いこと、などから、稀な副反応を危惧するのであれば、短期間(1年前後程度)広汎な接種はすすめずに、次世代ワクチンの出現を待ってもよいのではないだろうかと考えます。」
 と説明しております。

 最近、日本小児科学会が得た情報によれば、現在承認申請中の日本脳炎の組織培養細胞由来ワクチンは、その実用化には3~5年が必要ではないかということです。
 日本小児科学会においては、日本脳炎予防接種勧奨の中止が短期間(1年前後程度)であれば、日本脳炎発生のリスクが高まることはないという見解を出しておりますが、国は「予防接種を行わなくても直ちに流行する機会は著しく減少していると考えられます」「本年予防接種をうけるべき年齢の方が予防接種をうけなくても、日本脳炎に感染し発症する機会は極めてまれと考えられます」「よりリスクの低いと期待される組織培養法による日本脳炎ワクチンの供給が出来た時の供給に応じ、接種勧奨を再開する予定です」と説明しておられますが、今後さらに3~5年日本脳炎ワクチンが勧奨中止(実質上定期接種中止としている自治体が多い)の状況が継続した時のリスクはどのように考えておられるのかご説明頂きたいと思います。日本小児科学会はそのリスクは1年前後として会員に説明をしておりますが、感受性者の蓄積はそのリスクを高めるものと危惧しております。

要望:
1. 接種希望者への定期接種としての接種について
2. サーベイランスの強化について

1. 今回の措置は、定期接種の積極的勧奨の一時中止であって、定期接種の中止ではないところから、定期接種としての日本脳炎を希望する人に対しては、国はQ&Aによって
 Q16 組織培養法による日本脳炎のワクチンが承認されるまで、日本脳炎の予防接種は受けられないのでしょうか?
 A16 日本脳炎の流行地域へ渡航する者、蚊に刺されやすい環境にある者など、日本脳炎に感染するおそれが高い場合などで、本人又は保護者が特に希望する場合には、今回の措置と日本脳炎ワクチンの効果及副作用を医師から説明を受け、同意書に署名した上で現行の日本脳炎ワクチンの接種を受けることは差し支えありません。
 として、ことにハイリスクあるいは心配な方に対しては定期接種が可能であることを示しておられます。

 日本小児科学会はこれについて、会員に対して日本小児科学会ホームページにて
 感染リスクの高い生活環境にある子どもである場合(ブタにおける日本脳炎ウイルス感染が高い地域での郊外生活、あるいはそのような地域での長期滞在、アジア地域への長期滞在{ことに雨期}など)には、稀な理論的リスクより感染リスクによる健康障害の可能性が高くなるので、小児科医として個別に接種をすすめるという考え方は妥当であると考えられます。この場合、従来の日本脳炎ワクチン定期接種年齢の範囲であれば、従来通り定期接種として扱われます。それ以外の年齢では、これも従来通り任意接種の扱いです。今回の国の決定は、「国による積極的な勧奨は控える」というものであり、日本脳炎を予防接種法による定期接種対象疾患から外したわけではありません。したがってこれまでの定期接種対象となる年齢の小児に対してinformed consentを得た上での日本脳炎ワクチンの接種は、費用の負担、万一の場合の事故の救済などについて、従来通り定期接種としてみなされることは国からの説明でも明らかです。したがって、定期接種としての年齢にある接種希望者に対しては、予防接種の実施主体である自治体は、これに対応すべき責務があり、適切な方法によって予防接種を行う限りは個々の接種医師の責任ではないことも従来通りであると考えられます。
 と説明しております。

 しかし実態は多くの自治体において、実質上は定期接種中止と同様の扱いになっており、希望者が容易に接種できる状況になっていません。これにつきましては、定期予防接種の積極的勧奨の差し控えの通知にある「定期接種対象者のうち日本脳炎に感染する恐れが高いと認められる者等については、・・・・・同意を得た上で現行の日本脳炎ワクチンを使用した接種を行うことは差し支えない」という点について、再度自治体に対して認識すべきことを促し、希望者への定期接種が速やかに円滑容易に行われるよう求められますよう、強く要望致します。

2. 予防接種勧奨中止により感受性者の蓄積があること、そして再開されたとしても三期接種が中止になっているという点から、これらについての妥当性あるいはリスクが生じるかどうかなどについて、医学的に検証して行く必要があります。それらの基礎的なデーターになるのは、サーベイランスによる疾病の動向あるいは、血清疫学調査、感染源としてのブタ調査であります。疾病の発生動向は、既に4類感染症としての日本脳炎(全数報告)および5類感染症急性脳炎(全数報告)、5類感染症無菌性髄膜炎(基幹病院定点報告)で知ることができ、また血清疫学調査、ブタ調査については感染症流行予測調査事業において行われているところでありますが、現在のような状況では、日本脳炎および急性脳炎、急性髄膜炎そして感染症流行予測調査事業における日本脳炎のサーベイラス強化を行い、より精緻なデーターを入手することがリスクの評価、そしてリスク管理の上で重要であると考えられます。この点から日本脳炎およびその関連についてのサーベイランスの強化が行われることを、強く要望致します。



1歳2ヵ月の男児、アトピーで血液検査をしたら貧血が見つかりました   

2006-08-14 22:48:14 | Weblog

Q  1歳2ヵ月の男児です。アトピーかどうか調べるために皮膚科で血液検査をしたところ、アトピーの可能性はなかったのですが、ヘモグロビンの値が9.0でした。説明で貧血が発達に影響するということでしたが、詳しく教えてください。 (K.A 診察券NO.14729 )

A 乳児期で貧血の状態が長期にわたると、身体や精神発達に影響がでることがあります。

1)たまたました血液検査のヘモグロビン(血色素)の値が9.0だったとあります。ヘモグロビン値の単位はg/dlと表示され、100ccの血液中にこのヘム蛋白質が何gあるかを表しています。
この値は大人ですと男性が13~18g/dl、女性では11~16g/dlが正常範囲です。
子どもでは年齢差があり、生後1ヵ月では11.5g/dl以下、3~6ヵ月では10.5g/dl以下、6ヵ月~6歳では11.0g/dl以下が貧血と考えられています。年齢がいくつでも、ヘモグロビン値が10g/dl以下になったら貧血の治療を受けた方がよいです。

2)貧血には原因によりいろいろな貧血があります。このケースではすでに貧血の原因については検査が済んでいると思います。そしてここでは、この年齢で圧倒的に多い鉄欠乏性貧血について話をすすめます。

一般に胎児は妊娠後期に母親から、生後4~5ヵ月位までは外から鉄の供給を受けずに育つことができるに十分な鉄を与えられて誕生してきています。しかし、出生体重が小さい場合、多胎児の場合、出産時に胎盤早期剥離や前置胎盤などの出血があった場合などは、十分な鉄を与えられずに出生しています。したがって、このような場合は、乳児期早期に貧血の状態になってしまいます。

3)乳児では貧血が進行すると、不機嫌、不活発、食欲不振が現れます。これが長期にわたると身体および精神発達が遅れることが生じます。
身長はあまりこの影響を受けませんが、体重は増えが悪くなります。精神発達では知能や言語の発達障害を認めます。ウォルター医師はヘモグロビンが10.5g/dl以下が3ヵ月以上続くと発達障害が出てくると報告しています。

4)母乳は鉄の含有量がミルク(調整粉乳には鉄が添加されている)に比べ少量なので、母乳だけで育てた場合、生後4~5ヵ月以後には鉄が不足することが起こります。そのために、5ヵ月からは鉄分の入った離乳食を与えることが必要となります。低出生体重児では生後2ヵ月から鉄剤の投与を受けるとよいでしょう。

一般に肉・魚などの動物性食品中の鉄の方が、穀物・野菜・卵黄などに含まれた鉄よりも吸収のよいことがわかっています。毎日少量でも、肉や魚を摂取するようにしてください。



無菌性髄膜炎について質問

2006-08-14 22:46:42 | Weblog
 Q 昨年の夏、うちの地域で無菌性髄膜炎がはやりました。この夏、3歳の子どもがかからないために必要なことはなんですか。
(S.H. 診察券No.14638)

A 無菌性髄膜炎とは、髄膜(脳や脊髄を取り囲む膜)にウイルスが感染して発症する病気です。0~9歳にかかりやすく、主に夏から秋にかけて流行します。症状は発熱、頭痛、嘔吐、脱水などが見られます。このほか、(1)無菌性髄膜炎が地域で流行している(2)診察時に首が曲がりにくい(3)両足を伸ばして持ち上げると嫌がる、なども診断の要素になります。

 安静にしていれば後遺症もなく治まりますが、通常、脱水症状治療のために点滴を打つことが多く、入院が必要になります。熱が下がり、嘔吐がなくなれば家で安静にし、1週間ほどして、少し動いても頭痛や嘔吐が再び起こらなければ、通園や通学ができるようになります。

 無菌性髄膜炎の原因の85%は夏かぜを起こすウイルス(エンテロウイルス)で、次にあげられるのが、おたふくかぜを起こすウイルス(ムンプスウイルス)によるものです。

 予防法は、エンテロウイルスの場合、ふん便から人にうつるため、トイレの後の手洗いが効果的です。ムンプスウイルスの場合には、ムンプスワクチンの接種が有効です。ワクチンの接種を受けた後に無菌性髄膜炎を起こすこともありますが、その頻度は自然に感染する場合の100~600分の1と低いものです。

 このように無菌性髄膜炎は比較的治療しやすい病気ですが、同じ髄膜炎でも細菌が髄膜に感染して起こる「細菌性髄膜炎」は、運動障害、知的障害、聴力障害などの後遺症を残すこともある怖い病気です。場合によっては死に至ることもあるため、早急に診察して適切な治療を行うことが重要です。診断には、無菌性・細菌性どちらかを鑑別するため、腰から針を刺し髄液を採取する検査を行います。髄膜炎が疑われたら、できるだけ早く、専門医を受診しましょう。