日本銀行は28日、29日に金融政策決定会合を開催。
新たな金融緩和政策として、いわゆる「マイナス金利」政策を導入することを決めた。
黒田東彦総裁率いる日銀はこれまで、2013年4月に量的・質的緩和を導入。
14年10月には追加緩和を決め、今回で3回目の大幅な政策変更となる。
だが、日銀ウォッチャーの間からは早速、「金融セクターに対する運用収益への下押しは明白。
今回の措置はそうした副作用を我慢して、円安誘導を継続するもの」(第一生命経済研究所の熊野英生・首席エコノミスト)との声があがっている。
政策効果については未知数だ。
マイナス金利の導入案については、9人いる政策委員会の委員のうち賛成は5人、反対は4人。
僅差で採択された。
では、この「マイナス金利」とは、どのような政策なのだろうか。
■ 「マイナス金利」って何?
今回導入が決定された「マイナス金利」政策は、具体的には2月16日以降、金融機関が保有する日銀当座預金(現在はプラス0.1%)の一部にマイナス0.1%のマイナス金利を適用するというもの。
同時に、これまで金融緩和策として進めてきた年間約80兆円の長期国債購入は継続する。
銀行をはじめとした金融機関は、日銀に当座預金と呼ばれる口座を保有し、銀行同士の決済に活用されている。
原則として当座預金に利息はつかないが、08年11月以降、法律で定められた以上に預けている分(超過準備)について、金利をつけることにした。
今回のマイナス金利政策は、この「超過準備」につける金利をマイナスにするものだ。
ただし、金融機関への悪影響を考慮に入れ、当座預金残高を、「基礎残高」「マクロ加算残高」「政策金利残高」の3つの階層に分類し、マイナス金利が適用される残高を「政策金利残高」に絞った。
昨年12月末現在の当座預金残高は、全体で253兆円。
SMBC日興証券の宮前耕也・シニアエコノミストの試算によると、このうち従来のプラス0.1%の金利が適用されるのは221兆円(2015年1年間の平均残高)で、残る32兆円も日銀の導入した仕組み上、ゼロ金利が適用され、現時点ではマイナス金利適用の当座預金はないという。
しかし、今後少しずつマイナス金利の適用対象が増えていくことが予想される。
マイナス金利政策が実態経済に及ぼす効果について、日銀の黒田総裁は「イールドカーブを全般にわたって引き下げ、一方で予想物価上昇率を引き下げることで、実質金利をイールドカーブ全般にわたって押し下げる。
それによって、消費や投資を刺激し、経済が拡大し、その中で需給ギャップが縮小し、インフレ期待の上昇と相まって、物価上昇率を2%に向けて引き上げていく」と説明している。
■ マイナス金利発表で相場は乱高下
29日の午後12時半過ぎにマイナス金利政策が公表された後、株価や為替相場は大きく乱高下した。
日経平均は1万6953円だった前場終値から、一時700円近く上昇。
1万7638円の高値を付けた後、いったん1万6767円まで急落した。
しかし、その後は再び値を戻し、終値は前日比476円高の1万7518円で引けた。
後場だけで高値と安値の変動幅が871円となる、めまぐるしい相場展開となった。
TOPIXの33業種別株価指数騰落率を見ると、マイナス金利による業績への悪影響が懸念される銀行業が前日比マイナス3.5%と下落したものの、それ以外の32業種は軒並み上昇。
特に、ゴム製品、精密機器、輸送用機器、不動産業は、それぞれ前日比100%以上の大幅上昇となった。
為替相場への影響も大きく、1ドル118円台半ばで推移していたドルは120円台に、1ユーロ130円前後で推移していたユーロは131円台後半に、それぞれ円安が大幅に進行した。
(『週刊東洋経済』編集部 山田徹也)
※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。
山田 徹也