じいたんばあたん観察記

祖父母の介護を引き受けて気がつけば四年近くになる、30代女性の随筆。
「病も老いも介護も、幸福と両立する」

パパへ、内緒の手紙。(結婚式旅行記・番外編)

2006-01-23 18:16:18 | 介護の周辺
ねえ、「パパ」、
あの子の結婚式、そして披露宴、見ていてくださった?


パパが、いつも心配していた、あの子。

あの子は、無事、
健やかな女性に成長して

先日、わたしの誕生日に、嫁いでいきました。
 


あの子はね、
あなたの四十九日を送ってからは
一度も、

あなたのことで、涙を見せるようなことは、なかったのよ。

わたしにさえ。



でも、披露宴で、
彼女がママへの手紙を読み上げていたとき、


あなたを喪ったときのことを、言葉にしようとして




一瞬、喉を詰まらせ、泣き崩れたの。




それでも、夫となった人に支えられて、
最後までお礼の手紙を、きちんと読み上げたわ。


ごらんになっていらした?
…どんな気持ちで、見守っていらした?




パパの一番の教え子が、パパの代わりに
ママの傍に寄り添い、「父の務め」を果たしてくれたのよ。


スポットライトに照らされながら
彼ら―あなたの妻と教え子―は、

もういないあなたへと
こころのなかで しずかに 祈りを捧げて
あの場に 立っておいででしたわ。


なんて有難いことなのでしょうね、パパ。

これ以上の、「佳き日のかたち」はなかった―
わたくし、心からそう、思いましたのよ。


おめでとう、パパ。



******************************


そうね、

・・・ここまでの文章には、
ほんの少しだけ、「偽り」が、ございました。


そのことを、あたくし
ここにだけは、こっそり、打ち明けておきたい。

あの子が嫁いでから、ずいぶん日も経ちましたし
・・・もう、わたくしひとりで抱えることも、ありませんわよね?


パパ、


本当は、こんな
報告のお手紙なんて、書くまでもないこと、
わたくし、気づいております。
こんなことは、茶番だわ。


だって、わたくし存じ上げておりましたもの。


あの佳き日、
あの祝福の空間に

確かにあなたがいらしたこと

式場の空気の中へ、分子のなかへ、
こっそりと、溶け込んでいらしたこと

あなたが

あの子とその伴侶を

そしてあの一対の「夫婦」―ママと彼―を
ふんわりと抱きしめていらしたこと


・・・わたくし、ちゃんと存じあげておりましたの。

他の方々がお気づきにならなくても、わたくしだけは。


ですから、
安心なさっていらしてね。

いつでも、そうでしたもの。パパ、あなたは。


**************************


  あらゆる不条理を内包したまま
  それでも、いのちは、連鎖していく。

  生ける人々の営みは、途絶えることなく続いていく。

  ベクトルの向きが、未来へと定められた
  「時の流れ」というエネルギーの、

  ある意味残酷で、そして
  限りなく慈悲深いありように抱かれながら。


  ―それが、この世の成り立ちの、真理。


あなたの姿は、あらゆるところに、遍在している。
そのことに、わたしは、気づいているから

・・・と、

文字にして、ここに書き残しておくことを、

どうか、お許しくださいませ。