じいたんばあたん観察記

祖父母の介護を引き受けて気がつけば四年近くになる、30代女性の随筆。
「病も老いも介護も、幸福と両立する」

結婚式旅行記(5)帰りの道中。

2006-01-25 23:12:53 | じいたんばあたん
新幹線乗り場で、母が、あなご飯を持たせてくれた。


東京方面へと滑りだしたのぞみの車中で、
がつがつと穴子飯を掻き込む。

人目もはばからずぽろぽろ出てくる涙にも、
今だけはお構いなしで。

食べおわったら、…新横浜へついたら、また怒濤の日々。

母の姿や、妹の花嫁姿を思い出して、
存分に感慨にひたれるのも、この、今だけ。

新横浜へついたら、まっすぐ、じいたんのところへ向かおう。
ひとりぼっちで、ただひたすらあたしの帰りを待っていてくれる、
年老いた、いとしい家族―じいたんのところへ。


ビールで自分にお疲れさま、と乾杯。

新横浜に戻るまで、束の間の、羽休め。


*********


新横浜へ到着したのは、午後六時すこし前。

のぞみの車中では、せっかく座れたというのに
ほとんど眠ることができず、ようやくまどろみ始めたころ。

重い頭を振って、肩を叩く。
一歩、ひらり、とホームへと降り立ったら凍みこむ空気。
じいたんの顔が、たまらなく見たくなった。

そのまま、タクシー乗り場へ。

タクシーを拾うと、まもなく携帯に着信。
じいたんからだった。


「お前さん、無事着いたかい?
 今日はおじいさんのところには寄らなくて良いから、
 まっすぐ、部屋へお帰りなさい」

…本当はすぐにでも飛んできて欲しいくせに。

この二日間、電話連絡こそ怠らなかったけれど、
淋しく心細く過ごしていたにちがいない、じいたん。

そんなじいたんの心遣いに、涙が出た。


じいたん、あのね

そんなじいたんだから、あたしは、まっすぐ
あなたの懐へ向かって、走って帰るんだよ。

お土産、あれもこれもって、いっぱい、買っちゃったから、
今から一緒に、ふたりでのんびり、いただこうね。

待っていてくれて、ありがとう。


タクシーの車窓を流れる、夜景を目一杯吸い込み、

わたしは、ぱちん、と
「たま」から「介護猫たま」へ、シフトチェンジした。