第20話 非伝の味

2005年03月01日 23時39分48秒 | Weblog

 おいしいと評判のラーメン屋さんに行った。
「ラーメンと餃子!」
注文を終え、友人と話し始めようとした私の声を店員がかき消す。
気を取り直して、もう一度、またかき消される。
この空気を変えたい!
と頑張ったが、私ごときの笑い話では歯が立たなかった。

店内には店員が二人。一人がラーメンを担当A、もう一人が餃子を担当Bしていた。
AもBも50代くらい。
BはAに怒鳴っていた。私たち客の前で。
B 「ワシかてこんなんいいたくはないんやで、でもな、納得でけへんさかい、言わしてもらうねんけどな、
   何かあったらすぐワシのせいや。
   ものいうたらワシが博打ばっかりしてるようなことぬかしやがって、
   社長もワシのこと目の仇や。
   誰かがあることないこと社長に告げ口しやな、おかしいっちゅう話や。汚いんとちゃうか?影でこそこそと…」
Aは頷いてきくばかり。何をいうでもなく、無言でラーメンを置くと、再び聞き入っている。
私 「うん。おいしい!」
B 「ワシも自分の店もちたいと思ってきて頑張ってきたんや。
   こんなんやったら退職金ももらえるんかどうかもわからん。胸くそ悪い」といいながら、餃子を置いて去っていく。
私 「あ~おいしっ」
Aは反論なし。
もちろん「この話、客が帰ってからせ~へんか?」
もしくは「店の奥で話さなあかんことや。ここで話すんは、良くないて。落ち着けや」と返すことはない。
私、おいしいわけがない。
カウンターしかないその店内で、私の美味しいという声で、
二人の料理人が料理人であることに気づいて欲しかったのだが…
届かない。
B、餃子を焼く鉄板の前で「ワシがな、この鉄板、綺麗に使ことんのを、あいつが使った後はいっつも汚いままや。
  なんべんゆってもなおらへん。後でワシが使うのん知ってて、嫌がらせちゃうんかぁ言うてんねん」
餃子の味が現実味を帯びて生々しく…喉につかえる。
Bが、席をはずした!
私は願った。Aが私たちに向かって「えらいすんまへんな~あの男も悪い男やないんやけど、
今日はちょっと気が立っててな~」と話しかけてくれる瞬間を…たが、Aには全くその気がないようだ。
Bが戻ってきた。
なんと、やっと黙ったBに反論しなかったAの方から再びその話を持ちかけに行った!…信じられない。
また、始まった。
一刻も早くこの店を出たい。
口論をききながら…味など感じないラーメンをすする。

文句を吹き込みながら片手間に作った食べ物は味気ないのに、後味が妙にどろどろとしていて、
しばらくは店を出てからももたれていた。


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