(6)
日本人の大半は、なぜ先祖を辿(たど)ろうとしないのか。
大抵(たいてい)の日本人は3、4代以前(いぜん)の先祖はわからない。というより基本的(きほんてき)に関心(かんしん)がない。無作為(むさくい)に調査(ちょうさ)したとしても、私は、日本人の家庭(かてい)の父方(ちちかた)(母方もそうだろうが)曾祖父(そうそふ)<3代前>以降(いこう)は9割(わり)近(ちか)くの人は答(こた)えられないのではないか、と思える。もちろん、残(のこ)り1割位(ぐらい)の人は、即答(そくとう)できないとしても、それらしき家系図をもっているかもしれない。しかしながら、それなりに信頼(しんらい)できる系図を所有(しょゆう)しているのは、数(すう)パーセント位の割合にしかならないのではないだろうか。それもあまり当(あ)てにならない、と思うが。
現代についていえば、明治とそれ以前の社会体制(たいせい)や制度(せいど)の違(ちが)いが大きく、先祖を追(お)いにくくしている点もあるだろう。ただ問題(もんだい)はそういうことではなく、もともとそれぞれの時代(じだい)の父系的(ふけいてき)基盤(きばん)が弱(よわ)かったため、強力(きょうりょく)な父系制度が定着(ていちゃく)しなかったことの証明ではなかろうか。逆(ぎゃく)な言い方をすると、日本は古代(こだい)より長(なが)く母系社会が続いたため、それぞれの時代の上(うえ)からの押(お)し付(つ)けなどあまり効力(こうりょく)がなかったのだ、と。だからこそ、日本の為政者(いせいしゃ)たちは、父系をたどれる<戸籍(こせき)>制度など作(つく)ることもなかったのだ。