今年は「ラ・バヤデール」の当たり年なのだろうか、新国立劇場バレエ団のだけでなく、6月はKバレエ、7月には世界バレエフェスティバル全幕特別プロとして、毎月のように上演される。
今回発見したのは、2幕で出て来る「坂」の意義である。
「The Atre」の1月号に、こんな指摘が出ている。
米沢唯さん「『ジゼル』のとき、優里ちゃんと楽屋が一緒で少しだけ話をしたの。私は舞台上にあるものには全て理由があると思っているので、『ジゼル』のときも、舞台の奥にある坂道が気になっていました。あれは何を表現しているのか考えたときに、『ラ・バヤデール』の影の王国の坂道を思い出して、坂道はあの世とこの世を繋ぐ坂道なんじゃないか、そんな話をした記憶があります。」・・・
「ニキヤは大僧正から言い寄られても全部拒否して、最後は自分で死を選ぶ。運命に翻弄されても、自分から立ち向かっていく強さがある。」
木村優里さん「その強さが、ガムザッティとのバトルのシーンでも垣間見えるわけですが、ガムザッティからしたら、「私は巫女です」なんて言いながらも立場をわきまえずにソロルと恋仲になって、びっくりするほどしたたかな女性。おとなしい羊の皮をかぶっているけれど、中身はなんならガムザッティより強いかもしれないわけです(一同爆笑)。」
「ラ・バヤデール」の2幕における「坂」は、「眠れる森の美女」の2幕における「川」と同じく、「この世とあの世をつなぐもの」としての役割を果たしている。
この点を押さえると、このバレエの劇的対立を把握するのが容易になる。
つまり、これによって、
・「世俗権力」(この世、宮殿、ガムザッティ)VS.「神=宗教的権力」(あの世、ヒマラヤ、ニキヤ)
・「神に対する『信仰』」VS.「人間への『愛』」
・「『国家』への忠誠」VS.「『個人』への愛」
などという一連の二項対立関係と、この間で引き裂かれるソロルとニキヤのポジションが浮き彫りになるのである。
のみならず、米沢さんが触れていた、ニキヤとソロルを繋ぐ「ベール」の役割も明らかになる。
ソロルが、ニキヤの差し出すベールを握りしめ、彼女に導かれながら「坂」を登るラスト・シーンは、「この世」から「あの世」へのトランジッションを描いているわけである。
それにしても、(今回は配役がなかった)木村さんのニキヤが見たかった!