Don't Kill the Earth

地球環境を愛する平凡な一市民が、つれづれなるままに環境問題や日常生活のあれやこれやを綴ったブログです

5月のポトラッチ・カウント(2)

2024年05月19日 06時30分00秒 | Weblog
 「江戸の芝居小屋・村山座は今日も大入り。ところが上演中に旗本奴水野十郎左衛門の家臣が酔って騒ぎだしたので、町奴の幡随院長兵衛がこれを打ち据えた。十郎左衛門が長兵衛を呼び止めると、長兵衛の子分達が駆け出し一触即発となるが、長兵衛がその場を収める。後日、十郎左衛門の宴に招かれた長兵衛は、女房や弟分たちに別れを告げ、水野のもとへ向かうのだった。

 五月大歌舞伎・昼の部ラストは、「極付幡随長兵衛」である。
 時は17世紀半ば頃、江戸では「旗本奴」と呼ばれる旗本の青年武士らで構成されるギャングと、「町奴」と呼ばれる町人出身のギャングがしのぎを削っていた。 
 前者の代表が水野十郎座衛門、後者の代表が幡随院長兵衛である。
 旗本奴も町奴もいわゆる枝分節集団であり、組織の構成や行動原理は基本的に同じである。
 つまり、1人のトップを擁するピラミッド型組織で、親分は子分を守り、子分は親分のために奉公するというもの。
 序幕「村山座」の場は、いわゆる「劇中劇」で、劇場全体を芝居小屋に見立て、客席から長兵衛(團十郎)が登場するという演出がなされる。
 西洋の芝居にも「劇中劇」が出て来ることはあるが、それに比べても歌舞伎座の演出は秀逸で、客席内の意外なところから次々に役者が登場するくだりでは歓声が上がった。
 この「村山座」で子分たちが諍いを起こした際、長兵衛が仲裁に入り、水野の子分:金左衛門を打ち据えたことが遺恨を残した。
 この場面を見ていた水野は、長兵衛に「覚えておけ」と言い捨てて去り、数日後、長兵衛を自宅での酒宴に招く。
 明らかに長兵衛の命を狙っているのだが、ここでの長兵衛のセリフが面白い。
 「俺が行かなきゃ男が立たねえ
 「恐れて逃げたと言われれば、仲間の恥
 「人は一代、名は末代
などというのは、枝分節集団のトップであるがゆえの発言である(政倫審に出席した某首相を思い出す。)。
 彼は、徹頭徹尾「子分や世間にどう見られるか」という基準に基づいて行動するのである。
 かくして長兵衛は、たった一人で、しかも丸腰で、水野亭に赴く。
 面白いのは、武士であるはずの水野らが、風呂場で長兵衛をだまし討ち的に襲撃するという、武士らしからぬ手法をとったことである。
 対する長兵衛は、槍で襲いかかる水野に柄杓で応戦し、
 「いかにも命は差し上げましょう・・・ここが命の捨て時だ
と潔く殺される。
 これはほぼ自殺といってよい死に方で、紛れもないポトラッチであるが、これによって長兵衛は勝利をおさめ、名声を残した。
 長兵衛の潔い死にざまに対して、水野のだまし討ちは、世間の目から見れば卑怯者のやり方だからである。
  つまり、町人が武士に勝ったのである。
  とはいえ、芝居小屋での実にくだらない諍いがなぜかトップの死につながってしまうというのは、どう考えても異常である。
 この異常さを生んだのは、おそらくは、当時の社会の閉塞状況、つまり、「身分制とそれを支える「イエ」から逃れられないという呪縛」にあったのではないだろうか?
 そして、これこそが、日本人が大好きな「四十七士」を生むこととなったのではないだろうか?

 「・・・問題は、その所属感のすばらしさ・魅力であって、団結した集団が追求する目標の下らなさではなかった。目標は、本来一人の男の私怨と短気に出たことで、相手方十七人を殺し(吉良も含めて)、さらに自分たち四十六人が死ぬことである。しかし誰もその目標を問わないということ。「四十七士」の人気は、日本人が目的を問わずに団結し得る能力を備えているかぎり、無限につづくはずであろう。偉大な人形劇、「忠臣蔵」が画期的であったのは、それが「忠義」の劇だったからでは決してなく、団結の、集団所属感の、つまるところ日本社会の基本的構造の、見事に集中的な表現でそれがあったからである。」(p66)

 確かに、カイシャから課されるノルマがどんなに下らないものであっても、それを同じグループの社員たちが一丸となって追求していくうちに何となくアドレナリンのようなものが分泌され、「集団に帰属することの幸福感」に包まれてしまうことは、サラリーマンであれば誰もが経験していることだろう。
 また、部下が起こした不祥事の件で、「一切の責任は自分にあります」と述べて引責辞任するトップは、長兵衛と同じく、「集団のために潔く犠牲となることの自己陶酔」を感じているのかもしれない。
 いずれも、「集団でしか生きられないという呪縛」に対する反射的行動と見ることが出来そうである。
 ・・・というわけで、「極付幡随長兵衛」のポトラッチ・ポイントは、5.0:★★★★★。

 
 

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