五月大歌舞伎・夜の部の1つ目の演目は、「伽羅先代萩」より「御殿」と「床下」の段である。
こういう、実にわかりやすいあらすじの要約を見つけた!
これも「お家騒動」(お家横領)の物語で、伊達藩で実際に起こった事件を基にしている。
先代の当主:頼兼は放蕩のため隠居させられ、今は幼い鶴千代が当主となっている。
お家騒動の常で、この鶴千代の”ゲノム”を絶やすこと(要するに鶴千代の殺害)が、お家横領を目論む集団(執権の仁木弾正やその妹:八汐ら)の最大の目標である。
伊達家側で頼りになるのは、何と乳母の政岡一人という心もとない状況で、彼女が鶴千代を毒殺から守っている。
この演目では女性が「忠義」を体現しているのである。
そこへ管領:山名宗前の奥方:栄御前が将軍家の遣いとして鶴千代に見舞いの菓子を持ってくるが、これには毒が仕込まれていた。
つまり、栄御前もグルの一味だった。
そこに政岡の息子:千松が入って来て、母の言いつけ通りに毒菓子を食べ、苦悶して倒れ込む。
陰謀の発覚を恐れた八汐は、「幼子と言えどもこの振る舞いは管領への大罪である」として、政岡への面当てのため千松の喉を懐剣で何度も突きまわす。
政岡は、鶴千代をしっかりと抱きしめて、我が子千松が悲鳴をあげながら嬲り殺される様子を見つめる(つまり、助けに入ることはしない。)。
このように、「主君を守るため我が子の命を犠牲に供する場面」が、この段の最大の見どころなのである。
何のことはない、これは、今なお一部の政党や反社集団などで通用している枝分節集団特有の行動原理としての「忠義」=「親分のために子分が犠牲になる」の一つのヴァリエーションに過ぎない。
ただ、現在と違うのは、江戸時代、子どもの命は動物並みの扱いを受けていたという点であり、これは「菅原伝授手習鑑」寺子屋の段とも共通している(3月のポトラッチ・カウント(5))。
「伽羅先代萩」「御殿」と「床下」の段のポトラッチ・ポイントは、主君のために命を捧げた千松と、後で返り討ちに遭って殺される八汐という2人の命が失われていることから、10.0:★★★★★★★★★★。