日盛りの道の上で

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ささやかだけど心に残ること

2011-06-20 15:29:05 | インポート
 題名は意外だが、白い鹿の粘土像の写真があしらわれた装丁は素敵だ、そしてこの真っ白な鹿の悲しみをたたえた目はそのまま、薔薇の刺を触れた時の痛みを伴う物語の中身を表現しているような気がする。

 小川洋子「人質の朗読会」、中南米を連想させる辺境の村で日本人8人が乗ったツアーバスが現地の反政府ゲリラに襲撃され、全員が拉致される。
 数か月の交渉は行き詰まり、人質たちが監禁される猟師小屋への政府軍の突入が実行されたとき、ゲリラのしかけた爆弾により人質8人はすべて死亡してしまう。

 この悲惨なニュースを聞くような物語は巻頭に語られる、したがって、その後に続く8人が閉塞状況の中の朗読会で語る、それぞれの人生におけるささやかだけど大切な物語を、読者は彼らのその後の運命を知った上で読み進むことになる。

そのことが、これから物語を読み進める読者の心理にどのような影響を及ぼすか、作者はもちろんその効果を知っている、そして一人一人の物語の最後に参考的に加えられる、年齢、性別、職業、ツアーへの参加理由までもが細く長く、読者の胸を打つのだ。

恐るべし、小川洋子。
この才能に比肩する作家と言えば、私は向田邦子しか知らない。


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