バリん子U・エ・Uブログ

趣味、幸せ探し! 毎日、小さな幸せを見つけては、ご機嫌にハイテンションに生きているMダックスです。

毎日の冒険 完成版

2015-03-28 20:09:59 | お話 ペットロス
子犬はペットショップで売れ残っていた。
人間社会のルールも、犬の社会のルールも知らない子犬だった。
女は、お腹を空かせて飛び回る子犬に、座って待って、食事をもらうことを教えた。
けれど、期待すること満足することの喜びを、女に気付かせたのは子犬だった。
不規則な勤務時間、長時間の拘束。休日出勤。女は毎日、地下鉄の連絡通路を走って帰った。子犬は女が出勤すると眠って過ごすようになった。そして、帰ってきた女を、光の粉を撒き散らすような喜びの仕草で迎えた。
犬が病気になった時も、女が失恋した時も、一人と一匹で乗り越えた。
一緒にいられる時間は長くはなかったけれど、別々に過ごす時間にも、二人の心にはお互いがいた。毎日の生活は二人で進む冒険の旅だった。


まだ赤ん坊のような子犬だった。
フードはふやかさなければ食べられなかったし、3時間以上起きていることもできなかった。
夫婦は子犬に、家と食べ物と愛情を与えた。
子犬は家の中を成長するもののエネルギーで満たし、マンションを家族が暮らす家庭にした。
毎日の散歩、休日の遠出。泊まりがけの旅行。夫婦は自由に駆け回る子犬に名前を呼ばれると駆け戻ってくること教えた。
子犬は呼べば全力で自分に向かってくる存在のいる幸福を、二人にを気付かせた。子犬はいつも自分の小さな群れを愛し、三人でならどんな所へも上機嫌ででかけた。
町並みが変わり、世紀が変わるのも、三人で見た。日々の生活は三人の冒険の旅だった。


犬は少女の寂しさを慰めるために連れてこられた。
人に良くなついた分別のある犬だった。
犬は、留守番をする少女に、優しく寄り添って、温かい心と体温を分け与えた。
少女が学校から帰るのを辛抱強く待ち、気まぐれに連れ出される散歩でも少女を守って歩いた。
少女が仲間はずれにされた時も、クラブ活動で夢中になっていた時も、犬は少女の傍らにいた。
少女は高校生になり、大学生になり社会人になった。それでも、犬が少女を愛する気持ちは変わらなかったし、少女が犬を愛する気持ちは深まるばかりだった。少女は恋をして犬と一緒に嫁いだ。
たくさんの夢を叶え、家族を増やし、二人は一緒に成長した。めまぐるしく移りゆく日々は二人の冒険の旅だった。


子犬は成犬になり、老犬になった。
そして、ある年、犬の身体は冒険に耐えられなくなった。犬はパーティから離れた。
犬は旅の仲間で、長い年月、たくさんの冒険を一緒にしてきた。
「楽しかったね! 面白かったね!」

犬と暮らした毎日の生活は冒険だった。