バリん子U・エ・Uブログ

趣味、幸せ探し! 毎日、小さな幸せを見つけては、ご機嫌にハイテンションに生きているMダックスです。

詐欺師と愛犬家 完成版

2015-03-17 20:59:51 | お話 ペットロス
あまりいいアイデアには思えなかったけれど、詐欺師はお腹が空いていた。
まぁ、500円くらいなら募金代わりにくれる人もいるだろう。相手が怒ればしゃれで通せばいい。
そう考えて、詐欺師は準備を始めた。準備と言っても、公園で遊ぶ犬の声を録音するだけだった。


最初のかもは、年老いた愛犬を抱いて、いつも公園に来ていた初老の男だった。
「500円くださるのなら、亡くなったご愛犬の声を聞かせてあげましょう。」
詐欺師は一人でぽつんと座っている男に声をかけた。
音声の再生が終わると、男は財布から1万円札を出して、詐欺師に渡し、黙って立ち去って行った。
詐欺師は唖然とした。


二人目のかもは、交通事故で愛犬を亡くし、新しい犬を飼ったばかりの女子高生だった。
「500円くれたら、亡くなった愛犬の声を聞かせてあげるよ。」
詐欺師は新しい犬と弟が遊ぶのをぼんやり見ている女子高生に声をかけた。
音声の再生が終わると、女子高生は財布からありったけのお金を出して、詐欺師に渡し、新しい犬と弟のもとへ走って行った。
詐欺師は唖然とした。


三人目のかもは、いつもにこにこ笑ながら愛犬と公園を散歩していた女だった。
女の愛犬が病気で亡くなったことは、公園の噂で聞いていた。
「亡くなったご愛犬の声を聞かせてあげましょう。500円です。」
詐欺師は買い物袋を提げ、足速に公園を横切る女を呼び止めた。
音声の再生が終わると、女は財布から1万円札を出して、詐欺師に渡し、黙って立ち去って行った。
詐欺師は何となくそうなる気がしていた。そうなる気はしていたけれど、やはり薄気味悪かった。そこで、この仕事は辞めることにした。



もちろん男には、詐欺師に聞かされた犬の声が、自分の愛犬の声ではないことはわかった。
でも、だからこそ、男は気が付いた。
そうだ。愛しいあの子は犬だったんだ。
ヒトより短い寿命を精一杯生きたんだ。


もちろん女子高生には、詐欺師に聞かされた犬の声が、自分の愛犬の声ではないことはわかった。
でも、だからこそ、女子高生は気が付いた。
そうだ。愛しいあの子は犬だったんだ。
いつもどんな失敗も許してくれる。



もちろん女には、詐欺師に聞かされた犬の声が、自分の愛犬の声ではないことはわかった。
でも、だからこそ、女は気が付いた。
そうだ。愛しいあの子は犬だったんだ。
通じ合っていたのは、言葉じゃなくて心だった。



三人の愛犬家達は、見失っていた愛犬の本当の姿を取り戻した。