バリん子U・エ・Uブログ

趣味、幸せ探し! 毎日、小さな幸せを見つけては、ご機嫌にハイテンションに生きているMダックスです。

亡き犬のためのパヴァーヌ 王様編 

2015-04-23 20:42:25 | お話 ペットロス
王様の愛犬が亡くなった。
15年間も王様に仕えた犬だった。
王様は愛犬のために何かしてやりたいと考えた。
大臣は国葬を進言した。
公爵は勲章の授与を提案した。
王妃は、「王様が元気をお出しになることですよ。」と優しく言った。
その他、様々な家臣が様々なことを進言した。
けれど、亡くなった愛犬はそんなことをしても喜びはしない気がした。
その時、王様は思い出した。
犬が初めて命を救ってくれた時、王様は褒美を与えた。犬は大喜びをした。
はて、それは何だったのか。誰の進言だったのか。
王様は一生懸命記憶を辿った。

大臣はパレードを進言し、公爵は食べきれないほどのご馳走を与えることを提案した。
王妃は、「王様がご無事だったことが、この子にとっても何よりですよ。」と、中庭で、犬の首筋を撫でてやりながら言った。その時だった。
「寝室に入れて。」
足元に座っていた犬が言った。王様と王妃は、驚いて顔を見合わせた。
ほどなく、犬の後ろの茂みの陰から庭番の息子が連れてこられた。
「王様の犬は、寝室に入れて欲しいって言ってるよ。」
衛兵に引っ立てられてきた庭番の息子は臆することなく繰り返した。
「この犬は犬舎に入れられると、王様が恋しくて遠吠えをするんだ。放してやると王様のお部屋の下に行って、ずっとずっと敵が来ないか見張っている。」
王様は少年の言葉を、なるほどそんなこともあるかもしれない。そんな犬であろう。と納得した。
犬は王様の寝室に入れられた。犬は大喜びした。
それから、犬は5回も侵入者を捕まえた。犬は身を呈して、王様の身を守った。
けれど、それだけではなかった。王様が不安で気が狂いそうな時、孤独で引き裂かれそうな時、犬はそっと王様に寄り添って、王様の心を守った。それは、王妃も知らない秘密だった。

名犬の誉高い犬はいつも王様の傍に控えていた。犬が王様の傍にいることがあまりに当たり前になっていて忘れていたことを、王様はすっかり思い出した。そこで王様は庭番の息子を呼びにやらせた。
「亡くなった犬は何をしても喜びません。王様、犬は亡くなったのです。」
庭番の息子は立派な青年になっていた。賢明で率直な気性は昔のままだった。
王様はとても悲しかった。しかし、王様は青年の言葉に頷くよりなかった。
「それでも王様が、あの犬に何かをあげたいと思われるのなら・・・・・時間をお与えになってはいかがでしょうか。」
「時間?」
王様は思わず、身を乗り出していた。
「忘れるのではなく、覚えておくのではなく、あの犬が王様の元に、帰ってきたように思い出される時は、そのままあの犬のことをお心に浮かべてやって下さい。その一瞬の時間を犬にお与え下さい。」
いつからか王様には青年の言葉を借りて、愛犬が話しているような気がしていた。
「わかった。約束しよう。確かに、予の犬はそのように愛されるのが相応しい犬だ。」
こうして亡くなった犬は王様と命を分け合い生き続けた。

光る犬、桜の中に住む人 省略版

2015-04-16 20:15:35 | お話 ペットロス
光の中に住む犬がいた。
その犬の周りにはいつも優しい光があって、近付いてきた人も動物も植物も全てが光に包まれた。
光は冬の日の窓ガラス越しの日差しのようだったと、公園で隣のベンチに座った老婆は語った。
光は真夏の木漏れ日のようだったと、公園で子どもを犬と遊ばせた母親が語った。
海が見えたんだ。波間で煌めく光のようだったと、犬が散歩するのを店の中から見ていた美容師が語った。
誰もが犬の毛並みを誉め、陽気で温かい犬の気性を誉めた。
そして、ヒマワリ畑にいると、日差しがいつもより煌めいて感じられるのと同じことだ。
犬の容姿と性格が光の中にいるような錯覚を起こさせるのだ、と人々は考えた。
もちろん、気のせいなどではないことを、犬と一緒に暮らしている女は知っていた。
光は犬の中にあった。眩しく美しい光が犬の中にあって、暗闇の中でも犬はほんのりと光っていた。雨の日の室内でも、犬が歩くと、細かい光の粉が撒き散らされた。
女は犬の優しい光に包まれて、毎日を過ごした。何年も何年も美しい光の中で、犬と幸せに暮らした。そして、ある春の日に犬は光に溶けるようにして消えていった。


女はとまどっていた。
いつか犬がいなくなることはわかっていた。犬といられることは奇跡なのだと気付いていた。
そして、犬が消える時は、一緒に女も消えるのだと思い込んでいた。
けれど、消えたのは犬だけだった。
犬がいなくなっても世界は続き、その上、美しかった。


桜の中に住む人がいた。


  ( 中略 )





犬がいなくなっても、世界は美しかった。
それなら、綺麗なものの中で生きて行こうと女は思った。
  ( 中略 )
桜の絨毯の上を歩きながら女は考える。
たとえば、いつか桜の花びらが舞う中、花びらの絨毯の上を、光を撒き散らしながら犬は駈けて来るだろう。
たとえば、いつか青空の下、青い海に続く白い砂浜を、光を撒き散らしながら犬は駈けて来るだろう。
たとえば、いつか草原の中、自分の背丈よりも伸びた草の波間を、光を撒き散らしながら犬は駈けて来るだろう。
駈けてきた犬を抱きしめよう。
その日まで、綺麗なものの中で生きていこうと。



光る犬、桜の中に住む人1

2015-04-13 01:09:59 | お話 ペットロス
光の中に住む犬がいた。
その犬の周りにはいつも優しい光があって、近付いてきた人も動物も植物も全てが光に包まれた。
光は冬の日の窓ガラス越しの日差しのようだったと、公園で隣のベンチに座った老婆は語った。
光は真夏の木漏れ日のようだったと、公園で子どもを犬と遊ばせた母親が語った。
海が見えたんだ。波間で煌めく光のようだったと、犬が散歩するのを店の中から見ていた美容師が語った。
誰もが犬の毛並みを誉め、陽気で温かい犬の気性を誉めた。
そして、ヒマワリ畑にいると、日差しがいつもより煌めいて感じられるのと同じことだ。
犬の容姿と性格が光の中にいるような錯覚を起こさせるのだ、と人々は考えた。
もちろん、気のせいなどではないことを、犬と一緒に暮らしている女は知っていた。
光は犬の中にあった。眩しく美しい光が犬の中にあって、暗闇の中でも犬はほんのりと光っていた。雨の日の室内でも、犬が歩くと、細かい光の粉が撒き散らされた。
女は犬の優しい光に包まれて、毎日を過ごした。何年も何年も美しい光の中で、犬と幸せに暮らした。そして、ある春の日に犬は光に溶けるようにして消えていった。






犬神ばばぁ 完成版

2015-04-10 20:36:55 | お話 ペットロス
その街には犬神ばばぁと呼ばれる老女が住んでいる。
犬のためになることなら、犬神は街の人々にバカにされても、いやがられても気にしない。
だから、その街には不幸な犬はいない。


「あんたの犬は、庭で繋いで飼われていいような犬じゃないね。玄関先でもいいから、家に入れておやり。」
ある日、突然、呼び鈴が鳴らされ犬神が入ってきた。
男は驚き、そして怒った。
「あんたの犬を家に入れておやり。そうしないと、死ぬよ。」
男に言いたいだけ言わせると、犬神は厳かに言い残して、去って行った。
男は怒り狂っていたが、冷静になると、最近の暑さは若くはない犬の身には、辛くなってきているのかもしれないと思い直した。


「あんたの犬に、まともな食べ物をまともな量やることが必要だね。今すぐその産業廃棄物はお捨て。」
ある日、女が公園で愛犬におやつをやっていると犬神が近付いてきた。
女は驚き、そして犬神を無視した。
「あんたの犬にまともな物を食べさせておやり。それとも、この犬を殺したいのかい。」
犬神はじっと女と犬をみつめると、厳かに言い残して、去って行った。
女は憤慨していたが、冷静になると、獣医からも愛犬のダイエットを勧められていることを思い出した。


男の犬は玄関口に繋がれるようになった。犬は暑さ寒さをしのげることよりも、男の側にいられることが嬉しそうだった。犬は男が玄関を通る度に大喜びした。吠えてはいけないこと、飛びついてはいけないことをよくわきまえた賢い犬で、声を殺し、わふわふと喉声を出し、ちぎれんばかりに尻尾を振っていた。
そのうちに、犬は納戸にしていた部屋にサークルを入れてもらい、家の中を自由に歩き回るようになっていた。気がつくと、男は犬を愛犬と呼んでいた。


「礼を言いに来た。あんたがあいつを家に入れるように言ってくれたおかげで、私たちはずいぶん幸せに暮らしたよ。」
男は犬神が犬を散歩させに来るのを待っていた。あの日から、7年が経った。男の愛犬は男に看取られて、天に召された。
「ふん。本当の目的をお言いよ。いったい何を教えて欲しいんだい。」
「別にその、あの世とか、死後の世界なんて信じちゃいないんだが、」
「話す気がないのならのいておくれ。あたしは忙しいんだよ。」
「心配なんだ。」
三匹の犬を繋いだリードを掴み、立ち去ろうとする犬神の背中に男が叫ぶ。
「あいつは天国で、楽しんでいるだろうか? じっと私を待ち続けているんじゃないだろうか。」
「待っているだろうさ。」
犬神の返事を聞いて男が膝から崩れ落ちる。
「雨の中でも、冬の凍えるような寒さの中でも、息もできなくなるような暑さの中でも、庭でじっとあんたが自分の所にやってくるのを待ってた犬なんだから、待っているに決まっているさ。」
「あぁ、何てことを・・・・、可哀想に、可哀想に、」
男は玄関口で自分が頭を撫でてやる度に、身を震わせて喜んでいた愛犬を思い出して、号泣した。
「やれやれ、何を言ってるんだろうね。」
犬神の連れていた犬たちが、慰めるように男を取り囲む。
「あんたの犬は幸せだよ。あんたの犬はあんたを待って、あんたにほめられることが誇りだった。待つことを誇りに思ってるんなら、それは楽しみだよ。会ったときに、うんとほめてやりゃいいさ。さぁ、ぐずぐずするんじゃないよ。」
犬神は犬たちを急き立てて去って行った。


「その節はありがとうございました。おかげであの子はとても元気に長生きしました。」
女は犬神が犬を散歩させに来るのを待っていた。犬神に言われて女が愛犬の食べ物を見直してから、10年が経った。女の愛犬は女に看取られて、天に召された。
「あぁ、それは結構。さようなら。」
「待って!」
三匹の犬を繋いだリードを掴み、立ち去ろうとする犬神の背中に女が叫ぶ。
「助けて下さい。あの子が天国でじっと私を待ち続けているんじゃないかと思うと、かわいそうでかわいそうで、」
涙ぐむ女を前に犬神が大笑いする。
「あんたの犬は、待てと言われてじっと待ってるような犬だったのかね。死んだって、そう簡単に性格はかわりゃしない。その辺を飛び回って、遊びほうけているよ。」
女は唖然とし、それから、愛犬を貶されたと思って真っ赤になって憤慨した。そして、最後に涙をこぼしながら笑い転げた。
「本当に。あの子はいつも、楽しいことが大好きで、毎日、元気に遊んでいたわ。友だちと走り回ってた。家でだって、イタズラをしたり、おもちゃで遊んだり。わたしのかわいいわがまま娘は、天国でだって陽気に楽しんでいるわ。どうもありがとう。さようなら。」
「大丈夫さ。」
背中を向けて歩き出した女に、犬神が声をかける。
「あんたの犬の帰って行く所は、いつもあんたの所だった。会いに行ったときには、どこからだって駈けてくるさ。また、会える。大丈夫。」


「飼い主が犬を保健所に連れて行くってことは殺処分を依頼するってことだ。わかっているのかい。」
保健所に犬を連れて行くという話を聞きつけて、犬神が家にやってきた。
「来てくれたんだ! 犬神、この子を助けてくれるんだね! この子は、助かるんだね!」
犬神が父親と話していると、家の奥から小犬を抱いた子どもが走ってきた。
「なるほど、この犬はお前の犬なんだね。」
犬と子どもと男を交互に見つめていた犬神がおもむろに口を開いた。
「ぼくの犬です。この子を助けて下さい!」
子どもは必死で犬神に頼み込んだ。父親は小さく、でも確かにニヤリと笑った。
「冗談じゃない。飼い主のいる犬を、何だってあたしが助けなきゃならないんだい。」
父親はおやっという顔をする。
「この犬とお前は契約を結んだ。この犬はお前に全ての愛情を捧げる。お前は何があってもこの犬を守らなければならない。あたしの出る幕はないね。」
「離婚が成立して、向こうもこっちもマンションに移ることになったんで、犬は飼えないんだ。」
父親は焦って口を挟むが、犬神は見向きもしない。
「この子を保健所に連れて行くのは、お前の父親かもしれない。この子に直接手を下すのは、保健所の職員だろうさ。でも、忘れるんじゃないよ。この子を殺すのはお前だ。」
子どもは声を上げて泣き出し、犬は子どもを守るために犬神に吠えかかった。父親は怒り狂っていた。
「お前を愛し信じているている犬を殺すんだ。お前は二度と、一生犬を飼うんじゃないよ。お前は愛されるには値しない人間だ。」
けれど、犬神は動じることもなく、厳かに言い残して、去って行った。


犬神の家には8匹の犬がいる。多い時には10匹以上の犬がいることもある。けれど、犬神の犬は一匹だけだ。犬を家に連れて来て、そのままずっと一緒に暮らして、結果的には看取ることもある。けれど、それは預かった犬だ。犬神は預かった犬を、今の飼い主から預かっている犬と、未来の飼い主から預かっている犬の二種類に分けて考えている。もちろん、大事な預かりっ子だから、大切に扱っている。


「報告に来た。あんたが助けた犬は先月、息子に看取られて13歳で亡くなったよ。」
父親が犬神の家を訪ねて来た。あの日から、8年が経っていた。
「息子は母親に引き取られたが、毎週末、犬の世話をしにやって来た。高校生になってからは、長期休暇の間も泊まり込んで犬の世話をしていたよ。最期の数ヶ月は自分も受験勉強で忙しいのに、犬の看病を最優先にして、しっかり看取った。これで文句はないだろう。」
「さぁね。そんなことは犬に聞いておくれ。」
「いい犬だった。あんたの言うとおり、死ぬまで息子の犬だった。あの犬のおかげで息子はまともな人間に育った。あの犬をおいてやってるだけで、わたしは息子に感謝され、尊敬され、そう。愛されてさえいるようだ。あの犬のおかげだ。」
自分は勝手に人の家に行って好き勝手を言ってくる犬神だが、突然、家にやって来て、滔々と語り続ける父親には辟易した。
「本当にいい犬だった。わたしといる時間の方が長くても、わたしから毎日餌をもらっても、どれだけわたしと仲良くなっても、あの犬の飼い主は息子だった。」
「アハハ、なんだい。そうかい。」
犬神は大笑いしながら家の奥に入って行くと、しばらくして、一匹の子犬を抱いて戻ってきた。
「あんたの犬だよ。」
父親は何がなんだかわからないまま差し出された子犬を胸に抱いた。
「やれやれ、早く言やぁいいのに。あんたは自分の犬を探しに来たのさ。長の預かり、ご苦労さん。あんたの犬だよ。連れてお帰り。」
父親は犬をもらって帰るつもりなんて全くなかった。けれど、契約は結ばれた。父親は何があっても胸に抱いた温かく頼りない生き物を守ると決意していた。犬は全ての愛情を彼に捧げるだろう。今、父親が胸に抱いるのは自分の犬だった。


ところで、女も犬神が保護した犬と暮らしている。
犬を引き取る時に女が出した条件は一つだけだった。
「あの子と相性の良さそうな犬をお願いします。」


その街には犬神ばばぁと呼ばれる老女が住んでいる。
犬のためになることなら、犬神は街の人々にバカにされても、いやがられても気にしない。
だから、その街には不幸な犬はいない。
そして、普段は犬神のことを眉をひそめて遠巻きに見ている人々も、愛犬を亡くし、辛くてたまらなくなるとこっそりと犬神の元を訪ねる。

犬の後悔

2015-04-03 14:20:40 | お話 ペットロス

女は奇跡を引き当てた。
女の前には魔人がいて、女の願いを聞いてやろうと言った。
「あの子を生き返らせて。」
「世界中の財宝も、最高の恋人も、不老不死だって、なんだって望みのままだ。犬がいいのなら、世界一賢くて美しい犬を出してやろう。」
「あの子を生き返らせて。」
女はためらうことなく、亡くなった愛犬の再生だけを願った。
魔人は虚を突かれ、沈思黙考していた。
「亡くなったものを、生き返ることはできない。ただし、大きな悔いを残している場合だけは、悔いを晴らすために生き返ることができる。」
「あぁ、悔いならいくつでもあるわ。もっとかまってやればよかった。毎日、何度でも散歩に行ってやれば良かった。早く病気に気づいてやれば良かった。・・・・・・」
女は認めたくなかった様々な事実を泣きながら並べたてた。
魔人は慌てて、女の言葉を遮った。
「お前の悔いをいくら並べてもしょうがない。お前の犬が後悔していることを見つけるんだ。」
女ははっとした。数え切れないほど後悔し、それと同じ数だけ亡くなった愛犬に謝ってきた。それでも、愛犬が何を悔やんでいるのかは考えたことがなかった。
ー美味しいものをたくさん食べたかった?
ママは美味しいものをたくさんくれたよ!
ー海岸を自由に駈けたかった?
ママと一緒に駈けまわったよ!
ー毎日、一緒にいたかった?
ママと毎日ネンネしてたよ!
何を考えても、女に思い浮かぶのは愛犬の明るい笑顔ばかりだった。そんな明るい気性の犬だった。
ーもっと長生きをしたかった?
・・・・・ そして、女は気付いた。愛犬が後悔するとしたら、それは、一緒に生きて欲しい、戻ってきて欲しいという、自分の願いに応えられないことだけだと。病気の床でさえシッポを振ってくれた、あの勇敢で明るい愛犬の一生に付いた、唯一の染みは自分自身なのだと。
ようやく、女には自分のするべきことがわかった。自分は自分のために病気と戦ってくれた、愛犬に報いなければならない。
女は涙に咽びながら、魔人に答えた。
「彼は彼の命を悔いなく生きました。」
「お前の願い、聞き届けた。」
魔人は決まり文句を残して、姿を消した。

女はまだ気付いていない。
けれど、女の心には愛犬と過ごした優しい日々が戻ってきていた。

生きめやも 完成版

2015-04-02 20:50:34 | お話 ペットロス
あの子といた毎日は幸せだったな。
女は買ったばかりのリングを指にはめて呟いた。
女の毎日は決して不幸ではなかった。
けれど、幸せでいるためには次々と新しいプレゼントを自分に与えなければならなかった。
ワンピース、おしゃれなカフェでのランチ、サンダル・・・
あの頃は違った。
優しく揺れるシッポ、膝を駆け上ってきてくれるkiss、一つの毛布にくるまって眠る穏やかな時間。
女は亡くなった愛犬が毎日、自分に数え切れないほどのプレゼントをくれていたことに気がついていた。


あの子とがいた毎日は面白かったな
子どもは夢中でしていたゲームをセーブしながら呟いた。
子どもの毎日は決して退屈ではなかった。
けれど、愉快でいるためには次々とツールを出してこなければならなかった。
スマホ、コミック、DVD・・・
あの頃は違った。
飛ぶようにかけてくる毛のかたまり、いつまでも続く“持って来い”、いつの間にか始まるおにごっこ。
子どもは亡くなった愛犬が毎日、自分に数え切れないほどの楽しみを与えてくれていたことに気がついていた。


あの子といた毎日は賑やかだったな。
男は缶ビールのプルトップを開けながら呟いた。
男の毎日は決して孤独ではなかった。
けれど、笑顔でいるためには何度も自分の心を支えなおさなければばならなかった。
飲み会、差し入れ、おごり・・・
あの頃は違った。
日向の匂いがする柔らかい肉球の感触、どんなに遅くなっても出迎えてくれるツメの音、視線を合わせるだけで聞こえてくるはしゃいだ息づかい。
男は亡くなった愛犬が毎日、自分にたとえようもないほどの大きな敬意を示してくれていたことに気がついていた。


あの子は逝ってしまった。
それでもみんな、生きていく。
愛犬がくれたものを抱きしめて生きていく。
愛してくれてありがとう。

生きめやも3

2015-04-01 20:47:52 | お話 ペットロス
男は缶ビールのプルトップを開けながら呟いた。
男の毎日は決して孤独ではなかった。
けれど、笑顔でいるためには何度も自分の心を支えなおさなければばならなかった。
飲み会、差し入れ、おごり・・・
あの頃は違った。
日向の匂いがする柔らかい肉球の感触、どんなに遅くなっても出迎えてくれるツメの音、視線を合わせるだけで聞こえてくるはしゃいだ息づかい。
男は亡くなった愛犬が毎日、自分にたとえようもないほどの大きな敬意を示してくれていたことに気がついていた。