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Mooの雑記帳

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3月13日(水) 青年劇場「星をかすめる風」

2024-03-13 09:39:31 | 日記

昨夜は北アルプス市民劇場の例会。お芝居は青年劇場「星をかすめる風」でした。
何の予備知識もなく、ああ例会かという軽い気持ちで会場に足を運んだのですが、終わってみると、曰く言いがたい心のざわめきがなかなか収まらなかった。

それは、過酷な環境だが希望や憧れを捨てないリリカルな詩とそれを紡ぎ出す詩人の魅力的な人間性であったり、天皇制支配下の権力の末端にあっても芸術の力を信じる官吏の姿であったり、全く逆に、権力に取り込まれ人間性を失って単なる走狗となる人間の愚かさ、醜さであったり・・・

尹東柱の詩を随所にちりばめながらも、世界の詩人の名前があふれ、シューベルト「冬の旅」のピアノ演奏が入り、さらに終わり頃には囚人たちをも巻き込んでVa,pensiero(ヴェルディ、Nabucco第3幕)が歌われる。これには正直まいりました。

終戦間際の福岡刑務所を舞台に繰り広げられる看守と囚人たち、医者をめぐる重苦しく息が詰まりそうな前半の進行が、後半の伏線となり次第にすべてがつながっていく。
朝鮮人の詩人尹東柱(ユン・ドンジュ/逮捕時は同志社大学の留学生)の生み出す「コトバ」の力が看守をも動かす一方で、上層部の非人間性、俗物性によって死に追いやられる。人間にとっていかに文化・芸術の力が必要であるのか、どれほど大きな力を持ち人々に勇気、やすらぎを与えるかを、あの戦争末期の日本を舞台に鮮やかに描き出していた脚本と演出は見事でした。

ユン・ドンジュの生涯を描いた映画の情報はこちら
イ・ジュニク監督作品のこの映画「空と風と星の詩人」では、日本で逮捕され福岡刑務所に入れられるまでの取り調べの過程を縦糸としながら、ユン・ドンジュとその仲間たちの生涯を朝鮮と日本を舞台に描いている。ただ、芝居のように福岡刑務所内での看守との関わりを示すものはほとんどなく、ただ取り調べの非人間的な扱いを際立たせているだけなので、韓国の人々には暗い時代を清冽に生き抜いた青年の姿を通して、自国の過去の歴史を学ぶ意味は大きいかもしれない。

一方、芝居の原作であるイ・ジョンミョン著「星をかすめる風」は全くのフィクションであって、舞台は福岡なので多少は日本人を喜ばせる物語であるのかもしれない。作者は「史実や事実よりも美しい虚構を書きたい。それを読んだ人がこれが本当に真実ならば……と思うような虚構を書いていきたい」と語っているように、私たちの空想の翼を広げつつ、史実に迫る力を持った小説や映画が生まれているのは心強いことだ。

日本でも、自らの歴史の闇から目をそらさず、そこには軍国主義に染まり人間らしさを失ってい悲劇とともに人間への信頼や愛も息づいていたことをあぶり出していく作品が待たれる。

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