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🌞・紫陽花記

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別館★写真と俳句「めいちゃところ」
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5 対策

2023-01-08 08:18:02 | 著書・夢幻★すみれ五年生


 すみれは、ベッドに仰向けになって考えていた。前の学校でもそうだったが、転校した今の学校でも何故自分がいじめの対象になってしまうのか。
 パパが居ないせいだろうか? いや、自分以外のパパの居ない子だっている。その子はいじめには遭っていないようだ。自分は転校生だからか? だとすると、前の学校でのことはそれに当たらない。クラスで一番背が低いせいか? 同じような小柄な子でもみんなの仲間に入っている。無口のせいか?……千秋みたいに、スピードの有る話し方は出来ない。珠恵みたいに大人のような言い方は出来ないし、久美みたいに大きな声でもない。だから、いつも他の子より出遅れて黙ってしまう。だからだろうか?……。
 すみれはため息をついた。何とかいじめに遭わない対策を考えなければならない。悔しいと思っても、いつも言葉を飲み込むばかりの自分を変えなければ、いつまでもいじめの対象になっていなければならない。
 そうだ発声練習をしよう。はっきりした言い方で、早口で大人の女性のようになろう。
 すみれは起きあがりベッドに正座した。両手は後ろで組む。胸を張って声を出した。
「あ、あ、い、う、え、お、お」
 口を大きく開けた。腹式呼吸を音楽の時間に教わっていたのを思い出しながら声を出す。
 祖母の竜子は、日曜日だがパートに出かけた。自分一人のアパートの部屋に声が充満する。両隣の部屋には誰もいないのだろう。人の気配がしない。自分が黙ると、途端に近くの鉄橋を渡る電車の音が聞こえた。
「あ、か、さ、た、な、は、ま……」
 すみれは、何度も繰り返しているうち、鼻の奥がツンと痛くなって涙が湧いてきた。




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著書・夢幻に収録済み★連作20「すみれ五年生」が始まります。
作者自身の体験が入り混じっています。
悲しかったり、寂しかったり苦しかったり、そのどれもが貴重なものだったと思える今日この頃。
人生って素晴らしいものですねぇ。
楽しんでお読みいただけると嬉しいです。
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4 赤飯

2023-01-01 06:11:02 | 著書・夢幻★すみれ五年生


明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
引き続き「すみれ五年生」をお楽しみいただけると嬉しいです。




「すみれ、大人になったのよ。お祝いしようね。お赤飯を炊こう」
 祖母の竜子は、整理タンスの小引き出しを開けてビニール袋を取りだした。
「リュウちゃんの使った残りがまだ捨てずに有ったわ。これを使いなさい」
 すみれは、無言で受け取った。千秋たちが、休み時間に小声で話していたことが、やっと自分にも経験することが出来た。そう思うだけで、下腹の疼きが心地よいものに変わるような気がした。竜子の、使い方の説明は聞かなくても分かっていた。千秋たちの話は耳に入っていたから。ただ、その時は何のことか分からなかったが、今思えばこのことだったのだ。
「すみれ、体を大切にするのよ。大切にして、いいお嫁さんになるのよ。それまでリュウちゃんは頑張るからね」

 すみれは、母親のことを思い出していた。お嫁になることは、ママのようになることだ。ママは自分を置いてパパ以外の男の人と一緒に暮らしている。自分はもし自分のような娘がいたなら、絶対置いてなんかいかない。でも、もし自分がママと一緒に行ったとしたら、リュウちゃんは独りになってしまう。だから、自分だったら、パパ以外の男の人とは、絶対一緒に暮らさない。リュウちゃんとママと三人で暮らす。と思った。 
「さぁ、お赤飯ができたわ。ママが知ったら驚くでしょうね。すみれもとうとう大人の仲間入りをしたわって」
 すみれは聞こえないふりをした。ママのことは一番聞きたくないことだ。竜子はすみれの様子に気づき、それ以上は言葉を発しなかった。すみれの赤飯を食べる様子を見て自分も口に入れた。




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3 腹痛

2022-12-25 08:47:22 | 著書・夢幻★すみれ五年生



「すみれ、どうした?」
「すみません。お腹が痛くって」
「大丈夫か。先生も学生の時、試験というと腹が痛くなって、お袋に……あ、ごめん。さ、二時間目に間に合ったのだから、いいさ」
 夏木先生はすみれの頭を撫でた。
 すみれはクラスメートの視線を避けるように自分の机に向かった。千秋の横を通ったとき、千秋が言った。
「すみれ、先生に優しくされたかったんじゃないの。お腹が痛いなんて嘘でしょ」
 千秋の後ろの席の珠恵がすみれの右腕を突いた。
「甘えてんじゃないの」
 久美が威嚇するように顔を近づけた。
「調子乗ってると……」
「こら、お前たち、仲良くしなきゃ駄目だろ。さ、みんな席に着きなさい」
 夏木先生が大声で言った。

 すみれは、なんとなく下腹が疼いていた。仮病をついた罰だなと思いながら、給食を摂っていた。千秋がすみれと目が合うと、大げさに目をそらした。珠恵と久美が大声で笑った。いつものことだと思いながら、腹立たしい気持ちを抑えた。
 放課後の教室の掃除は、なるべくあの三人には近寄らないようにした。下腹の疼きは遠退いたようである。
 学校からの帰り道、またポピー公園に行こうと思った。学校から住んでいるアパートまで十五分かかる。公園はその中間地点から南に二十分くらい行った所だ。
 歩きながら下腹の痛みが強くなって、内股に生温いものが流れる感じがした。すみれは、方向を変えアパートに帰ることにした。




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2 友達

2022-12-18 08:35:38 | 著書・夢幻★すみれ五年生


「だぁれもいない」
 すみれは小石を蹴った。
 アパートから遠く離れたポピー公園にはじめて来た。以前住んでいた家の近くにあった公園と同じような風景だ。
「学校はどうした?」
 すみれの後ろで中年の男が聞いた。頭の薄い背広姿だ。すみれは口を閉じたまま後ろにさがって身構えた。
「良い天気だな……」
 男はベンチに腰を下ろすと、改めてすみれの顔を見た。
「何年生?……ん、ああ、おじさん怪しげに見えるか。そうだろうな」
 男は声を出して笑うと呟いた。
「おじさんは暇を持てあましてね。失業中なんだ。いや、まだ分からないか意味が」
「分かるよ。だって、リュウちゃんもなかなか働くところが無くて失業中って言っていたもの。あ、今はパートに行っているけど」
「お話してくれたね。リュウちゃんって? お祖母さんなのか。学校は? どうした」
「行きたくないんだ。行かないとリュウちゃんがかわいそうだとは思うけど」
「二人暮らしか?」
「うん、越して来たばかり。友達はいない」
「友達はそのうち出来るよ。今日、おじさんと友達になったように。さ、学校へ行きな」
 すみれは、このおじさんは悪い人ではなさそうだと思った。ランドセルを揺すり上げた。
「学校へ行こうっと」
「ああ、そうしなさい。良い子だね」
 すみれは走りながら、先生になんて言おうか考えた。二時間目には間に合うだろう。お腹が痛くて遅れたことにしよう。




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1 すみれ五年生

2022-12-11 08:47:48 | 著書・夢幻★すみれ五年生


「学校に行かないと。遅れるよ」
 五年生のすみれは、祖母である竜子の横顔から窓に視線を移し、聞こえないふりをした。
「遅れるわよ、早くしなさい」
 竜子は、パートに行く時間が気になるらしく時計を見た。
 パパの遺影に手を合わせ、ゆっくりとランドセルを背負う。スローモーションで靴を履く。かかとを引きずって玄関を出た。
 竜子がすみれの後を追い玄関で見送った。
「気をつけて行ってらっしゃい」
 すみれは心の中で『行ってきます』と、言ったが言葉には出さなかった。
 学校近くの信号でクラスの女子三人と出会った。「おはよう」と、声を掛けようとしたら、三人が一斉に走り出した。
 竜子は五十八歳。すみれには『リュウちゃん』と呼ばせ、スーパーの品出し係をしている。仕事を終え、帰宅するのは午後の七時近かった。

「友達は出来たの?」
 すみれは聞こえないふりをした。
「先生は優しくしてくれる?」
 黙ってハンバーグを口に押し込んだ。ため息をついた竜子は、無言でご飯を口に入れた。
 父はいつ頃死んだのだろう? 物心付いたときには居なかった。
 母は新学期が始まる前に出て行った。竜子はすみれを抱きしめて言った。
「ママに幸せにって、言ってあげようね」
 それから竜子と二人で、この春ここへ引っ越してきた。前の学校でのいじめより、まだ、ましだと思うことにする。
 明日はきっと、友達が出来るかも知れない。少し離れた公園に行ってみよう。良い友達が出来るかも知れないから。



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