●〔15〕立川キウイ『万年前座-僕と師匠・談志の16年-』新潮社 2009(2010.02.02読了)
○内容紹介
桃栗3年、柿8年、キウイは前座を16年。あの「立川流」に、落語史上最強の落ちこぼれがいた。名はキウイだが、ビタミン不足は否めず、談志へのしくじりも数知れず。前座16年、その泣き笑いを一席。
立川キウイについては、立川志加吾『風とマンダラ』を読んで、興味を持っていました。折りよく本書が出たので、早速読みました。いろいろ突っ込みどころもあり、結構面白く読むことができました。
立川キウイについては、毀誉褒貶が激しいようですが、朝日新聞の「ひと」欄にも登場し(2010/01/27)、また真打ち昇進も決まったようで、めでたいですね。とにかく、一度立川キウイの落語を聞いてみたいものです。
○「脱北」
さて、関東では、落語界の団体は「一党一流二協会」だなんてこと言いまして、まず「一党」。これは、三遊亭圓楽師匠率いる圓楽党で、今の圓楽一門会でございます。
で、「一流」。ここが私が所属しております、談志率いる立川流。「二協会」とは、落語協会(落協)と落語芸術協会(芸協)で、落協は鈴々舎馬風師匠が、芸協は桂歌丸師匠が会長です。
これが関東の落語家の勢力図といいますか、分布図でございます。
で、わが立川流を、この勢力図の中で今の世界情勢に例えますと、立川流は「落語界の北朝鮮」と呼ばれておりまして、だから「師匠」というよりは、「将軍様」といったほうがいいかもしれません。
なので「破門」ではなく、「脱北」みたいな。
ちなみに、私は過去三回、脱北したんですけど、その都度、戻ってきましてね、実に将軍様に従順な人民なわけでございます。(pp.2~3)
○ネット上で
ベロベロにはならない程度に家に帰って、かといって眠れず、PHSに手を伸ばしてネットで自分の評判を検索してみます。
まぁ、本当に、実に多方面から叩かれてます。ネットはまさに人の心の闇というか、今を一番反映している時代の敵ですね。要はイジメなんですけど。
〈立川流のガン〉
〈基地外。早く自殺でもしろ〉
〈また破門になる日が楽しみ〉
まぁ、とにかく色々です。
「キウイさん、これも有名税ですよ」
そう慰めてくれる人もいましたが、僕のどこが有名なんだと、逆に疑問がわいてきます。ただ、前座を十何年もやってるんですから、どんな馬鹿で、どんだけダメな奴なんだろうってことで、遠慮なく叩ける対象ではあったと思いますよ。
「反論するなら、二つ目になってから言ってみな」
そんな感じだったんじゃないでしょうか。そして、前座の僕は何も言い返せない……。
「ちっくしょー!」
こんな気分の夜です。書き込みこそしないけれど、自分のブログにはその怒りはぶつけられます。すると、またそれでネットに火がつく。そんなのは相手にせず、毅然としているのが一番なのでしょうが、すぐムキになる性分もあって、僕はネットで格好の標的になりました。
ネット上での批判や中傷の数は、師匠も含めた立川流一門の中で、他の追随を許さなかった僕。限られた世界とはいえ、名の知れた存在となりました。悪名は無名に勝る、かもしれません。(pp.196~197)
この件に関しては、ウィキペディアの「立川キウイ」の中に以下のような記述があります。
個人情報の漏洩
2000年ごろからPHSを使った長文の日記を公式サイトにほぼ毎日のように投稿していたが、他人の個人情報が漏れるような知人からの電子メールの無断転記や、アルバイト先のバーに訪れた芸能人の内輪話を勝手に公開するなど、内容に関してはサイトの管理人からもたびたび苦言を呈される。
現在の公式ブログにおいても、他人からのメールの無断転記をしては周囲の人間やインターネット上で注意・非難、その後謝罪するもの、また無断転載することを繰り返している。近年は2ちゃんねるなどから度々批判されるためか、「これは許可を取ってあります」と断った上で掲載したり、知人の顔写真を目線で目を隠しながら掲載することが多い。
ブログ運営
前述の旧公式サイトにて、つげ義春の作品から内容を剽窃した日記を書いたとして2ちゃんねるで指摘された。この点について2ちゃんねらーが気づくかどうかわざと書いてみたという旨の日記を翌日書き、盗作ではなく日頃自分に批判的な2ちゃんねるを挑発し、2ちゃんねらーの知性の程度を図るためにするために書いたのだと発言する。再び他人の映画評をほぼそのまま引き写し盗作したとして掲示板に批判が殺到した。盗作ではなくただの引用・紹介だとする擁護論もあった。批判を無視したとしてキウイの態度にさらなる批判が殺到し、掲示板は閉鎖に至った。出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
○落語の美学
文字助師匠は、落語の美学の塊のような兄弟子で、本当に落語家らしい落語家だと思います。
文字助師匠はアパートに一人暮らしなのですが、もう何年も家賃を払っていません。何カ月ではなく、何年というのが、まず普通に凄いです。家賃を納めずに住み続ける1これも立派な芸のうちではないかと僕は思いました。まさに落語家の了見じゃないかと。しかし、どうしてそんなに長く家賃を納めないのかを聞いてみると、
「キウイのうす馬鹿野郎! いいか、大家といえば親も同然。店子といえば子も同様。子から銭を取るのを許されるのは、上納金のある立川流だけだ。覚えておけ!」
僕は領くしかありませんでした。
また、文字助師匠は、歯医者でCコースの立川抜志さんという方からムタ(無料)で総入れ歯を作ってもらったことがあります。
「銭、払わねぇんじゃ申し訳ねぇから、客を紹介させてもらうよ」
すると翌日から、
「こちらですか? タダで治してくれる歯医者さんは」と、たずねてくる患者さんが大勢来たとか、来ないとか……。しかも抜志さん、やっぱりCコースだけあって酒落が分かるから、文字助師匠の総入れ歯に「桂文字助賛江 贈並川歯科」と大きく入れました。入れ歯は後ろ幕とは違います。でも、文字助師匠は、
「こりゃウケるね」(p.241)