四季の山を歩き、思い、創造する。
凌 手記
石楠花地獄雪辱シノギング
天気にも恵まれて爽快なシノギングを満喫し、名もない尾根を辿ってそろそろ湖畔に出ようかというとき、青々とした石楠花に突然行く手を阻まれた。細い尾根は両脇が渓へと切れ落ちて巻くのも大変そうなのでそのまま突入したが、密集した枝にがんじがらめになり三歩進むのも困難な石楠花地獄に大いに疲弊させられた。シノギングに付き物の最後の最後に待っている難所というやつだ。
あれから一年・・・。
絶え間のないカーブを右に左に大きく曲がるバスに揺られてとあるバス停に下り立った。
準備を整え湖畔の道を歩きはじめると県境の山々を越えて湖面を渡る風が頬を叩く。たまらずニンジャフーディーのフードを被る。国道と別れ林道に入ると路面は凍結。チェーンスパイクをガリガリ言わせてひたすら進む。ときどき軽装のハイカーにすれ違う。この先には比較的簡単に登れる雪山があるのでそれをピストンしてきたのだろう。
登山道と湖畔の周遊路が分かれる入江で身支度を整え、しばらくは緩い渓を詰めて適当な支尾根に取り付く。200mほどの直登をこなせば1,500m圏の尾根に合流する。
日当たりのいい尾根はかすかに土の匂いがして、足を置くとゆるんだ土がぬるっと、その下のカチカチの凍土がつるっと、違った滑り方をするので歩きにくい。凌ピッケルとチェーンスパイクで装備を万全にして挑む。
右手の渓から雪の上を歩く音が聞こえてくるので目で追うと、黒いような小さいコロコロとした二匹の動物が渓を上がって行くのが見える。子熊?この時期子熊っているのかな?でも子熊がいたら親熊がこっちに突進してくるって言うじゃない?どうしよう・・・。ビビりの私は怖くなって同行のY氏に声をかけると、え?そんな音しましたか?と何も気にせずにどんどん行ってしまう。あー、そっちは子熊が上がっていた方だから、俺は知らないよーと尾根の先に目をやるとさっきのコロコロ二匹が雪の上に現れた。うん?日の光に当たってはっきり見えたコロコロは猿だった(笑)あぶねーあぶねーと胸をなでおろす私など気にも留めずY氏はあぶねー斜面をどんどん先に行く。
主尾根に乗るとしばらく平坦な気持ちのいい尾根が続くがその奥に短い壁。北面の壁には雪が付いていてステップを刻めるので比較的登りやすい。しかしここではY氏は妙に慎重に登ってくる。シノギングをしていると得意不得意が良く分かる。得意不得意が同行者と同じではないから気付くこともあるし面白いんだなと感じる。
想像はしていたがやはり雪のシノギングは通常よりも時間がかかる。目星を付けていた場所をうろうろして、ハンモックポイントを決めた時にはそろそろ15:00になろうとしていた。早めに着いてのんびり昼寝でもしようかと思っていたがそうはさせてくれない。
場所が決まってもやることはいっぱいある。丁度いい木の間隔を探してすべての設営が終わるには一時間、場合によってはそれ以上の時間がかかるのだ。ここはそれほど雪が深くないので棺桶穴を掘らずに寝場所を作る。穴を掘らないので壁は作れないが天候は安定しているのでそれほど風が吹くこともないだろう。
設営が終わって静かな時を楽しむ。
気が付けば空の低いところに満月。この薄暮の時間帯に見る満月はなんだか幻想的だ。
凌居酒屋「しゃくなげ」(笑)やっぱりぬる燗は最高だなー。すぐに冷えちゃうけど(笑)
我々は眠った、月光に照らされて。ときどきモグから顔を出して見る景色もまた幻想的。
最低気温は氷点下8℃と想像通り。ハンモック泊では同じ気温でも風があるのとないのでは感じる寒さが全く違うのだが、風もなく鹿も鳴かない静かな夜だったおかげで寒さを感じることはなかった。今回の就寝装備は試作品のモグカバー&アンダーリフレクター、モグ500、ヨヒヤミ、アグラスカート、ダウンブーティー。ちょっと贅沢だったかな。
本日も晴天なり。朝にかけて冷え込むどころかむしろ気温は上昇。近くの2,000m圏を経由してから湖畔に出るルートも検討したが、積雪がありそれなりの距離があるのでそう遠回りはせずに昨日とは別の尾根を下りることにする。
だらんとした山腹から顕著な尾根を目指していたがいつのまにか西にズレてしまっていたようだ。小さな渓に入りかけていることに気付いたので地形図を出して現在地を予測する。
西側のピークとそこから派生する尾根、東側の木立に浮かび上がる地形からすると、ここから東にトラバースすれば目指す尾根に乗ることができると推測して進む。
果たして、推測した通りに尾根に乗ることができた。本来進むべき方向からいつの間にかずれてしまったとしても、こまめに地形図とコンパスを使って確認をすることで大きな間違いをせずに修正することができる。これが地図読みの醍醐味であり、シノギングで学べる術のひとつである。
さて、1,600m圏からは東に分かれる尾根を辿る。順調に標高を下げて行くと憎きあいつの姿が見え始める。
このまま尾根を辿って小さな崎に出るつもりだったが、この辺りの尾根の1,500m圏から下はどこも石楠花地獄になっているようなので、無駄な戦いを挑むのはやめて東の渓を下りることにする。本来渓を下りることは得策ではないが、ほど良く雪があること、南側の尾根に隠れて日があまり差さないので雪の状態が悪くないこと、少々傾斜はあるが200mほどと短いこと、なんといっても石楠花と格闘しながら進む苦労を思えば逃げるが勝ちが明白なこと。
傾斜はあるが雪は締まっていてツボ足でも思っていた以上に歩きやすい。軽い足取りでホイホイとY氏が先頭を行ってくれるので私はその足跡を追うだけだ。
すぐに渓は広がり小さな入り江の湖畔に出た。一件落着雪辱成就。
しかし、このあと三時間、湖の縁をずーっと丁寧にトレースする地味な歩きが待っていた(笑)難なく湖畔に出て一旦気を抜いてしまった身体にこの地味な歩きはつらすぎる。
気力と体力の20%は最後の難所のために温存させておくべきである。シノギングのたびにそう思うのであった・・・。
今回使用した衣類と道具
ヨヒヤミ(21AWに継続)
ツヅラヲリ(NEW 試作品)
ニンジャフーディー(NEW 試作品)
カザハナ(NEW 試作品)
カルフワタオル(NEW 試作品)
アグラスカート(21AWに継続)
フユガレ(NEW 試作品)
ヤマバッグ
タモツウルオス
凌ピッケル
EXPED Solo Tarp
モグカバー(試作品)
モグ500(絶賛販売中)
EXPED Travel Hammock(絶賛販売中)
アンダーリフレクター(試作品)
MEダウンブーティー(廃番)
小さいヌノバケツ角(絶賛販売中)
ヌノバケツ200m(絶賛販売中)
シノギチャブダイ240mm(絶賛販売中)
行燈風シェード(生産中)
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