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超シノギング 真夏の渓と白雨と其れから

超シノギングとは、これまでのシノギングイベントに参加してくれたシノラーさんを選抜して、従来のイベントで体験してもらった様々な術を実践してもらう試みである。選抜人数は四人だけ。

超シノギングはイベントではないので、選抜メンバーを決してお客さん扱いはしない。目的エリアの地形図を読みどのように進むのか、どこで夜を凌ぐのかを共に考える。問題が起きれば共に考えて対処するシノラー同志として、一泊の本当のシノギングに出かけた。以下はその紀行である。

 

実に五年ぶりの開催、此の日をどんなに待ち侘びた事か。甲斐大和駅で降りると、黒ずくめのザツクを背負った人影が散見される。駅舎へ上がると勿論彼等で、皆集合にて顔合わせとす。暫し談笑を交え、落ち着いた所で普段よりも大きな地形図を二種二枚ずつ渡し、行程の概要を伝える。一息整えたら出立とする。見上げた先は曇り空で、まるで我々の心理が見透かされている様だ。

最初は車道、林道歩きである。其の実此の区間は難所とも云える。幸い気温は其処まで高く無いが、湿度からくる不快感は否めない。林道に入る頃には汗が噴き出る様に為るも、沢沿いの其処は幾分増しではあった。林道の終点からは作業道の様なフミアトをタドル。次第に其れ等も不明瞭に為ると、渡渉せざるを得ない箇所に到達する。駅舎より約九〇分。此処で入渓としようか。其々思々に身支度を始める。

さて、いざ入渓とす。ひゃっこさは、足先から神経を傳つて脳髄へ走り抜けると、一気に身体全体を涼へと誘う。此れだから渓歩きは止められ無い。

水量は多くも無く少なくも無く丁度良い。渓相は云わずもがな。其々装備も違うので手始めは各々感触を確かめながら進む。慣れてくる頃に現るは五段程から成る滑滝。此の渓の象徴的な処でもある。見た目よりは足掛かりもしっかりあるので難無く越える。唯、油断は禁物。

越えた先は暫く適度な緩い渓が続く。時折、先の様な滑沢を織り交ぜつつも、寄り高く、寄り深く分け入る中で、また豊かな表情も垣間見せてくれる。其れ等に果敢に挑むも良し。無難に巻くも良し。付かず離れずの間隔にして、木ではなく森を見る感覚が如く。同志と共に直向きに、着実に、渓を詰めて行く。

普段催しで行く様な渓とは、様相や抑々の遡行する長さも断然違う。渓筋は尾根と違って標高上がるに連れて枝分かれして行く。また地形を読むのも非常に難しく、細かな変化に敏感に為る必要がある。先陣が其の一端を担う訳だが、後続も其れに甘んじる事無くしっかり地図読みをする必要がある。同志から成る集団と同時に、其々が孤高のシノラーでもあるのだから。

次第に緑は奥深さを増し、渓は狭まりゴーロな露岩も散見し始める。同時に蓄積し始める疲労感。脳内物質により未だ心地の良い其れではあるが、此れは渓歩きの大きな罠で、最後の詰め延いては二日目に猛威を振るい出すのである。そしてまさか、最後の詰めに彼のような事態に為ろうとは。此の時は未だ知る由も無い。

一瞬拓けて段々とした渓相へ変わると、其の先には遺跡が如く苔生し、横たわる巨木が。横たわる前から長きに渡り此の地に鎮座して居るであろう”主”である。何れ朽ち果てようとも、目にした者の心からは決して消える事は無い。象徴的な巨木である。

随分と上がって来た。大きな枝沢分岐も増えて来た。沢の流れも緩く為って来た。そう為るとそろ々々、水を汲む時分を考慮し始めようか。当然あの重たく鬱陶しい水とやらは、可能な限り担ぐ時間と距離を短くしたい訳で、然も今まさに疲労度も頂点に達しようとしている時で尚更だ。様子を見乍らもぎり々々まで粘る。

そうこうして居ると、辺りの木々は減り、ザレた斜面が我々に迫り始める。そろ々々か。参考の遡行図にもあった三角岩とやらが姿を現す。まず詰めの道筋に間違いは無かった様で一安心。此処は枝沢分岐でもある。先陣が其の岩の先まで行くと、沢の流れは明らかに薄く為り詰めの其れと化していた。と云う事で、其の手前の分岐出合いで水汲み時分とす。汲み上げる量は人其々だが、汲めると知るとつい々々保険で多めとしてしまうのも凌流。暑さとの戦いもあるが、余分な水を担がず途中で汲めるだけでも随分と増しなものだ。

序でに小休止を兼ねての行動食も喰らう。余談ではあるが、泊りの本当のシノギングでは大休止の休憩を取る事は無い。道中もそうであったが、地形図確認の合間や、此の様な小休止の時分に行動食で済ませるのが常である。さて、無事水も汲めた処でいざ最後の詰めへ参らんとす。三角岩を越えると一気に詰めの様相と化し、寄り斜度も増して行く。愈々と云った感覚である。

すると如何したものか。雨がぽつり、またぽつりと降り始める。其の前から不穏な雨雲とゴロ々々と鳴り響く音が聞こえては居たが、此の時分で降り出さずとも良かろうものを。空の様子から直ぐに止む様な雨では無いと察し、各々雨具に袖を通す。案の定降り始めた其れは、瞬く間にアマアシを強め、白雨が如く辺りを呑み込んで行く。

此の時、皆の精神は音を立てて崩れ去ろうとして居た。だが然し辛うじて残る其々の凌ぐ精神が、共鳴するかの如く支えと成り、一歩また一歩と歩みを進める力と相成る。其の先にある確実な終着点に向けて。

午後三時、無事稜線へ到達。核心部は越えた。細やかに互いの労をねぎらい、讃える。しかし乍らアマアシは止まる事を知ら無い。透かさず歩みを進める。此処からは基本的にフミアト明瞭な登山道である。目星を付けたP一四〇三辺りを目指す。登りが無く下り基調な事も助かる。満身創痍乍ら足取りは軽い。

P一四〇三へ至るも、想像した寄りも微妙な唐松から成る地形。此の雨の事も考えるとアマアシを凌ぐ枝葉が少ないのも気に為る。仕方が無い、こう為ったらとことん追求してやろうではないか。地形図から紐解ける適地を、ああでも無いこうでも無いと、皆で相談し合い乍ら攻めて行く。我々にとってはいつも通りの行動で、宿泊地の選定に妥協はし無い。精神と時間が許す限り、適地を探求するのが凌である。結局、其れから進む事約一キロメートル。時間にして約三十分後の午後四時頃、其の地は唐突に現れる。漸く今宵の宿泊地へ辿り着く。気が付けば雨も上がって居た。皆、一先ずお疲れ様。

肩の荷を下ろすと、思わず安堵の声が漏れる。然し其の余韻に浸るべからず。間髪入れずに其々の今宵ネグラの準備を始める。雨は弱まったとは云え、またいつ降り出すか分から無い。屋根を決めてから、ハンモツク、土間間取りを整え、着替えを済まし、乾くとも思っていないが濡れ物を干す。

仕上げに今宵の暖のための薪集め。大雨の後でも上手く選定出来れば使える枝木は幾らでもある。周到な者は乾燥させた枝や太薪、炭などを持ち込み凌ぐ術を遺憾無く発揮して居る。此処で漸く一息付く事が出来る。

YS地区の実に密集されたバラック群

YK地区の少し開放的なコの字バラック群

ご紹介が未だだったので、今回の超シノギング同志のご紹介をつらつらと。

I氏は、記念すべき第一回シノギング講習修了者で、普段はトレイルランニングを主として一〇〇キロレースも熟す猛者。冷静な判断で地に足つけた行動、読図力にも長けているシノラーである。

E氏は、今回一番の古参シノラーで所謂第四世代に当る。コロナ禍もあり入れ替わりの激しかった世代の狭間で、孤高に凌ぎ、シノギングをしてくれて居た。寡黙乍ら内なる信念は強いシノラーである。

S氏は、記念すべき第一回シノギング講習修了者で、大の凌ピッケル愛好家。道具に対する想いや知識も高く、シノギング中でも率先して突っ込んで行く果敢さと愛嬌を併せ持つシノラーである。

H氏は、昨年彗星が如く現れた新星で、昨年の催しを通して様々な凌ぐ術を吸収し、急成長を遂げてくれた。良い意味である種変態的な部分を兼ね備えており、其の探求心も一際強いシノラーである。

此の同志達と共に、本日の労をねぎらう様に今宵を堪能する。雨のBGMを耳にし乍ら、決して多くは語らず、各々の時間と静寂も楽しみながら、夜は更けて行く。

明くる朝。

如何やら夜通し雨は降って居た様だ。湿気を帯びた小さなバラック群は其の雰囲気をより一層醸し出す。当然、干し物は乾く事無く、やれやれと云った処である。

早寝早出をし無いのが凌流でもあるが、朝をぐだぐだするような事も無い。起きてから一息吐くと、まずは火を熾し暖を取る。透かさず朝食を済ませるとゆっくりと着実に撤収の準備へ入る。雨後の準備は時間を要する場合が多いので、其れも考慮した上で動く。事前に擦り合わせをして居た出発時間丁度に完了。立つ鳥跡を濁さず。

現在位置と下山の道筋を再確認する。当初より候補に挙がって居たのは四つの道。人気があるかも知れない沢沿いの登山道で笹子方面に下りるか。初日の渓と並走する直ぐ隣のP一〇四三有する尾根を下るか。其の先の大きな峠附近から分かち送電線と並走する尾根を下るか。更にその先のP一三五七から分かちP八六八方面へくね々々と尾根を下るか。選んだは三つ目。昨日からの疲労度を加味し、また此の後雨が降り返すかも知れない事も考慮し、適度な距離である此の尾根を選んだ。何より尾根の終点に鳥居印があるのも決め手である。さて靄立ち込める中、出立。

基本的には下り基調で殆どが登山道と為り、難儀する事は無さそうだ。渓を絡めた泊りシノギングでは、此の二日目の行程は緩めに為る傾向はある。なぜかって、初日の渓歩きが得てして難所と為るからである。そうこうして居ると、地形図に明記は無いが名のある峠へ辿り着く。すると急に音を立てる様な雨が降り出す。昨日の詰めと同様だ。直ぐに止む空模様では無いので、雨具に袖を通す。三者三色のタビガラスが峠を抜ける。

此処から西へ折れる様に稜線が続き、小さな鞍部、小さなピークを越えると、名のある峠の手前に鉄塔が現る。目ぼしい分岐点。間違いは無い筈だが、しっかり地形図で確認を入れる。

改めて見ると地味に長い尾根である。送電線と並走して居るので巡視路としてフミアトが付いて居るのは間違い無い。其れを考慮しても神社までは一時間弱は掛かるであろうか。想像を膨らませて尾根へ分け入る。案の定明瞭なフミアトが続く。目ぼしいピークは巻くように道が付いて居るのが幸いだ。暫く下ると植生心地の良い道に繋がる。気付けば雨も止んでいた。

明瞭で確実な送電線が交差する地点へ到達。尾根上と其処から目と鼻の先に双方の鉄塔が鎮座して居り、綺麗に送電線が交差するのが頭上に確認出来る。此処まで来れば終点の神社はあと少しである。

其の先の尾根から外れ大きく折り返す附近で、植生も針葉樹へ変わり渓寄りの道筋となる。人里の匂いを感じさせる。すると大きく真つ赤な屋根が林間から覗く。意外にも立派な神社に驚く。まだ此の先に集落、車道歩きが続くが、一先ずの終着点としよう。凌らしい心地良い達成感を皆で分かち合う。

集落へ抜ける道すがら、シノラーは何を想い何を感じたか。

其れは己のみぞ知る。

其れで良い。

決して笑ってはいけないやつ A面 B面

此処に、同志と共に孤高に凌いだシノラー達の雄姿を残す。

 

凌は美学

いつ何時でも所作、立ち居振る舞いを美しく

いつ何時でもあたふたせず、まごまごせず

道具に踊らされず

凌ぎ

美を追求すべし

 

皆さん、お疲れ様です。そして、ありがとうございます。

 

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