富士山の裾野に広がる樹海で深夜、月明かりだけで、写真を撮ったのは7年前の夏のことだ。モデルのO嬢、アシスタントのIくんと僕の3人だけの旅だった。6月から10月まで、八ヶ岳、浜松の砂丘、天草の孤島と、満月を追い求めての強行軍の最中だったので、山中湖のホテルで2日間雨に閉じ込められたのは、程よい休養になっていた。雨があがったのは13夜の月が天空に輝く夜、撮影には最高の条件だった。僕らは樹海近くに車を停め、月明かりに浮かぶ、あの世の入り口とも思える樹海に足を踏み入れた。O嬢は羽織っていたガウンをIくんに投げ渡すと、緑の苔に蓋われた古木に登った。木々の隙間から射し込む月明かりに浮かぶO嬢の透き通るような乳白色の裸体をフィルムに焼き付けるには5分から15分間は露出しないと光量が足りない。砂丘では40分間も静止してもらったこともあった。O嬢は文句ひとつ言わずモデルに徹してくれた。その作品群は、数千枚のフィルムのまま、今だ発表を待って机の抽斗に眠っている。月明かりだけで撮った苦心の写真集企画も、眠ったままだ。
今朝方、富士の樹海で撮影する幻想的な夢を見た。あの時感じた霊気を夢で体感した途端、凄まじい冷気に目覚めた。庭に面したサッシ扉の上にある小窓が開いていて、そこから冷気が音を立てて流れこんでいた。夢は現実の何かと交差するというが、冷気と霊気が交差して7年も前の出来事を夢に見るとは、何だか複雑な気持ちで小窓を閉めた。ラヴクラフトを読んだ影響もあるのだろうが、恐怖に進む前に冷気に耐えきれず目覚めてしまったのは、幸いだった。
そういえば、阿蘇の高原、天城山中、八ヶ岳、野辺山高原と、空気の澄んだ、天空に近い処は、霊気が強く感じられたような気がする。今一度、体験してみたいと思っているのだが、O嬢のようなモデルが現れない限り、企画のまま終わって仕舞うのだろう。天草の海で月明かりに浮かんだ姿は、人魚そのものだった。Iくんと僕は、何度も幻をみた気分にさせられたものだ。
今朝方、富士の樹海で撮影する幻想的な夢を見た。あの時感じた霊気を夢で体感した途端、凄まじい冷気に目覚めた。庭に面したサッシ扉の上にある小窓が開いていて、そこから冷気が音を立てて流れこんでいた。夢は現実の何かと交差するというが、冷気と霊気が交差して7年も前の出来事を夢に見るとは、何だか複雑な気持ちで小窓を閉めた。ラヴクラフトを読んだ影響もあるのだろうが、恐怖に進む前に冷気に耐えきれず目覚めてしまったのは、幸いだった。
そういえば、阿蘇の高原、天城山中、八ヶ岳、野辺山高原と、空気の澄んだ、天空に近い処は、霊気が強く感じられたような気がする。今一度、体験してみたいと思っているのだが、O嬢のようなモデルが現れない限り、企画のまま終わって仕舞うのだろう。天草の海で月明かりに浮かんだ姿は、人魚そのものだった。Iくんと僕は、何度も幻をみた気分にさせられたものだ。