いつかの夏に書いた「レターフロムS16 夏空日記2」再掲です。
7月25日(月) 恵みの雨に
7月最後の日曜日。
驟雨が四万十をぬらしてゆく、約1ヶ月ぶりの恵みの雨です。
ベランダのイスに座った僕は、ビールを片手にぼんやりと雨をながめました。
雨は、少なすぎる川の水量が増えるほどの降りではない。
でも、連日の猛暑でカラカラに乾いていた大地に、
水が染み込んでゆくのを見てると、気持ちもしっとりしてきます。
そして、肌もしめらす雨に古い記憶がよみがえりました。
あるとき、僕はバイクで、オーストラリア大陸ど真ん中の
(アウトバックと呼ばれる)赤茶け乾いた土漠を北にむかっていた。
熱風のなか、ほとんど干乾びた体で、乾燥した中部から湿潤な北部に。
(中部は乾燥した土獏。大陸北部は熱帯雨林がひろがり、湿地や沼もおおい)
すると、ある地点からトツゼン風の質がかわった、それは全身ではっきりとわかった。
「ああっっ・・・水分だ!!」
体中の毛穴が、風の中のほんのわずかな水分をスルドク感知したのだ。
からからに乾いたカラダは、全身高性能水分センサーと化していたのだろう。
「こんな、感覚は初めて」。全身がザワザワとヨロコビに震えた。
湿り気がまじる風の中をしばらく走った。
やがて、風景の中に(それまでの背の低い潅木から)中、高木も姿を見せはじめた。
ところどころに、大きな水たまりも見えはじめた。
僕は、「これは雨の多い日本ではなかなか体験できないコトだろうなぁ・・・」と思いました。
7月28日(木) 38度のリバーソング
今日は、アークツアー1日コース。
本日の最高気温38℃。水温30度。水量少なめ。
少数のゲストと「カヌー&川遊び」たっぷりのんびりと真夏の川で遊びました。
小さな子供たちは(カヌーに乗っているよりも、泳いだり、水中をのぞいてる方が楽しい)
カヌーに飽きるとカヌーから川に飛び込んで、ニコニコと川を流れていった。
体力が尽きるまで遊んだ子供達、帰りの車中は、スヤスヤと夢の中。
夏休みのいい思い出になったかな?

8月1日(日)嵐を待っている
へんな進路をとった台風10号が、四万十にじわじわ近づいてきます。
予報ではどうも直撃しそう・・・。久しぶりに沈下橋が浸かるほどの増水になるのかな?
増水すれば、ツアーには出れなくなるけど、
増水に洗われた川の水はキレイになるし、川底を転がった石には、新たらしいコケがつく。
その新鮮なコケを食べた鮎は香りが良いそうです。
31日は、朝から突風が吹き始めました。
テレビのニュースは、「室戸岬で瞬間最大風速60メーター!
総雨量も多いとこでは400~600ミリとなるだろう」と伝えています。
「うーむ・・・わがぼろ家は大丈夫かな?」
四万十は、昼頃からパラパラと雨が降りはじめましたが、雨足は一向に強くなりません。
風に大きくゆれる庭の樹木を、コーヒー片手にながめる。
台風10号は、午後4時ごろ四国に上陸。中村市の東を北西に進みました。
幡多地域は、台風の中心が東にそれたので、
雨、風ともにたいした事はなく、四万十川の水量もさほど増えませんでした。ほっ。
1日。昼の川は、平水よりも約70~80センチ増。
一方、高知県東部、中部は台風の影響が大きく、
台風本体の雨、台風通過後の雨で、総雨量1000ミリ!を超えるところも?
豊後水道に台風の中心が入れば、幡多でも相当の被害が出たことでしょう。
8月2日(月)世界の中心で雷にフルエル
カミナリをともなった激しい雨が、昨夜から未明にかけ断続的に降りました。
日本海に抜けた台風が、熱帯低気圧に。
そこに、あたたかく湿った南風が流れ込んだのが原因のようです。
2日。四万十川は、約6メーターの増水。沈下橋は、濁流の下です。
まだ、小雨が降りつづく川は、これからもう少し水が増えるかもしれません。
しかし、このあと順調に水が引けば、週末はツアーに出れそうです。
まるで夜空にフラッシュをたいたようだった、昨夜のイナズマ。
それは、5秒間隔でひかり、銀白色に世界をてらしました。
雷鳴は、ゴロゴロと不気味に鳴り、ドガ―ンとでかい音をたてて、わがぼろ家を小さく揺らす。
カミナリがこわい僕は、布団に包まり耳をふさいで、じっとしていました。
僕は、カミナリをリアルに怖いと感じた事が何度かある。
あたりには、身を隠すものが何もない、周囲360度地平線の土獏で、雷雲におそわれた時のコト。
バイクではしっていた僕は、近づく雷光とすさまじい雷鳴におののき、バイクを放り出し、
背の低い潅木(ブッシュ)の下に体をふせてブルブル震えていた。
ズガドガーン!!近くにおちた。空気が震え、大地が揺れた。
「おおっわっわっっ!」
生きた心地がしなかった、雷鳴が遠のいてゆくまでは。そして、その後の雨もすごかった。
バケツをひっくり返したどころか、まるでナイアガラの滝の下にいるようだ(いったコトはありませんが)。
叩きつけるモーレツな水のパワーで、呼吸するのも苦しい。
なすすべもなく翻弄された僕は、「もうどうにでもして・・・」と、お手上げ。
大地には、みるみるうちに川ができていった。
再び走りだすと、泥ぶくれで重量が倍になったバイクと人間は、何度も転びまくった。
それでもじわじわと前進し、夜遅く小さな村に、ようやくたどり着いた。
体力も限界な僕は、泥まみれのまま、GSの軒下でシュラフにくるまって眠ったのでした。
またある時は山頂(北アルプス)近くで、テントを張ってた時のコト。
季節外れの嵐におそわれた僕は、テントの中で雷鳴におびえていた。
「バキッ」吹き荒れる風で、ついにテントのポールが折れた。
「あわわっ!」
テントの中で折れたポールを両手で必死に支える。
風雨にたえるべく長い時間がんばったが、疲れはてた僕はいつの間にか眠ってしまった。
ふと気がつくと、ぺちゃんこにつぶれ水浸しのテントの中で、片手はポールを握ったままだった。
まだ外は暗い。つぶれたテントを這い出て外をのぞく。
すでに雨は止み、強い風が雲を吹きながし、星が姿を見せはじめていた。
「おおっ!スゲーッ!」それはまるで夜空に宝石箱をひっくり返したかのよう。
僕は、キラキラと輝く星々の美しさに圧倒された。
標高の高いここでは、まるで自分が宇宙に浮かんでるみたい・・・(ちょっとおおげさですね)。
「星と嵐か・・・」
星空を眺めながら、ウイスキー入りの熱いコーヒーを飲みました。

8月9日(月) ハッピーリバーピープル
3日は青空が戻る、でも翌4日はまとまった雨になりました。
水の引き方がおそくなった、増水した川。
「いつからツアーを再開出来るのか?」川、空、天気予報とにらめっこが続きます。
僕は、週末のツアー参加者とこまめに連絡を取り合い、フィールドの状況を伝えました。
7日。増水が残る川(平水より約1メーター増)は、にごりもとれないけどツアーは再開です
いつもより速い水の流れに、漕がなくても快適なスピードでカヌーは川を下ってゆきます。
「真面目に漕いで下ったら、すぐにゴールに着いちゃうよ。
遊びながらのんびり行こう!川の水がにごってザンネンだけど・・・」
いつもは水深が浅く、飛び込めない岩間の沈下橋。
でも、今日の水量なら飛び込めます。水温24度の川に、ジャンプ!ザッブーン!
少し冷たい川の水が、たまらなくE気持ちです。
夏空に入道雲。
沈下橋の上でお昼を食べながら、濡れた体のまま熱い南風に吹かれました。
真夏のフィールドで過ごす、「心地良いサマータイム」。
僕がここにいる理由は、多分きっとこの風の中にあるような気がしました(ちょっとサムイね、真夏なのに)。
アークツアーでは、カヌーで四万十川をゆく楽しさはもちろん。
・バシャバシャ川遊び(シュノーケリング、手長エビとり、など)
・たき火キャンプ&カヌー・ナイトカヌー・黒尊山トレッキング、黒尊川での川遊び
カヌー+αで、自然豊かな四万十のフィールドをのんびり味わってほしいと思う。
そんなわけで、アークツアーは少人数で行っているのです。

8月14日(土) 流れ星とカヌー
お盆休みの連休。
いつもは静かな四万十川の川原も、キャンパーやカヌーイストのカラフルなテントが並びにぎやかです。
アークは4名のゲストを迎え、Laid Back(気楽な、くつろいだの意)なキャンプツアーを行いました。
10日前の沈下橋が浸かった増水で、川は生き返った。
今回のツアーは、この夏一番の水量&透明度に恵まれました。
「ラッキー&ハッピー!!」
・沈下橋からの飛び込み・カヤックでの沈・ジャケットを着けての川流れ・シュノーケリング
かんかんに照りつける太陽の下、僕らはキレイになった川で、思うゾンブン夏の水と風とたわむれます。
水温28度。「ソーカイ!」
夕方。遊び疲れた体に流し込むビールが、スーパーうまい!
今夜のメニューは・豆腐のカルパッチョ・カツオのペッパーステーキ・コツモモチキンのパプリカ煮。
仕事を終えた友人テルミちゃん(カメラマン件手伝い)も乱入し、にぎやかで楽しい食卓となりました。
雲も月もない夜空の星が、とても美しい。
みんなで川原に寝っころがり、天の川流れる夏の夜空を楽しむ。
いくつもの星が流れてゆくのが見えました。

8月31日 夏空のムコウ
8月後半の四万十川は、台風16号17号の雨で増水し、ツアーを中止する日も多くなりました。
天気と泣く娘には勝てないのだとわかっちゃいるけど・・・・。
「はぁーっ」「○△×!・・」
「ちょっと中止の判断が早かったかな?」
「無理すれば出来たのではないのか?」
空と川をながめる僕は、3651回目のため息&悪態をついてしまうのでした。
僕は自分の事をオプティミスト(楽天主義者)だと思うけれど、
ガイドとしては、ノーテンキなポジティブシンキング(前向き思考)ほど危険なことはないと思っています。
「怖さを知りおくびょう」である事は、とても大事なことだ。
ツアーゲストに保険をかけるのは、当たりまえですね。
(信じられない事に、ゲストに保険を掛けていないカヌー施設も)
ツアーが中止と決まれば一転ヒマに。
ため息を深呼吸に変えるために、ゴロ寝で読みたかった本のページを開きました。
「星と嵐」 ガストン レビュファ
ヨーロッパアルプスの名クライマーで名ガイドでもある。ガストン・レビュファーが詩情豊かにつづる山行。
「ガイドの職業こそ、こよなく美しい。けがれを知らぬ土地で、その職務を果たすのだから。
今の世の中には、もうわずかなものしか存続していない。
夜はもう存在しない。寒さも、風も、星も。すべてが打ち壊されてしまった。
生命のリズムはどこにあるのか?
すべてのものは、あまりにも早く過ぎ去り、騒々しい。いそいでる人間は路傍の草を知らない。
その色も、香も、風が愛撫する時の輝きも知らない」
うーんいいなぁー。
自転車で近くの沈下橋へ。
ビール片手に沈下橋の上にすわった僕は、まだ水量が多い川と、8月の終わりの空を眺めました。
空の少し高いところには、早くもいわし雲。
岸辺には、あやしく赤いヒガンバナが咲きはじめ、エノキの実も赤みを帯びてきました。
夕暮れの川風にも、わずかに秋の気配がまじっています。
8月の終わりの台風16号で、川は4~5年に一度の大増水となりました。
雨上がりの朝、近所に被害の偵察にでかけると、庭下の草木も泥をかぶっているのに気がつきました。
「あらら、こんなとこまで泥水が来てたのか!増水のピークが夜でわからんかった・・・」
村をとおっている国道の低いところ、低い場所の家、田畑も泥水につかりました。
大きく増水した本流にながれこむ、支流の水があふれたのです。
ここに住んで初めて体験する増水のすごさに、僕はかなりびびりました。
四万十川は、年2~3回、5~6メーター増水します(沈下橋がつかる程度)。
でも今回は、それよりもまだ3~4メーターは水位が上がり、約10メーターの増水です。
口屋内村の知り合いの家は、床下浸水となった。
2階へ上げた荷物を1階におろすのを手伝った僕は、ビールと昼飯をごちそうになりました。
