金融マーケットと馬に関する説法話

普段は資産運用ビジネスに身を置きながら、週末は競馬に明け暮れる老紳士の説法話であります。

【先進国株式の歪み】 GAFAばかりが物色される理由 ②

2021-09-01 07:10:44 | 金融マーケット

 昨日の続きです。

 

 ここ半年で見ても、結局は、投資家の最終的な判断基準は「成長力」に収斂しており、相対的には「北米株式」市場にお金が流れる状況が続いています。しかし、過去の株式市場を振り返ると、「成長力=グロース」が着目されるのは当然として、それが行き過ぎた時には、必ず「株式価値=バリュー」に着目した価格調整の時期訪れて、「グロース」⇒「バリュー」⇒「グロース」⇒「バリュー」⇒ ‥ と、マーケットが循環することが判っています。にも拘わらず、ここ10年近く、「株式価値=バリュー」に着目した本格的なバリュー相場が発生しておらず、「成長力」一辺倒の行き過ぎたマーケットとなっています。

 

 もう少し、投資家の状況を詳細に考察すると、なぜここまで「グロース」一辺倒に投資判断がなされ続けているのかが明らかになってきます。

理由その1株式市場へ投資するリスクマネーの源泉は、世界中の富裕層の資金が中心で、DB年金からの資金はピークアウトして減少しています。世界の富裕層が、敢えて価格変動性の高い上場株式に投資するのであれば、ROEは安定的に8%以上をクリアしていることが最低限の投資条件であり、この目線を下げることはありません。

理由その2一方で、先進国経済は低下傾向にあり、米・欧・日ともに、短期金利はゼロあるいはマイナス水準、長期金利もゼロ周辺。こうした状況下、安定的にROE8%以上を実現できる銘柄が減少しており、結果として、最も成長銘柄が多い北米株式、特にその中でもテクノロジーや医薬品などの高成長株に投資資金が集中していくことになります。

 GAFAに対して、圧倒的な勢いで投資資金が流れている理由がここにある訳です。なお、同じ理由で、新興国株式の中で、安定的にROE=8%以上を実現できる銘柄にもお金が流入しています。ただし、先進国株式とは時価総額が違い過ぎるため、あまり目立っていませんが‥。

 

 さて、ここで不思議なのが、世界経済の低成長時代が続いて、先進国の金利がほぼゼロに張り付いているような状況ならば、ROEだって8%に拘らず、ROE=4~5%くらいで、安定的に3~4%の配当利回りを出してくれる銘柄があれば、そこにも投資資金が回っても良さそうなもの。しかし、そのような銘柄は見向きもされず、PBR=0.5倍以下へ放置されて、解散価値の半分以下の株価評価しかされていません

 かつての株式市場であれば、「バリュー投資」のファンドから、こうした銘柄群は割安だと判断されて、買いが入るタイミングがありましたDB年金の資金にはバリュー投資のファンドが数多く存在しましたし、安定的に配当を出す投資信託の中にも、バリューファンドは珍しくありませんでした。しかし、ここ10年で、こうした考え方のファンドの数が少なくなって、消滅寸前にまで追い込まれています。

 一方で、今の株式投資資金の主な源泉である、富裕層マネーですが、彼らが所有している不動産や現預金などが、ここへきての低成長によって、物価上昇率=CPIもゼロへ収斂。結果として、所有財産のインフレによる目減りリスクがほぼ無くなったため、無理に運用をする必要がなくなっているという事情があります。お金持ちは、インフレによる目減りがないのであれば、財産を増やす必要はなく、むしろ安全な「キャッシュ」を好む傾向にあります。それでも、なお敢えて価格変動性のある株式へ投資するのであれば、従来からの投資目線を下げる理由はない、という訳なのです。

 

 その結果、株式市場における評価は、ROE=8%以上を安定的にクリアできる銘柄のみ、正当な価格評価がなされる一方で、それ以外については、4~5%程度の安定配当を実現できる銘柄であっても、解散価値の半分以下に放置される状況が続いています。

 バリュー投資の視点から見ると、「割高はより割高へ」「割安はより割安へ」という歪な状況が、さらに歪な方向へ加速していることになります。(続く)


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【タイガース】 SEPTEMBER‥ ... | トップ | 【訃報】 2015年 日本ダービ... »
最新の画像もっと見る

金融マーケット」カテゴリの最新記事