金融マーケットと馬に関する説法話

普段は資産運用ビジネスに身を置きながら、週末は競馬に明け暮れる老紳士の説法話であります。

【先進国株式の歪み(番外編)】 GAFAに代表される成長銘柄の罪!

2021-09-09 06:37:42 | 金融マーケット

 先週、このBlogに掲載した【先進国株式の歪み】シリーズの番外編を一つ。

 

 リーマンショック以降、直近はコロナ禍の影響もあって、先進国経済は、低成長あるいはゼロ成長が定着している状況下にあり、米欧日ともに金利水準はゼロ近辺に張り付いている事態。にも拘わらず、富裕層を中心とする株式投資の目線は、「安定的にROEが8%以上の銘柄のみ」を投資対象とする点に変更はありません。

 その結果、世界の株式投資の資金が、GAFAに代表される高ROE銘柄に集中する状況となっています。株式投資をする以上、「成長力」に着目するのは当然ですが、投資基準を成長力に過度に傾斜すると、株式市場のみならず、経済そのものにも「歪み」を生じさせることになります。

 

 高成長企業は、その規模が大きくなるにつけ、同じ成長率を維持することは難しくなります。それでも、高い成長率を維持するには、世界中でマーケットシェアを拡大するのはもちろん、自社内にある「労働集約的な仕事」は全て外部委託して人件費を削減、その上で外部に委託する業務は、そのコストを徹底的に叩いて低下させることになります。そうしなければ、市場の期待に応える高いROEが維持できないからです。

 例えば、アマゾンやアリババのような通販プラットフォームの会社は、販売品の調達・流通を担う部門や、ラスト1マイルの宅配業者などの労働集約的業務=人件費が主なコストの業務は、最初から外部委託にして、そのコストは入札制で徹底的に叩き、世界中の最低賃金をどんどん引き下げる推進力になっています。

 彼らがROE=20%を維持している裏には、世界各国の労働集約的業務に関わる労働者の賃金低下と、猛スピードで格差社会を進展させている事実が存在します。GAFAが世界の消費者に対して、劇的なレベルの消費者余剰=消費者利益を生み出したことは認めますが、一方で、労働市場に対しては、とてもサステナブルな世界とは言えない格差社会を、急拡大させている事実を無視できません。

 

【補足】アメリカを代表する優良企業IBMも、長らく株式市場からは高い評価を得られていませんが、その状況から脱するために執った措置が「システムメンテナンス部門の切り離し」。IBM内部でも、最も労働集約的な部門であり、人件費カットは簡単ではありません。そこを完全にグループ外に出すことによって、残ったIBM側のROEの上昇と、切り離した部門の破壊的なコストダウンを実現しようとしています。

 この意味するところは、労働集約的な業務=人間が汗水たらす業務を、グループ外の非上場企業とすることによって、賃金を下げやすい状況に変化させること。これにより、IBMの株価上昇と併せて、働く者の格差拡大を推進することになります。ちなみに、IBMの事例は珍しいことではなく、これと同様のことが世界中で同時に起きているのです。

 

 そもそも、今流行のESG投資が求める趣旨は、「成長力」に過度に傾斜して投資を行うのではなく、「人的資本への配分」「脱炭素」「多様性への理解」などの企業行動を通じて、サステナブルな世界へ回帰することにあります。

 その際、まず、『ROE=8%以上』という盲目的な絶対基準の緩和が必要なことに、そろそろ世界の投資家は気づくべきだと思っております。


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