山頭火つれづれ-四方館日記

放浪の俳人山頭火をひとり語りで演じる林田鉄の日々徒然記

明けぬれば色ぞ分かるる山の端の‥‥

2007-12-12 15:07:02 | 文化・芸術
Ohgenki_3_01

―表象の森― 賤者考と二十八座

森鴎外の「山椒大夫」は荷役にしたがう民を統率する頭領であった。また彼の「高瀬舟」は花曳とよばれる民の舟曳きによって、大坂との間を上下した箱舟であった。
の民は芸能の徒であるほかに、半面労役の民であった。彼らは船頭であり、馬子であったばかりでなく、市中や大きな寺社の掃除人夫であり、貴族の家の井戸掘人足であり、祭の御輿の篭かき、または墓守でもあった。

江戸後期の国文学者、本居内遠の「賤者考」によれば、以下の如く52種に分けての職種を解説している。これを見れば驚くほどひろく当時の万般の業に及んでいることが判る。
 古令制良賤差別- 雑戸、、家人、官、、
 今時色目   - 用達、陪臣、被官、家子、賤職数色
 夙      - 宿トモ書く、守戸之弁
      - 他屋
 陰陽師    - 西宮
 梓巫女    
 神事舞    - 代神楽、獅子舞、千秋万歳
 田楽法師   - 祭俄、坐敷俄
 猿楽     - 四坐、喜多、幸若、狂言、四拍子、地謳
 放下師    - 品玉、綾織、軽業、籠抜、手妻
 遊女     - 遊行女婦、芸子
 白拍子    - 舞子、踊子
 傾城夜発   - 女郎、立君、辻君、船娼、大夫、新造、禿
 傀儡女    - 傀儡師、西宮、夷下、淡路人形、簓与次郎
 飯盛女    - 茶汲女、出女
 越後獅子   - 軽業
 願人僧    - 住吉踊、戯開帳、戯経、ちょんがれ祭文
 俳優     - 阿国歌舞伎、素人狂言、身振、物真似、声色、
           女歌舞伎、猿狂言、軽口、小児芝居、茶番狂言、
           俄茶番、乞食芝居、浄瑠璃芝居  
 踊      - 盆踊、かかひ、歌垣、ここね、伊勢音頭
 観物師    - 機関、畸疾、異物類
 舌耕     - 軍書読、落噺、軽口、物真似
 術者     - 飯綱、犬神、役狐
 弦売僧    - 鉢叩
 高野聖    
 事触     - 鹿島踊
 偽造師    - 山師、マヤシ、呼売、読売、拐児
 狙公     - 猿狂言
 堂免     - 風呂
 俑具師    - 土師
 刑殺人    - 牢番
 青樓     - 忘八、女衒、幇間、仲居、引舟、まはし男、軽子、花車、
          遣手、女髪結、芸者、風呂屋、密会宿
 肝煎     - 町役、歩役、夜番、番子、辻番、番太郎
 勧進比丘尼  - 巫女、お寮
 犬神     - 出雲狐持、妖僧、聖天狗、僧尼穢
 男色     - 治郎
 髪結     - 一銭刺
 伯楽     - 馬子、牛子、曲馬芝居、女曲舞、曲鞠
 盲目     - 配当、積塔会、女瞽、三弦弾、町芸子、琵琶法師
 放免     - 犬、猿、合壁、間者、俘囚
 浄瑠璃語   - 女太夫、操り、釣人形師、仙台浄瑠璃
 妖曲歌    - 長歌、小歌、木遣り音頭、説経、祭文、船唄、馬子唄、
          国々童謡、ちょんがれ
 浮浪     - 宿無し、雲助、逃亡、追放
 行乞     - 袖乞、六十六部納経、西国巡礼、四国遍路、善光寺詣、
          踊念仏、鉢開、雲水僧、抜参宮、大社巡り、金比羅詣、
          廿四峯巡り、常房勧化
 乞食     - 片居、癩疾、物吉、畸疾、癩狂
 伎巧     - 諸伎数種
 丐頭     - 、ハイタ、散在
 難渋町    - 棄児
 番太     - 番、ハチヤ
 慍房     - ハチ
      - 餌取、皮田、廿八箇条
 革細工    

上記のうち、の廿八箇条というのは、江戸時代の頭であった弾左衛門が先祖の由来書に述べた所謂二十八座のこととみられる。無論偽作の由来書だが、源頼朝から与えられたという判物には、
「、座頭、舞々、猿楽、陰陽師、壁塗、土鍋師、鋳物師、辻目睡、、猿曳、弦差、石切、土器師、放下師、笠縫、渡守、山守、青屋、坪立、筆結、墨師、関守、獅子舞、簑作り、傀儡師、傾城屋、躰叩、鏡打」があげられている。

  ――参照:「鎖国の悲劇」第4章「身分制のくさり」-の民-

<歌詠みの世界-「清唱千首」塚本邦雄選より>

<春-88>
 待つ人のくもる契りもあるものを夕暮あさき花の色かな  藤原家隆

壬二集、前内大臣家内々百首、春、春夕花。
邦雄曰く、花を歌いつつ心は待つ人を離れない。晴れやらぬ胸に頼めぬ人との約束を思う、「くもる契り」とは、家隆独特の凝った修辞だ。また「あさき花の色」も、元来が白に近い桜なのに、ふと紅の薄れるような錯覚を誘うところも心憎い。逆説助詞「を」でつながれた上・下句が、薄明の中で顫えているようだ。抜群の技巧派である家隆の一面を見る、と。

 くやしくも朝ゐる雲にはかられて花なき峯にわれは来にけり  源頼政

邦雄曰く、山上の白雲を花と見紛い、来てみれば山桜はそこになかった。ただそれだけのことながら「はかられて」の第三句が諧謔をしたたかに含み、磊落で武骨な幻の桜詠歌となった。歌合用の作品だが、結番や判に往生仕ることだろう。「尋山花」の題で「花誘ふ山下風の香を尋めて通にもあらぬ通を踏むかな」も並んでいるが、「花なき峯」を採ろう、と。


⇒⇒⇒ この記事を読まれた方は此処をクリック。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿