弁護士早瀬のネットで知財・法律あれこれ 

理系で特許事務所出身という経歴を持つ名古屋の弁護士があれこれ綴る雑記帳です。

「TRIPP TRAPP」事件(応用美術の問題)

2015-05-22 21:51:30 | 著作権

今日は判例の紹介をしようかと。

表題にある「TRIPP TRAPP事件」(知財高裁平27.4.14)です。

 

 

ストッケ社(ノルウェーの会社)の子供用椅子「TRIPP TRAPP(トリップ トラップ)」が問題になりました。

ある会社がこの「TRIPP TRAPP」に類似する子供用椅子を販売しているとして、その会社を訴えたわけです。

 

「TRIPP TRAPP(トリップ トラップ)」
 
(画像はストッケ社のホームページより引用)

 

 

ストッケ社が主張したのは、著作権侵害と、周知な商品等表示の混同惹起行為という不正競争の2つ。

 

 

今回記事に取り上げたのは、著作権侵害の点で、裁判所がこの子供用椅子(「TRIPP TRAPP」)の著作物性を認めたから。

著作物性を認めたといっても、椅子の一部分だけですが、かなり注目判例です、これ。

 

 

家具等の大量生産される実用品の中には、デザイン性のあるものがあります。

このようなデザイン性ある実用品は「応用美術」と呼ばれ、著作物といえるか問題となります。

 

 

ただ、「応用美術」については、それが著作物と認められるのは例外的。

著作権ではなく意匠法による保護に委ねるべきという考え(意匠法とのすみ分け)から、普通は著作物だと認められません。

 

過去には例外的に肯定された例もありますが、「博多人形」、「仏壇の彫刻」、「妖怪フィギュア」など、かなり限定されます。

 

椅子に至っては、著作物ではないと判断されている過去の判例もあります。

 

ところが、今回、知財高裁第2部の裁判体は、椅子について、その一部分だけですが著作物性を肯定し、著作物ではないとした1審とは違う判断をしました。

 

ストッケ社が著作権侵害を主張しているのを読んで、1審と同様あっさり否定されるんだろうなと思いながら読み進めると、

なんと、なんと、著作物性を認めているではないですか!!

 

 

 

この判決で注目すべきなのは、まず、「応用美術」の著作物性を判断する際の判断手法です。

 

これまで、本件の1審の東京地裁判決でも示されているように、

 

  「美的鑑賞の対象となり得るような美的創作性があるかどうか」

 

によって判断するのが一般的でした。

 

1審では、この判断手法にしたがい、「TRIPP TRAPP」は美的鑑賞の対象となるようなものではない、とあっさり否定です。

まあ、これまでの考え方からすれば、そうなるでしょうね。 

 

 

ところが、今回の知財高裁2部は、

 

 「個別具体的に、作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべき」

 

として、これまでとは違う判断手法を示しました。

 

判決では、「美的という観点からの高い創作性の判断基準を設定することは相当とはいえない。」と、従来の判断手法を否定。

意匠法とのすみ分けについても、それを理由に著作物としての認定を厳格にする合理的理由は見出し難い、と言っています。

 

判決を読むと、デザインも著作権で保護する余地を認めようとする裁判所の姿勢が伝わってくる。

 

 

そして、「TRIPP TRAPP」については、ザックリ言うと(ほんとザックリですけど…)、

 

 ① 脚が2本で、その内側に形成された溝に、座面や足置き台をはめ込んでいる点

 ② 2本の脚がそれぞれ鋭角にV字のようになっている点

 

にデザイナーの個性が発揮されていて、創作性があるとしました。

 

 

「応用美術」について、新しい判断手法が示されるとともに、著作物性を肯定した例が一つ増えましたね。

この新しい手法でいけば、「応用美術(デザイン性のある実用品)」について、著作物性が認められる余地が高まりそうです。

つまり、機能的な制約がなく、自由にデザインを選択できる中で、これまでにない新しいデザインをした部分があれば、そこに著作物性が認められる余地がでてくる。

 

んー。この判断手法、今後、一般化していくのでしょうか。

 

ただ、著作物と認められる範囲は一部に限られるので、そこが違っていたら著作権侵害にはなりません。

上記の訴訟でも、相手の製品は、著作物と認められた「TRIPP TRAPP」の特徴部分を備えていないとして、結局は、ストッケ社の請求は棄却されています。

なので、単に漠然と似ているというだけで著作権侵害が認められるというわけでは、もちろんありません。

 

ですが、ほとんどデッドコピーといえるくらいの模倣品なら、著作権を使う余地が出てきそうです。

デザイン性ある実用品について、その模倣品を防止する手段の一つとして、今後使えるかもしれませんね。

 

 

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