弁護士早瀬のネットで知財・法律あれこれ 

理系で特許事務所出身という経歴を持つ名古屋の弁護士があれこれ綴る雑記帳です。

ノンアルコールビールの特許訴訟

2015-10-30 19:01:39 | 特許

ノンアルコールビールの特許を侵害したとして、サントリーがアサヒビールを訴えた件、

昨日、東京地裁で判決があったみたいですね。

 

 特許権訴訟 サントリーの訴え退ける判決(NHKニュース)


このニュースによると、サントリーの特許権は、「同業者が容易に考えつくもので無効」と判断されたもようです。

 

 

これまで何度も書いてますが、特許権というのは、それが成立するには、

 ・ 新規性(過去に公開されていないこと)

 ・ 進歩性(過去に公開されたものから容易に考えつくものでないこと)

などの要件を満たしていることが必要です。

 

特許出願すると、こうした要件が特許庁の審査官によって審査され、大丈夫という判断があって初めて特許権という権利が成立します。

 

 

もっとも、特許庁の審査でOKとされて権利になった場合でも、

後から、裁判所が、上記のような要件を満たいしていないとして、特許無効と判断することがあります。

 

 

今回は、相手のアサヒビールが、サントリーの特許は、上記の進歩性の要件を欠く、

つまり、過去に公開されている技術から同業者が容易に考えつくものだから無効、と主張し、

それが裁判所によって認められた。

 

特許が無効である以上、無効な権利に対して侵害もへったくれもないわけで、

侵害したかどうかが判断されるまでもなく、サントリーの請求は棄却されたというわけ。

 

ちなみに、アサヒビールのニュースリリースを見ると、訴訟前の交渉段階から、

アサヒビールは、この特許は容易に考えつくものだから無効だと主張をしていたみたいですね。

 

 

今回のサントリーの特許ですが、その内容は、pHや糖質の数値を限定したもの。

 

 

一般に、数値を限定しただけの発明は、容易に考えつくものだとの判断がなされます。

数値範囲の最適化は、同業者であれば普通に考えることだから。

 

ただ、その場合でも、特定の数値に限定すると、際立ってものすごい効果が得られる、という場合は、

容易に考えつくものではないとして、特許になる可能性が出てきます。

 

 

サントリーの特許を審査した審査官のメモを見ると(特許庁のデータベースで公開されてます。)、

数値の限定によって、その際立った効果があるとして、特許性を認めている。

でも、裁判所は、そうは考えず、同業者が普通に考えることと判断しました。

 

 

まだ、判決文は公開されていませんが、

公開されたら、当事者双方がどんな主張をして、裁判所がどう判断したのか、

読んでみたいと思います。

 

 

ポチッと,クリックお願いします!
   ↓↓↓↓↓↓↓   
    にほんブログ村 経営ブログ 法務・  知財へ

 

法律事務所と特許事務所が、AIGIグループとしてタッグを組んでます。
それぞれのページをぜひご覧ください!

 

 ★あいぎ法律事務所(名古屋)による知財・企業法務サポート

 

   〇知的財産トラブル
      特許権・実用新案権の侵害

      商標権の侵害
      意匠権の侵害
      著作権の侵害
      不正競争防止法(不競法)

 

   警告書(通知書・内容証明)対応
      警告書(通知書・内容証明)って何?
      始まりはいつも警告書(通知書・内容証明)

 

   〇契約書
      契約書の作成・チェック
      契約書のチェックポイント

   〇顧問契約

   ※名古屋商工会議所の会員です(HP)。

 ★あいぎ特許事務所
    商標登録に関する情報発信ページ「中小・ベンチャー知財支援サイト」もあります。 


ご無沙汰です

2015-10-15 23:05:28 | 特許

ご無沙汰です(-_-;)

しばらくブログの更新をサボってまして…

前回の記事が8月31日なので、1ヶ月半ほどのブランクが空いてしまいました。

いい加減に更新しないと、と思っていたところ、ニュース記事でこんなのを見つけました。

 

 「小6少女が特許取得 缶を自動分別するごみ箱
 夏休みの自由研究きっかけに」 産経ニュース

 

スチール缶とアルミ缶とを分別できる箱の特許を、小学生が取得したというお話。

分別に磁石を使うという発想はよくありがちですが、

磁石の配置や可動式のプラ板を設置するなど、工夫を加えることで、特許が取れたみたいですね。

 

 

すでに特許公報が発行されていますが、これを見ると、女の子は、

発明者であるのはもちろん、特許の権利者にもなってます。

 

ただ、本人は小学生ですから、法定代理人である親御さんも表示されています。

 

 

民法の規定によると、小学生は未成年者なので、

法律行為(契約など法律上の権利義務が発生する意思表示をすること)をするには、

法定代理人(普通は親御さん)の同意が必要です。

 

小遣いを握りしめてお菓子を買うことまでは同意いらないですけどね。

 

法定代理人の同意があれば、自ら法律行為することができることになっています。

 

 

でも、特許法では、未成年者が権利取得の手続をすることが基本的にはできず、

法定代理人が代わりに行わなければならないとされています(特許法7条1項本文)。

意匠や商標法でもこの規定が準用されているので同じです。

 

特許権を取得する手続を未成年者がするには難しかろう、ということで、

未成年者を保護するために、法律でこのように取り決めています。

 

※ちなみに、

著作権は権利取得するのに手続不要なので、小学生が描いた絵は、

絵を描き上げた時点で、その絵を描いた子が著作権者となります。

未成年者でも、権利義務の主体となりますからね。

今回の特許権の権利者が、発明をした女の子であるように。 

 

 

特許公報を読むと、分別に失敗する場合もあるらしいので、製品化にはまだハードルがありそう。

でも、女の子にとっては、今回の特許取得が物作りへのインセンティブになるし、

話題にもなるので、微笑ましい話題でした。

 

 

ポチッと,クリックお願いします!
   ↓↓↓↓↓↓↓   
    にほんブログ村 経営ブログ 法務・  知財へ

 

法律事務所と特許事務所が、AIGIグループとしてタッグを組んでます。
それぞれのページをぜひご覧ください!

 

 ★あいぎ法律事務所(名古屋)による知財・企業法務サポート

 

   〇知的財産トラブル
      特許権・実用新案権の侵害

      商標権の侵害
      意匠権の侵害
      著作権の侵害
      不正競争防止法(不競法)

 

   警告書(通知書・内容証明)対応
      警告書(通知書・内容証明)って何?
      始まりはいつも警告書(通知書・内容証明)

 

   〇契約書
      契約書の作成・チェック
      契約書のチェックポイント

   〇顧問契約

   ※名古屋商工会議所の会員です(HP)。

 ★あいぎ特許事務所
    商標登録に関する情報発信ページ「中小・ベンチャー知財支援サイト」もあります。 


特許査定に対する不服申立て

2015-07-17 20:28:15 | 特許

台風11号の影響で、名古屋は昨日からずっと雨。

結構風も強いです。明日までは雨が続きそうな感じ。

もう一つの台風(12号)もいるので、梅雨明け、どうなんでしょうね。

 

 

さて、今日は、特許査定に対する不服申立てが争われた、ちょっと変わった判決を紹介します。

知財高平成27年6月10日判決(知財高裁3部)です。

 

なにが変わっているかって、

特許庁の審査官が特許にしてあげますよ、と判断しているのに、それは困る、と判断されているから。

 

特許権という権利はあげられません、という不利益な特許庁の処分を争う、

というのなら話は分かりやすいし、そのための手続はいろいろ用意されています。

 

でも、この案件は、本当だったらうれしいはずの処分が不服だとして、法廷で争っている。

 

 

どうしてこういうことになるのかというと、

手続を代理した弁理士さんがポカしちゃっかからなんですね。

削除しなくてもいい構成まで削除する補正をしてしまい、そのまま特許になっちゃった。

 

 

具体的には、

化合物の組成において、本来なら、

 「置換基R1はフッ素であり、置換基R2は水素原子、C1-C3アルコキシ、C1-C3アルキルまたは塩素であり」

と記載すべきところ、誤って、

 「置換基R1はフッ素であり、置換基R2は塩素であり」

と、置換基R2の内容を塩素だけに限定し、これが特許されるべきだと主張してしまった。

 

 

審査官は、事前の打合せで、置換基R1をフッ素に限定すればOKと出願人側に回答していました。

そしたら、出願人は、置換基R1だけでなく、置換基R2まで限定してきた。

そこまで限定するのね、あっそう、てな感じで特許査定したというわけ。

 

誤って限定しすぎたので、特許査定を取り消すよう求めて特許庁と争ったのが本件です。

 

 

主な争点は、次の点です。

 (1) 特許査定に対して行政不服審査法に基づく不服申立てができるか

 (2) 補正について錯誤無効の主張が認められるか

 (3) 無効確認訴訟において特許査定が無効とされるか

 

 

と、ここまで書いて、なんだかすごく長くなりそうなので、残りは次回にします(すみません…)。

 

 

ポチッと,クリックお願いします!
   ↓↓↓↓↓↓↓   
    にほんブログ村 経営ブログ 法務・  知財へ

 

法律事務所と特許事務所が、AIGIグループとしてタッグを組んでます。
それぞれのページをぜひご覧ください!

 

 ★あいぎ法律事務所(名古屋)による知財・企業法務サポート

 

   〇知的財産トラブル
      特許権・実用新案権の侵害

      商標権の侵害
      意匠権の侵害
      著作権の侵害
      不正競争防止法(不競法)

 

   警告書(通知書・内容証明)対応
      警告書(通知書・内容証明)って何?
      始まりはいつも警告書(通知書・内容証明)

 

   〇契約書
      契約書の作成・チェック
      契約書のチェックポイント

   〇顧問契約

   ※名古屋商工会議所の会員です(HP)。

 ★あいぎ特許事務所
    商標登録に関する情報発信ページ「中小・ベンチャー知財支援サイト」もあります。  


プロダクトバイプロセスクレーム事件の最高裁判決が出た! 前回の続き

2015-06-26 23:07:19 | 特許

前回の記事から2週間が空いてしまいました。

このところ、ブログ更新が滞ってていかんです(-_-;)

 

ところで最近、久しぶりに刑事の国選事件が回ってきて受任しました。

その中で、準抗告の申立てをやってみました。

刑事事件の受任数が少ないので、弁護士3年目にして成人の事件では初めてです。

 

準抗告というのは、裁判所の判断に不服を申し立てる手続のこと。

今回は、基本10日となっている身柄拘束(勾留)期間を、さらに延長するという判断に対し、

  ・ 延長不要じゃないか

  ・ 仮に延長しても、もっと少ない期間とすべきだ

と不服を申し立てたんですが、残念ながら却下。

 

この程度の事案で、延長なんかする必要あるんか、とか、

延長なんて捜査の怠慢じゃないのかという素朴な感覚を持ったので、

迷いながらもやってみたんですが、なかなか難しいですね。

 

延長取消はさすがに難しくても、少しは期間を短くしてくれるかなあと期待していたんですが、

そんな期待もむなしく…

早く処分を決めてほしいと思ってる被疑者の方には残念な結果でした。

 

とはいえ、やってみると、いろいろ勉強になったなあというのが正直な感想です。

 

 

 

さてさて、今日は、刑事事件の話がメインではありません。

前回に続いて、プロダクトバイプロセスクレーム事件の最高裁判決の話がメインです。

 

 

前回、

 プロダクトバイプロセスクレームとはどういうものか、

 今回の事案での問題点は何か、

ということを書きました。

 

今日は、その問題点について、最高裁がどういう判断したかについてです。

 

プロダクトバイプロセス形式の物の発明について、

物としては同じだけど、特許された製造方法とは違う方法で作っている場合も特許権侵害といえるか、

という点について、最高裁は、

 「その特許発明の技術的範囲は、当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として確定されるものと解するのが相当である。」

と判示して、物として同じであれば、製造方法が違っていたとしても特許権侵害となると判断しました。

いわゆる物同一説というやつです。

 

とはいえ、それだけで話は終わらない。

 

最高裁は、さらに、プロダクトバイプロセス形式の物の発明について、

 「発明の明確性」

を問題としました。

 

つまり、製造方法で物を特定する手法は、物としての構造や特性等が不明確であると指摘し、

「発明が明確であること」という特許権成立に必要な要件を欠いていると。

 

ただ例外的に、構造又は特性によっては特定不可能又はおよそ実際的でない場合なら、

製造方法で特定しても不明確とはいえず、特許として問題ないという判断です。

 

 

これは、えらいこっちゃ~ですね。

 

なぜって、現実問題として、

プロダクトバイプロセス形式の物の発明としてすでに特許が成立しているものが、多数存在しているわけです。

今回の最高裁の判断によると、それらの多くが、特許無効となる理由を内在することになってしまいます。

 

化学業界の方たちは、いや困った困ったって状態ではないでしょうか。

 

それでは特許無効を争う訴訟が頻発してしまうよとして、行政官出身の山本裁判官はこの考え方に反対されました。

(反対の理由はそれだけじゃないですが…)

 

一方、裁判長の千葉裁判官は、

すでに特許されたものは、訂正請求や訂正審判といった手続を利用できるが、

現実に生じる問題の処理は個別に考えることになるだろう

と補足意見を述べられています。

 

 

まあ、最高裁はあくまで法律の考え方を示すところですからね。

プロダクトバイプロセス形式の物の発明について、法律的には上記したように考える、

あとの個別具体的な問題は、その都度なんとかうまくやりなさい、ということなんでしょう。

 

 

というわけで、

この最高裁判決が実務に与える影響は結構大きいです。

 

特許庁でも、さっそく審査基準改訂の検討が始まってます。

 プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する審査基準及び審査・審判の取扱いについて

 

 

ポチッと,クリックお願いします!
   ↓↓↓↓↓↓↓   
    にほんブログ村 経営ブログ 法務・  知財へ

 

法律事務所と特許事務所が、AIGIグループとしてタッグを組んでます。
それぞれのページをぜひご覧ください!

 

 ★あいぎ法律事務所(名古屋)による知財・企業法務サポート

 

   〇知的財産トラブル
      特許権・実用新案権の侵害

      商標権の侵害
      意匠権の侵害
      著作権の侵害
      不正競争防止法(不競法)

 

   警告書(通知書・内容証明)対応
      警告書(通知書・内容証明)って何?
      始まりはいつも警告書(通知書・内容証明)

 

   〇契約書
      契約書の作成・チェック
      契約書のチェックポイント

   〇顧問契約

   ※名古屋商工会議所の会員です(HP)。

 ★あいぎ特許事務所
    商標登録に関する情報発信ページ「中小・ベンチャー知財支援サイト」もあります。  


プロダクトバイプロセスクレーム事件の最高裁判決が出た!

2015-06-12 21:35:10 | 特許

前回記事の翌日に、この名古屋は梅雨入りです。

ジメジメしていますが、気温が上がらず、涼しいのはいいですね。

 

 

 

さて、今日は、先週末に出た、特許に関する最高裁判決(最高裁平26.6.5第二小法廷判決  )について触れようかと。

 

最高裁が特許などの知的財産事件で判断を示すことは少ないので、注目です。

 

しかも、知的財産高等裁判所という専門部の中の、さらに通常よりも重みのある事件を扱う特別部がした判断を覆した。

その点でもかなり重要。

 

長くなるので、今日のところは、まず前提部分の説明です。

 

1 プロダクトバイプロセスクレームというものについて

 

特許は発明に対して与えられる権利ですが、その発明には、「物」の発明と、「方法」の発明がある。

 

例えば、

 Aという成分を有する青汁粉末

というのは、「青汁粉末」という物の発明(Aという成分が特徴)。

 ※ ちなみに、最近、気休めにこんな青汁飲んでるので、青汁を例にしてみた(^_^;)

 (なお、この写真は生協の青汁ですが、事件とも特許とも関係ないのでご注意を!)

 

一方、

 B工程を経て、Cを行って青汁粉末を得る青汁粉末の製造方法

というのは、「青汁粉末の製造方法」という方法の発明(B工程やCが特徴) 。

 

といった感じです。

 

ところが、薬などの化学分野では、新規物質の構造や特性を特定することが難しい場合がある。

 

そこで、物の発明であるのに、方法的な記載でその物を特定する場合がありました。

こういうのを「Product by Process(プロダクトバイプロセス)」クレームと呼びます。

 

例えば、

 Aの濃縮溶液を作り、Bを沈殿させ、それを精製する方法で製造されるC物質

といった感じで、C物質という物を、製造方法を使って特定します。

 

 

2 本事案での問題点は?

 

さっきのような、プロダクトバイプロセスの形式で特許となった場合、それとは違う製造方法で同じC物質を作って売っている会社に対し、作るなとか損害賠償しろといえるか。

物は同じだけど、特許された製造方法とは違う方法で作っている場合も特許権侵害といえるかということです。

今回の事案では、この点が問題となりました。

 

 

これまで、

 ・ 物さえ同じであれば、製造方法が違っていても問題ないんだ、という考え方と、

 ・ いや、製造方法を特定しているのだから、物が同じでも作り方が違えば違うはずだ、という考え方

の2つの考え方があり、見解が分かれていました。

 

 

そこで、知的財産高等裁判所の裁判官5人で構成される特別部(通常部は裁判官3人)は、

 ・ 物をその構造や特性によって特定することが不可能または困難な場合は、物さえ同じであればいい、

 ・ しかし、そういう事情がない場合は、製造方法も含めて判断する

という考え方を採用しました。

上記の2つの考え方を折衷したような考え方です。

 

これに対し、最高裁判所の第二小法廷は、どういう判断をしたか?

知的財産高等裁判所とは違った判断をしたわけですが、それについては、次回の記事で!

 

 

ポチッと,クリックお願いします!
   ↓↓↓↓↓↓↓   
    にほんブログ村 経営ブログ 法務・  知財へ

 

法律事務所と特許事務所が、AIGIグループとしてタッグを組んでます。
それぞれのページをぜひご覧ください!

 

 ★あいぎ法律事務所(名古屋)による知財・企業法務サポート

 

   〇知的財産トラブル
      特許権・実用新案権の侵害

      商標権の侵害
      意匠権の侵害
      著作権の侵害
      不正競争防止法(不競法)

 

   警告書(通知書・内容証明)対応
      警告書(通知書・内容証明)って何?
      始まりはいつも警告書(通知書・内容証明)

 

   〇契約書
      契約書の作成・チェック
      契約書のチェックポイント

   〇顧問契約

   ※名古屋商工会議所の会員です(HP)。

 ★あいぎ特許事務所
    商標登録に関する情報発信ページ「中小・ベンチャー知財支援サイト」もあります。