弁護士早瀬のネットで知財・法律あれこれ 

理系で特許事務所出身という経歴を持つ名古屋の弁護士があれこれ綴る雑記帳です。

意匠権の活用

2015-01-30 22:32:45 | 意匠・商標

前回の記事で,知財高裁のことを書きました。

その時,大合議事件の判決について触れたいとも書いたので,今日の記事では,そのうちのプロダクトバイプロセスクレーム事件について触れようかと思いましたが,えー,断念します。

短い時間でまとめられるようなものではないので(と言い訳…),また今度。

 

その代りに何を書こうなと思っていたら,Yahooニュースにこんな記事が。

 グリコが韓国ロッテを提訴(産経新聞)

日本ではなく,韓国での話なのですが,今日はこれで行きます。

 

記事によると,グリコは,意匠権侵害を根拠に提訴したようです。

調べてみると,このポッキープレミアム版「バトンドール」の商品パッケージについて,グリコは日本でも意匠権を取得しています。

こういった商品パッケージは著作権では保護されないので,予め意匠権を取得しておくことが肝要です。

パッケージの構造上の工夫とかがあれば,特許も取得できます。

後は,意匠権を取得できていなかったら(意匠権侵害の主張と共にでもいいですが),不正競争防止法違反を問うことになります。

韓国にも日本の不正競争防止法と似たような法律があるので,グリコはその点も提訴の法的根拠としているかもしれませんね。

 

ただ,意匠権ですが,ある商品の機能を得る上で,形は自由に変えてしまえるという場合にはあまり有効に作用しません。

本件の商品パッケージでも,今回は似たような形のパッケージを韓国ロッテが使ったので意匠権を問題にできましたが,違う商品パッケージにされてしまえば,意匠権は及びません。

同じ形のものを作らせないという意味では有効ですが,形を変えられるとなかなか意匠権では対処が難しい。

 

とはいえ,意匠権には,やり方によってはうまく使える場合がある。

たとえば,機能上,構造上,顧客のニーズ等から,ある特定の形にならざるを得ないような場合です。

ごくごく単純な例をいえば,スマホケースのデザインでは,サイドにあるボタン部分には必ず穴を開けないといけないとか。

 

このあたりの,どうやったらうまく意匠権を取って活用できるかは,商品の性質,流通の実態等,いろいろな点を考慮して判断する必要があります。

単純にデザインしたから意匠登録出願しとけばいい,という意識では,失敗することもあり得るので,その点はご注意を。

 

で,今日の話題とは全然関係ないですが,ここで他のブログのご紹介を。

 「邦人人質事件に思う」(中東の窓)

全くその通りだよなあと思ったので、紹介しました。

後藤さんとヨルダン人のパイロットの方、2人が無事に解放されることを祈って…

 

 

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知財高裁設立10周年

2015-01-28 23:47:27 | 知財一般

唐突ですが、「ジュリスト」という法律雑誌があります。

法律を扱う実務家のための専門雑誌なので、一般的にはマイナーかもしれませんが、法律にかかわる人の中では有名です。

 

専門雑誌や業界雑誌って、ものすごくたくさんあって、結構ディープな世界が広がっているような気がします。

日経新聞1面の下に、いつも書籍・雑誌の広告が載っていますが、へぇ~こんな業界の雑誌なんてあるんだと驚いたことも。

どんな業界雑誌だったかは忘れてしまいましたが…

 

話がそれました。

そのジュリストの1月号では、知財高裁が設立されてから今年の4月でちょうど10周年になるということで、その記念特集が組まれていました。

ちなみに、知的財産高等裁判所というのは、東京高裁の一部であり、知的財産の事件を専門的に扱う高等裁判所のことです。

 

知財高裁といえば、修習生の時に、2日間だけですが、そこで修習させていただきました。

(霞が関の裁判所合同庁舎内にある知財高裁の看板)

 

配属されたのは、知財高裁第2部。当時の部長は塩月さん(今は退官されて弁護士をされています。)です。

たったの2日間なので、正直、雰囲気を味わっただけのような感じでしたが…

裁判所の隣にある農水省の食堂でお昼ご飯を一緒に食べたことはよく覚えているんですけどね(笑)

農水省だけあって、結構メニュー豊富だったなあとか。

それでも、期日を傍聴させていただいたり、担当裁判官からお話を聴かせていただいたのは、大変貴重な経験だったなと思います。

 

そうそう、当時、法廷傍聴していてビックリしたことが一つ。

一通りの手続が終わった後に、塩月部長が、おもむろに「あくまで独り言ですけど」と言いながら、裁判所としては〇〇という点に関心を持っています、とかなり積極的な釈明をしたということがありました。

「独り言」って…

双方代理人弁護士がついている中で、こんな訴訟指揮もあるんだなと。

 

ちなみに、記念特集では、知財高裁が出した大合議事件の判決について解説が載っています。

重要判例ばかりなので、おいおいこのブログでも触れていきたいなと思ってます。

 

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営業秘密に関する動向

2015-01-23 13:00:00 | 知財一般

前回の続きです。

 

産業構造審議会では、情報漏えいに対する抑止力の強化が検討されています。

情報が盗まれて大きな問題になっている例が増えてるからです。

 

営業秘密に関しては、不正競争防止法(不競法)により、民事と刑事の両面から規律されているので、その改正をしようという話。

中間取りまとめ案をみると、検討されている方向性としては、次のような感じです。

 ※一部省略したものもあります。

 

☆ 処罰対象の拡大

 ・国外で情報を不正取得した場合も処罰対象とする。

 ・未遂行為も処罰する。

  未遂というのは、犯罪行為に着手したけど、結果が発生しなかったという場合のこと。

  情報を不正に取得しようとしたけど、結果的には取得できなかったという場合でも処罰しようということです。

 ・不正取得された情報の三次取得者も処罰する。

 ・不正に取得された情報を使った商品だと知りながら販売したり、輸入したりする行為も処罰。

 

☆ その他の見直し

 ・個人や法人に対する罰金刑の引き上げ。

 ・不正に取得された情報を使って得た収益の没収

 ・非親告罪化

  現状では、親告罪といって、被害会社からの告訴がないと、警察による捜査がされず、起訴もできません。

  これを、告訴がなくてもできるようにしようということです。

 

☆ 民事規定

 ・被害を受けた会社の立証責任軽減

  被害会社としては、盗まれた情報を使っている会社に対し、情報の使用差止めや損害賠償を請求できます。

  ただ、その場合には、相手が盗まれた情報を使っているとの証明をしなければならないのですが、それがなかなか難しい。

  そこで、被害会社がもう少し証明の簡単な事実を証明すれば、相手が盗まれた情報を使っていると推定するという形にしましょうというもの。

 ・除斥期間の延長

  除斥期間というのは、その期間が過ぎると、民事上の請求ができなくなるというもの。 

  民法の原則では20年なのですが、現状の不競法では10年に短縮されてしまっています。

  これを20年まで延長しようという話です。

 ・不正取得された情報を使った商品の販売や輸出入差止め

  現状ではこれができないのですが、できるようにするという話です。

 

中間とりまとめ案の段階なので、最終的にどこに落ち着くのかはまだわかりません。

気になった点は、法定刑の引き上げですね。

法定刑をいくら重くしても、結局、情報を盗む人は盗むわけです。

また、情報を盗んだ人がいきなり実刑くらって即刑務所行き、ということもこれまでにない。

初犯だと執行猶予付きになるの通常なので。

そんな中で、法定刑引き上げが抑止力なるのか、ということで、そこは審議会でも問題提起されているようです。

 

こうやって制度を整備したとしても、それだけでもう安心だよね、という話にはならないです。

でも、対策がいろいろ整備されているという状況は、ないよりあった方がいいはずなので、議論が進むことを期待したいですね。

 

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営業秘密を巡る最近の話題

2015-01-21 18:46:29 | 知財一般

☆ 最初は時事ネタから。

東芝の半導体メモリに関する情報を韓国企業に漏らしたの刑事事件で、昨日、初公判があったようですね。

 日経の記事はこちら

被告人は、起訴内容を認めたそうです。

起訴内容を認めつつ、弁護人が「秘匿性の高い情報ではなかった。」と主張していますが、これは、情状(量刑にかかわる事情)のうち、犯情(犯罪事実に関する情状)の主張です。

つまり、有用な情報ではなかったのだから、科される刑罰は軽いはずだというわけです。

検察側は、極めて有用な情報だったと主張しているので、その立証のための証人尋問が次回行われるのでしょうね。

韓国企業(SKハイニックス)との民事訴訟で、和解金が約330億円にもなった案件なので、有用性は低いという主張はなかなか難しいのではないかと。

 

とはいえ、被告人がそう考えているのであれば、弁護人としてはそう主張しなければならないです。

それが弁護人の役割なので。

 

☆ 産業構造審議会情報

さて、営業秘密といえば、経産省の産業構造審議会知的財産分科会(営業秘密の保護・活用に関する小委員会)における議論が進みつつあります。

議論の方向性が少し見えてきたので、ここで取り上げたいと思います。

 

審議されている事項は、いくつかあるのですが、まずは、営業秘密管理指針について。

 

この営業秘密管理指針というのは、従来から、経産省のホームページ上で公表されていました。

情報が営業秘密と認められるための要件である「秘密管理性」について、判例の検討を踏まえながら、具体的にどう管理していけばよいのかについて、指針が示されていました。

ところが、この管理指針、平成15年以来何度も改訂され、あれもこれもと盛り込みすぎたせいで、現状では全部で89ページという大部です。

ページ数だけで読む気が失せますし、中身も、あれこれ盛り込みすぎてしまいました。

で、結局どうするればいいかよくわからん、という状態にあり、非常にわかりにくいものでした。

 

そのような問題意識から、もっとわかりやすいものを、ということで、全面改訂されることになりました。

その改定案が公表されています(まだドラフト段階で正式版ではないですが…)。 → こちら

 

改訂後の指針は、情報の管理として、最低限、何をすればよいのかを示すという方針で作成され、情報の状態(紙に書かれているのか、データとしてあるのか等)に応じて、具体的にどうすればよいのかが示されています。

なので、結構わかりやすい形になっているのではないかなと思います。

 

しばらくすると、正式版がリリースされると思います。

情報流出対策を考える際の一つの参考資料となりますね。

 

あと、審議会では、不競法の改正も議論の対象となっていますが、そのあたりはまた次回に。

 

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時事ネタ ~居酒屋笑笑の件~

2015-01-15 18:38:49 | 意匠・商標

今日の名古屋は大雨でした。

午前中に名古屋地裁で裁判期日があり、地下鉄の駅から歩いて裁判所まで行ったところ、膝から下がずぶ濡れになってしまいました(>_<)

 

さて、知的財産に関する昨日のニュースといえばこれですかね。

 「笑笑」そっくり家宅捜索 2店近接、商標権侵害の疑い(1/14日経)

 

広島県福山市で、「笑・笑(わらわら)」という居酒屋の名前が、モンテローザの商標権を侵害しているとの容疑により警察の捜索を受けました。

モンテローザは、飲食物の提供という区分で、「笑笑」や「わらわら」という商標権を持っています。

侵害かどうかは裁判所が判断することなので、現状ではあくまで容疑というレベルですが、看板を見ると、商標権侵害ありと言っていいのではないでしょうか。

 

商標権侵害の場合、民事事件として、使用差止めや損害賠償が問題となることはもちろん、侵害罪として刑事事件の対象となることも多いです。

典型的なのは、偽ブランド品なんかを所持したり、売った場合。

特許権侵害がほとんど刑事事件にならないのとは違います。

 

本件のように誰が見てもアウトでしょ、とわかる場合や、偽ブランド品のようにドンピシャの商標権侵害の場合など、侵害判断が容易な場合があるからでしょうね。

特許権では、侵害かどうかの判断が簡単ではないので、刑事事件として立件される場合は少ないんだと思います。

 

ところで、商標権侵害罪が成立するには、商標権侵害行為をしているというだけでなく、自身の行為が他人の商標権を侵害していることの故意が必要です。

そうすると、本件の店の経営者が、「笑笑(わらわら)」の名前が商標登録されているなんて知らなかったと言った場合はどうなるのでしょう?

故意がないとして商標権侵害罪という犯罪にはならず、無罪だと言い逃れできるか?

 

この場合、確かに、商標権侵害についての確定的な認識はなかったことにはなるのかもしれません。

でも、言い逃れはおそらくできないでしょうね。

モンテローザの居酒屋「笑笑」は全国的に有名だし、店の経営者も「笑笑」の存在を知っていたと言っているし、居酒屋という業態も同じなので、不確定ながらも、登録商標を勝手に使っているかもしれんという認識はあったはずと判断される可能性が高いからです(未必の故意といいます)。

 

ちなみに、商標権侵害罪の法定刑ですが、登録商標そのものを勝手に使った場合、個人に対しては、10年以下の懲役、1000万円以下の罰金、又はその両方。

登録商標に類似する名前を使った場合は、5年以下の懲役、500万円以下の罰金、またはその両方。

会社の代表者が商標権侵害をした場合は、代表者だけでなく、会社に対しても3億円以下の罰金。

結構重たい犯罪です。

 

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