弁護士早瀬のネットで知財・法律あれこれ 

理系で特許事務所出身という経歴を持つ名古屋の弁護士があれこれ綴る雑記帳です。

プロダクトバイプロセスクレーム事件の最高裁判決が出た! 前回の続き

2015-06-26 23:07:19 | 特許

前回の記事から2週間が空いてしまいました。

このところ、ブログ更新が滞ってていかんです(-_-;)

 

ところで最近、久しぶりに刑事の国選事件が回ってきて受任しました。

その中で、準抗告の申立てをやってみました。

刑事事件の受任数が少ないので、弁護士3年目にして成人の事件では初めてです。

 

準抗告というのは、裁判所の判断に不服を申し立てる手続のこと。

今回は、基本10日となっている身柄拘束(勾留)期間を、さらに延長するという判断に対し、

  ・ 延長不要じゃないか

  ・ 仮に延長しても、もっと少ない期間とすべきだ

と不服を申し立てたんですが、残念ながら却下。

 

この程度の事案で、延長なんかする必要あるんか、とか、

延長なんて捜査の怠慢じゃないのかという素朴な感覚を持ったので、

迷いながらもやってみたんですが、なかなか難しいですね。

 

延長取消はさすがに難しくても、少しは期間を短くしてくれるかなあと期待していたんですが、

そんな期待もむなしく…

早く処分を決めてほしいと思ってる被疑者の方には残念な結果でした。

 

とはいえ、やってみると、いろいろ勉強になったなあというのが正直な感想です。

 

 

 

さてさて、今日は、刑事事件の話がメインではありません。

前回に続いて、プロダクトバイプロセスクレーム事件の最高裁判決の話がメインです。

 

 

前回、

 プロダクトバイプロセスクレームとはどういうものか、

 今回の事案での問題点は何か、

ということを書きました。

 

今日は、その問題点について、最高裁がどういう判断したかについてです。

 

プロダクトバイプロセス形式の物の発明について、

物としては同じだけど、特許された製造方法とは違う方法で作っている場合も特許権侵害といえるか、

という点について、最高裁は、

 「その特許発明の技術的範囲は、当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として確定されるものと解するのが相当である。」

と判示して、物として同じであれば、製造方法が違っていたとしても特許権侵害となると判断しました。

いわゆる物同一説というやつです。

 

とはいえ、それだけで話は終わらない。

 

最高裁は、さらに、プロダクトバイプロセス形式の物の発明について、

 「発明の明確性」

を問題としました。

 

つまり、製造方法で物を特定する手法は、物としての構造や特性等が不明確であると指摘し、

「発明が明確であること」という特許権成立に必要な要件を欠いていると。

 

ただ例外的に、構造又は特性によっては特定不可能又はおよそ実際的でない場合なら、

製造方法で特定しても不明確とはいえず、特許として問題ないという判断です。

 

 

これは、えらいこっちゃ~ですね。

 

なぜって、現実問題として、

プロダクトバイプロセス形式の物の発明としてすでに特許が成立しているものが、多数存在しているわけです。

今回の最高裁の判断によると、それらの多くが、特許無効となる理由を内在することになってしまいます。

 

化学業界の方たちは、いや困った困ったって状態ではないでしょうか。

 

それでは特許無効を争う訴訟が頻発してしまうよとして、行政官出身の山本裁判官はこの考え方に反対されました。

(反対の理由はそれだけじゃないですが…)

 

一方、裁判長の千葉裁判官は、

すでに特許されたものは、訂正請求や訂正審判といった手続を利用できるが、

現実に生じる問題の処理は個別に考えることになるだろう

と補足意見を述べられています。

 

 

まあ、最高裁はあくまで法律の考え方を示すところですからね。

プロダクトバイプロセス形式の物の発明について、法律的には上記したように考える、

あとの個別具体的な問題は、その都度なんとかうまくやりなさい、ということなんでしょう。

 

 

というわけで、

この最高裁判決が実務に与える影響は結構大きいです。

 

特許庁でも、さっそく審査基準改訂の検討が始まってます。

 プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する審査基準及び審査・審判の取扱いについて

 

 

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プロダクトバイプロセスクレーム事件の最高裁判決が出た!

2015-06-12 21:35:10 | 特許

前回記事の翌日に、この名古屋は梅雨入りです。

ジメジメしていますが、気温が上がらず、涼しいのはいいですね。

 

 

 

さて、今日は、先週末に出た、特許に関する最高裁判決(最高裁平26.6.5第二小法廷判決  )について触れようかと。

 

最高裁が特許などの知的財産事件で判断を示すことは少ないので、注目です。

 

しかも、知的財産高等裁判所という専門部の中の、さらに通常よりも重みのある事件を扱う特別部がした判断を覆した。

その点でもかなり重要。

 

長くなるので、今日のところは、まず前提部分の説明です。

 

1 プロダクトバイプロセスクレームというものについて

 

特許は発明に対して与えられる権利ですが、その発明には、「物」の発明と、「方法」の発明がある。

 

例えば、

 Aという成分を有する青汁粉末

というのは、「青汁粉末」という物の発明(Aという成分が特徴)。

 ※ ちなみに、最近、気休めにこんな青汁飲んでるので、青汁を例にしてみた(^_^;)

 (なお、この写真は生協の青汁ですが、事件とも特許とも関係ないのでご注意を!)

 

一方、

 B工程を経て、Cを行って青汁粉末を得る青汁粉末の製造方法

というのは、「青汁粉末の製造方法」という方法の発明(B工程やCが特徴) 。

 

といった感じです。

 

ところが、薬などの化学分野では、新規物質の構造や特性を特定することが難しい場合がある。

 

そこで、物の発明であるのに、方法的な記載でその物を特定する場合がありました。

こういうのを「Product by Process(プロダクトバイプロセス)」クレームと呼びます。

 

例えば、

 Aの濃縮溶液を作り、Bを沈殿させ、それを精製する方法で製造されるC物質

といった感じで、C物質という物を、製造方法を使って特定します。

 

 

2 本事案での問題点は?

 

さっきのような、プロダクトバイプロセスの形式で特許となった場合、それとは違う製造方法で同じC物質を作って売っている会社に対し、作るなとか損害賠償しろといえるか。

物は同じだけど、特許された製造方法とは違う方法で作っている場合も特許権侵害といえるかということです。

今回の事案では、この点が問題となりました。

 

 

これまで、

 ・ 物さえ同じであれば、製造方法が違っていても問題ないんだ、という考え方と、

 ・ いや、製造方法を特定しているのだから、物が同じでも作り方が違えば違うはずだ、という考え方

の2つの考え方があり、見解が分かれていました。

 

 

そこで、知的財産高等裁判所の裁判官5人で構成される特別部(通常部は裁判官3人)は、

 ・ 物をその構造や特性によって特定することが不可能または困難な場合は、物さえ同じであればいい、

 ・ しかし、そういう事情がない場合は、製造方法も含めて判断する

という考え方を採用しました。

上記の2つの考え方を折衷したような考え方です。

 

これに対し、最高裁判所の第二小法廷は、どういう判断をしたか?

知的財産高等裁判所とは違った判断をしたわけですが、それについては、次回の記事で!

 

 

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京扇子

2015-06-05 15:59:08 | 法律一般

そろそろ梅雨入りの時期ですが、ここ2,3日、名古屋では涼しい日が続いてます。

朝夕は、半袖だと少し寒いくらいですが、過ごしやすいですね。

 

 

さて、前回の記事はちょっとマニアックすぎました(汗

なので、今日は軽く。

 

先日、仕事でお付き合いさせていただいている方から、扇子をいただきました。

 

 

日頃お世話になっているので、といただいたのですが、思わぬ贈り物で、うれしかったです。

 

 宮脇賣扇庵さんの京扇子

 

ひさごが描かれてて、なんだか品がありますね。

それに、お香の香りが付けてあるので、この扇子であおぐと、お香のいい香りに包まれます(^^)

 

 

いただいた際に箱を開けると、商標権という文字が…

 

そう、「京扇子」というのは、地域団体商標なんですね。

権利者は、「京都扇子団扇商工協同組合」なので、組合員以外の業者が作った扇子に「京扇子」を使ってはいけません。

たとえ、その組合員でない業者が、京都で作っていたとしてもです。

 

「京」という文字の「口」の部分を扇子の形にもじったロゴもあって、その商標権も同じ組合が持っています。

 

こうやってブランドを保護しているんですね。

いい加減な作りで、どこで作ったかもわからないような扇子を、本物の「京扇子」と同じにするなっ!ってね。

 

 

ちなみにですが、

今月から、地域団体商標とは違う、地理的表示保護制度(GI)というものの運用が開始されました。

早速、「夕張メロン」や「市田柿」とかが登録申請したと、報道されてましたね。

 

 

地域の名前が入っていて、ブランド保護のための制度であるという点では、地域団体商標も地理的表示保護制度(GI)も同じ。

 

でも、後者の地理的表示保護制度は、対象が農林水産物に限定される。

そのため、所管する省庁は、特許庁(経済産業省)ではなく、農林水産省。

 

というわけで、「京扇子」は、地理的表示保護制度が使えません。

(「市田柿」はすでに地域団体商標ですが、今回、さらに地理的表示保護制度の登録も申請してる。)

 

 

このように、ブランドをはじめ、知的財産を保護するための制度は、いろんな形が用意されています。

その中から、モノやサービスの内容に合った制度を選択して、うまいこと保護を図っていくことが求められますね。

 

というわけで、京扇子からの、知的財産の話でした。

 

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ゴミ貯蔵機器事件の紹介

2015-06-02 14:49:54 | 特許

毎日暑いですね。

 

最近、このブログが参加しているランキングが、2位という好成績です。

ネコ大好きのjoli!joli!さんが、「ねこあつめ」の著作権に関する弁護士ドットコムニュース(こちら)がきっかけで、記事にリンク貼ってくれたことがからかなー(^^)

皆さま、ありがとうございます! 

 

さて、先週のことですが、月1回の頻度で開催されている知的財産勉強会(名古屋)において、報告をしました。

知的財産事件を扱ってたり、勉強してたりしている弁護士や弁理士、合せて10人ほどが集まってやっている勉強会です。

報告したのは6個の判決でした。

 

報告者としてせっかく勉強したので、今日の記事では、そのうちの一つ、「ごみ貯蔵機器」事件判決について触れようと思います。

2年以上前の平成25年2月に出された判決なので、最新ではないですが、重要判決(知財高判平25.2.1)です。

 

 

事案はこう。

イギリスのサンジェニックという会社が、日本で、「ゴミ貯蔵機器」と「ゴミ貯蔵カセット」に関する特許権を持っています。

使用済みの紙おむつを捨てるゴミ箱と、そのゴミ箱専用のカセット(ビニール袋の容器)です。

 

単に捨てておくだけだと、ゴミ箱を開けるたび、ウンチの臭いがキツイ。

そこで、この特許は、捨てた後に、ビニール袋の口の部分をねじって閉じるようにしました。

 

その特許製品が、「におい・クルルンポイ」という商品名でコンビ社から販売されてます。

 詳しくは → こちら(コンビ社の製品ページ)

製品紹介で、「特許」であることが表示されていますね。

結構お高いんですね…

 

同じベビー用品メーカーのアップリカ社の製品が、この特許を侵害すると訴えたのが本件です。

 

この判決が重要なのは、特許権侵害かどうかという部分ではなくて、特許権者の損害額に関する部分。

 

 

本来、損害額は特許権者が立証しなければなりません。

でも、特許権侵害によってどれだけ損害を被ったかをきちっと証明するのは、現実的にはなかなか難しい。

 

そこで、特許法102条2項に、相手が侵害品を売ったことで得た利益を原告の損害額と推定しましょうという規定があります。

知的財産の訴訟では、よく使う条文です。

なぜって、相手の販売情報をもとに損害額が推定されるので、自分の情報を出さなくていいから。

ライセンス料よりも金額が大きくなるのが通常ですしね。

 

その規定について、知的財産高等裁判所の特別部(大合議)が一つの見解を示しました。

つまり、上記の推定規定(特許法102条2項)を適用する上で、権利者自身が特許権を実施している必要はなく、

  「侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合」

であればOKというもの。

 

その結果、特許権者のサンジェニック社は、1億5000万くらいの損害賠償を認める判決が得られてます。

反対の見解を示して、2000万くらいしか損害賠償を認めなかった第一審と比べると、ガーンと賠償額が跳ね上がりました。

 

今後は、上記の判断基準に当てはまるかどうかが、事案ごとに判断されていくことになります。

 

あんまり深入りしてもなんなので、この辺で。

 

 

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