弁護士早瀬のネットで知財・法律あれこれ 

理系で特許事務所出身という経歴を持つ名古屋の弁護士があれこれ綴る雑記帳です。

営業秘密の保護5

2014-10-28 21:26:21 | 知財一般

来年4月から、地元名古屋のとある女子大で、民法の非常勤講師を勤めることになりそう。

20歳前後の女子大生とうまく接することができるだろうか・・・

 

さて、今日も営業秘密の保護に関する続きを。

最後まで延ばし延ばしになっていた3つ目の要件、「秘密管理性」について検討します。

 

「秘密管理性」というのは、要は、保護してほしい情報ならきちんと管理しておきなさいね、という意味。

そのような管理もされていない情報は、自由に流通するものです。

 

では、どうやって管理されていればいいのか?

この点は、裁判例もたくさんあって、こうすれば大丈夫、という確立した基準があるわけではありません。

それでも、一般的には、次のようなポイントが指摘されています。

 

 ① 営業秘密として保護すべき情報の特定(何が営業秘密であるのか)

 ② 営業秘密であるとの客観的な認識可能性

 ③ アクセス制限

 

まず、①について。

会社内には、取るに足らない情報から重要な情報まで、いろいろな情報があふれていて、そのすべてが秘密情報というのはあり得ないわけです。

また、市販された商品を通じて外に開示される情報もあります(←前にも書きましたが、これは特許等で保護することの検討が必要です。)

営業秘密として保護される他の2つの要件(有用性・非公知性)を満たすかの確認も必要です。

 

ということで、まず大前提として、どういう情報を秘密として保護するのか特定して、これを秘密とする!と指定する必要があります。

その場合でも、「○○に関する情報」とか「顧客情報」といった漠然とした指定ではなく、より具体的に特定して指定する方がよいですね。

例えば、「○○に関する製造技術を示す図面、技術文書、データ」とか、「○○商品の顧客台帳にファイリングされた顧客情報」のように。

こうやって具体化すれば、管理されている秘密情報は何かを従業員がきちんと把握できますし、ポイント②の「営業秘密としての客観的な認識可能性」にもつながります。

 

で、すみません。

このところ、バタバタしてるので(土日も休みなし(T_T))、今日はこの辺で。

ポイント②以降はまた次回にします。

 

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営業秘密の保護4

2014-10-24 19:04:12 | 知財一般

今日の午後は、名古屋近郊まで出かけて無料法律相談を担当してきました。

日頃、特許だ、著作権だ、商標だとやってることが多いのですが、こういう一般的な案件の相談を担当することもあります(^^)

 

さて、営業秘密の保護シリーズ4回目。

第1回の記事で、企業内の情報が営業秘密として保護されるには、

 

・秘密として管理されていること(秘密管理性)

・有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)

・公然と知られていないこと(非公知性)

 

という3要件が必要と書きました。

前回は「有用性」について検討したので、今日は「非公知性」について。

 

この「非公知性」についても、「有用性」と同様、保護されるに値するものだけを保護の対象とする、という意味で必要とされる要件です。

誰でも手に入れることが可能な情報であれば、それはもうパブリックドメインとして、社会において共有されている情報なわけで、そのような情報は営業秘密として保護する必要はありません。

ですから、一般に入手できない情報であることが必要となります。

ちなみに、もとは一般に入手できない情報であっても、それが意図せず第三者に開示され、不特定多数の人に知られた状況になってしまえば非公知性は失われます。

そういう状況になる前に、法的手段等の対策が必要です。

 

この非公知性に関しては、

 ・販売されている商品から得られる情報はどうか

 ・情報の一部が公知の情報であった場合はどうか

 ・立証責任をどうするか

という問題があります。

 

まず最初の問題。

技術情報に関して、販売された商品を分解し、解析すること(リバースエンジニアリング)により得られる情報は、非公知性が失われているのではないかという問題です。

これに関しては、商品を分解することで簡単に得られる情報であれば、販売によって情報が公開されたといえるので、もちろん、非公知性は失われます。

しかし、分解・解析してもわからないノウハウ情報や、解析が不可能ではなくても、解析には多くの費用や時間がかかるような情報であれば、非公知性が認められます。

 

次に、情報の一部が公知であった場合の問題。

例えば、顧客情報などの場合、誰でも知っているような大口顧客が含まれていることもあり、情報すべてが非公知ではないこともあります。

そのような場合でも非公知性が認められるのかという問題です。

これに関しては、仮に一部に公知の情報が含まれていたとしても、他に非公知の情報が含まれているのであれば問題ないと考えられています。

 

最後に、立証責任の問題。

非公知性は、情報が営業秘密として保護されるための要件なので、情報を保有していた者が非公知だと主張立証しなければなりません。

公知でないことを立証しなければならないわけですが、文字通り、ないことを証明するのは悪魔の証明なので、不可能を強いられることになります。

そこで、普通ではなかなか取得できないことを立証すればよいと考えられています。

つまり、情報が秘密としてきちんと管理されていたこと(これは次回検討する秘密管理性があること)が立証できれば、非公知性が推定されるというものです。

この場合、非公知ではなく公知だったと争う相手としては、一般的に知られた情報であったと立証しなければ、非公知性ありと判断されることになります。

 

非公知性に関してはこんなところです。

次回の「営業秘密の保護」は、秘密管理性を検討します(ようやく…)。

 

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審決取消訴訟における技術常識の主張・立証責任

2014-10-22 20:12:03 | 法律一般

今日の話題は、先日の事務所内の勉強会で、裁判所が認定した技術常識について立証責任はどうなっているの?という疑問が出されたことについて。

 

さて、ここでの疑問には、おそらく次のような問題意識があるのだと思います。

つまり、被告の特許庁は、出願当時の技術がどうだったかについて主張していましたが、原告の特許出願人はその点について特に何も反論していませんでした。

それなのに、裁判所が特許庁すら主張していない技術常識を認定したけど、それっていいの?ってことだと思います。

 

結論を言っちゃいますと、そもそも何が技術常識かは間接事実なので、裁判所は自己の判断で認定しちゃってOKってことになります。

つまり、技術常識については、訴訟当事者の誰も主張・立証責任を負わない。

 

このあたりは、理由を説明しようとすると、民事訴訟法の理解が必要です。

審決取消訴訟は行政訴訟ですが、行政訴訟も基本的には民事訴訟法が適用されるので(行訴法7条)、民事訴訟の理論によるからです。

間接事実とは?、主張事実とは?、弁論主義とは?、主張責任とは?証明責任(立証責任)とは?といった概念の理解が必要となるのですが、つまらないと思うので説明省略。

 

もっとも、何が技術常識かは裁判所が勝手に判断できるからといって、何の証拠もなく認定するわけではなく、職権で文献を探すこともしません。

あくまで当事者が提出した証拠をもとに技術常識を認定します。

この場合、認定の基礎となる文献は、原告・被告のどちらが提出した証拠でも構いません(証拠共通の原則といいます。)。

 

今回の勉強会で扱った事案では、特許庁側が出した証拠をもとに、出願人側に有利な技術常識を裁判所が認定してくれました。

結果としてラッキーだったわけですが、本来ならば、出願人自らが、証拠を出しつつ自己に有利な技術常識が何かを主張できるようにするのがあるべき訴訟活動でしょうね。

 

なお、審決取消訴訟において、技術常識等に関する当業者の知見を主張するために、審判段階で出してなかった証拠を新たに提出することは問題ありません(最判昭和55年1月24日判決)。

 

今日はこんなところで。

 

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職務発明規定の改正をめぐって

2014-10-21 22:02:06 | 特許

名古屋はずいぶん涼しくなりました。

さすがにクールビズは終わりですが、事務所から裁判所や弁護士会へ自転車で行くと、まだまだ汗だくです。

 

さて、特許法における職務発明規定(35条)の改正。

以前、朝日新聞の飛ばし記事にまんまと引っかかって記事を書いてしまいました(こちら)。

 

最近の報道を見ると、社員が職務上行った発明について、特許を受ける権利を会社帰属とする基本的な方向性がほぼ固まりつつある感じ。

現状の制度と選択制とするなど、まだ議論の余地はあるようですが。

 社内発明帰属、選択性も 特許改正案で中小などに配慮(日本経済新聞)

 特許権「会社のもの」なら報酬や昇進義務づけへ(読売新聞)

 

今回の改正は産業界からの要望に応えたものです。

特許制度って、毎年大量に出願する大手メーカーに支えられているようなものなので、特許庁としても産業界の要望には応じざるを得ないんでしょうね。

 

ところで、この点に関して、今年のノーベル賞受賞者である中村修二教授が、猛反対されています。

 特許は会社のもの「猛反対」 ノーベル賞の中村修二さん(朝日新聞社提供記事)

 

中村教授の青色LEDに関する業績に関しては尊敬しますし、ノーベル賞受賞についても素晴らしいこと。

でも、ノーベル賞受賞後のインタビュー記事等では、アメリカ万歳、日本(裁判所も)を Dis りまくり。

職務発明規定の改正に関する発言を含め、読むたび、なんだかなぁという気持ちになってしまいまうのは僕だけでしょうか。

よく、発明の対価が2万円だったと言われたりしますが、昇進や年収がどのくらいだったのかも考慮すべきと思いますけどね。

 

社員技術者がノーベル賞受賞したのは、過去に田中耕一さんという例もあるし、中村教授だけが社員技術者の代表みたいな扱いされるのはなんか違和感。

もっと、普通の社員技術者が改正についてどう思っているのか、取材してもらいたいところです。

 

また、マスコミが、「特許を会社のもの」に改正する、と報道していることも、うーんな感じ。

まあ、紙幅が限られているし、細かく説明してるとかえってわかりづらくなるのかもしれませんが。

 

特許法の改正によって会社のものとなるのは、「特許権」ではなく、あくまで「特許を受ける権利」です。

「特許を受ける権利」は、それを持ってるだけでは何にもなりません。

その権利を持つ人(会社)が、発明について日本国特許庁に特許出願し、所定の審査を受け、要件を充足していると判断されて初めて特許権を取得できる。

特許権を取得するには、こうやって段階を経る必要があり、コストも結構かかります。

出願手続から特許権を取得してそれを維持するのに、だいたい100万円くらいでしょうか。

特許権を長く維持しようとすれば、もっとかかります。

現状では、社員が発明した場合、その発明について特許を受ける権利は社員にあるので、それを会社に譲渡し、会社がもろもろの費用を負担して、発明を特許権として成立させ、維持するわけ。

 

特許出願しても権利にならない場合は当然あります。

また、権利になっても実際の製品には使われない場合もあるし、ライセンスを受けたいという会社がないこともある。

そういうリスクがある中で、100万円以上のコストを社員技術者が個人で負担しますかね?しませんよね、普通。

なので、特許を受ける権利を会社に譲って、あとは会社任せというのが現状のやり方です。

それを、特許を受ける権利という最初の段階から会社に帰属させるようにする、というのが今回の改正議論の基本的な方向性です。

 

さらに、会社帰属に改正した場合、会社への対価請求権をなくしてまうのはちょっとねってことで、それに代わる報酬等を義務付けるという議論にもなってます。

会社としても、下手な制度にしたら優秀な技術者は不満をもって離れていくわけですし、これはこれでバランスとれた制度だと思いますけどね(細かい話はおいといて)。

もっとも、報酬等の請求権を規定するなら、現状の制度と実質的には変わらないので、あえて改正する意味あるんかな、という気はしますが…

 

ちなみに、著作権法では、社員が会社の職務として創作した著作物(職務著作)の著作権は会社のものとなります。

例えば、新聞記事や写真の著作権は本来なら新聞記者のもののはずだけど、修正されて新聞社のものとされている。

職務発明制度の改正に批判的なマスコミは、記者が書いた記事に対して、給料以外の報酬を払ってるんかな。

 

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営業秘密の保護3

2014-10-20 15:56:52 | 知財一般

営業秘密の保護シリーズ3回目です。

第1回の記事で、企業内の情報が営業秘密として保護されるには、

 

・秘密として管理されていること(秘密管理性)

・有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)

・公然と知られていないこと(非公知性)

 

という3要件が必要と書きました。

一番問題となるのは、「秘密管理性」なのですが、その前に、「有用性」と「非公知性」について簡単に検討してみます。

そのうち、今日は「有用性」について。

 

この「有用性」については、保護されるに値するものだけを保護の対象とする、という意味で必要とされる要件です。

とはいえ、事業活動において客観的な価値があるのであれば、基本的には認められると考えてよいです。

例えば、設計図、製造方法、製造ノウハウといった技術情報、顧客名簿、仕入先リスト 、販売マニュアル等の営業情報であれば、有用性ありです。

また、試作・実験段階や研究開発における失敗情報にも、有用性は認められると考えられています。

 

では、どういう場合に、有用性が否定されるのか?

一般的には、公序良俗に反する情報や反社会的な活動に関する情報は、有用性が否定されると考えられています。

例えば、脱税の方法であったり、覚せい剤等の禁制品の製造方法や入手方法といったものです。

 

他には、公共工事に関して、入札業者が知り得ないはずの県内部情報について、有用性を否定した判例もあります(東京地判平成14年2月14日判決)。

この情報が営業秘密だと主張する原告は、どうやって情報を仕入れたのでしょうね。

そこは不明ですが、本来、公にされるものではなく、公正な入札を妨害する情報だということで、営業秘密の保護対象とならないと判断されました。

そりゃそうですよね。

 

次回の「営業秘密の保護」では、非公知性を検討します。

 

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