弁護士早瀬のネットで知財・法律あれこれ 

理系で特許事務所出身という経歴を持つ名古屋の弁護士があれこれ綴る雑記帳です。

ゆるキャラに関する知財武装

2014-12-24 22:44:45 | 知財一般

ちょっと時機に遅れてますが、この前の月曜日、日経の朝刊に、ゆるキャラに関する記事が載ってました。

この記事で、「メロン熊」の事件を取り上げていたので、以前にこのブログで書いた「メロン熊」の記事(こちら)に何件かアクセスがあったみたい。

他にも、富士宮市のゆるキャラ「さくやちゃん」、大阪府のゆるキャラ「もずやん」、有名な「ひこにゃん」の事例が取り上げられていました。

 

ゆるキャラに関しては、それをきちんと管理するためにも、知財分野での武装は欠かせませんね。

一般の会社で、キャラクターを商品等のPRに用いる場合も同じです。

武装というのは、具体的には、著作権と商標権ですが、想定する相手ごとに考えたいと思います。

 

1 キャラクターのイラスト・デザインを制作した人との関係

まずは、採用したゆるキャラのイラスト・デザインを制作した人との関係です。

その制作者さんからの横やりなく、ゆるキャラを自由に使用したり、アレンジしたりするにはどうしたらいいかという話です。

 

ここでは著作権が問題となります。

ゆるキャラの著作権については、制作者さん(会社に制作を依頼したならその制作した会社)が著作者であり、著作権者です。

このため、その制作者さんから、契約で、著作権を譲り受ける必要があります。

その時の契約書には、著作権一切を譲渡するというだけでなく、翻案権や二次的著作物利用権も譲渡すること、著作者人格権を自分に行使しない旨を明記することが重要です。

ひこにゃんの事件は、このあたりがあいまいだったので、後でトラブルになってしまいました。

とはいえ、最近の著作権譲渡契約書の雛形は、だいたいそうなっているんですけどね。

 

2 第三者との関係

次に、第三者との関係、つまり、他人に勝手に使われないようにするにはどうしたらいいかという話です。

ここでは、著作権だけでなく、商標権が重要になってきます。

 

まずは著作権ですが、前述したように著作権の譲渡を受けていれば、ゆるキャラを許可なく使用していたり、ヘタな修正がされたりすれば、著作権侵害を主張できます。

商標登録もできるので、商標登録するのも対策の一つですが、キャラのデザインというかイラストそのものには著作権があるので商標登録まではいらないという話もありかもしれません。

この場合に商標登録するメリットは、著作権と違って特許庁に登録されるので、権利帰属が明確になることです。

 

商標登録として必須なのは、ゆるキャラの名前ですね。

ゆるキャラを利用して、ご当地物産をPRしたり、ぬいぐるみや携帯ストラップ等の商品化をするわけなので、名前を勝手に使われないように、商標登録しておきます。

また、そもそもその名前自体、使って大丈夫なのか、という問題もあるので、名前を決める前の商標調査も必要ですね。

同名の商標登録が見つかれば、大阪府のゆるキャラのように名前を変える必要がありますし、同名でなくても似たような名前の商標登録が見つかれば、イラストをメインにした登録を考えるなど、どうやって登録するか対策が必要となります。

メロン熊の事件はそこが不十分だったので、争いとなってしまいました。

 

そんなわけで、ゆるキャラをはじめ、キャラクターを用いてPR活動をしていこうとする場合は、知財面での武装をしっかりやっておく必要がありますね。

 

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著作権侵害事件(シールの絵柄)

2014-12-19 22:01:52 | 著作権

昨日の名古屋は大雪…、相変わらず寒いです。

前はローソンおでんを食べたので、今日は、サンクスのおでんを食べてみようかな(^^)

 

さて、今日も判例紹介(東京地裁平成26年10月30日判決)です。

ハンコやシール等の絵柄を制作した原告が、その絵柄に似たシールを販売する被告に対し、著作権侵害を理由に損害賠償やシールの販売差止めを求めた事件です。

原告の絵柄が著作物であることは問題とならず、複製権侵害があるかどうかが主な問題点となりました。

 

原告の絵柄と被告のシールは、一例として、こんな感じ

いずれも、裁判所HPで公開されている判決書別紙より引用しました。

① 睡蓮

(原告の絵柄)           (被告のシール絵柄)         

    

② ひさご(瓢箪)

(原告の絵柄)           (被告のシール絵柄)

     

  

左右を見比べてみると、一見、とてもよく似ていますね。

②の「ひさご(瓢箪)」について、被告のシール絵柄は、原告の著作物をコピーしたものだとして著作権(複製権)侵害が認められました。

でも、①の睡蓮を含め、他の絵柄はすべて著作権(複製権)侵害が否定されました。

 

なぜ①の睡蓮は侵害じゃなくて、②のひさご(瓢箪)は侵害なのか?

 

判決を読むと、まずこう言っています。

「いずれも睡蓮,ひさご,金魚鉢等を素材とし,印鑑,シール等の絵柄等に用いられるデザインである点で共通するものであるが,上記の素材はそれ自体ありふれたものである上,限られたスペースに単純化して描かれることから,事柄の性質上,表現方法がある程度限られたものとならざるを得ない。そうすると,本件において複製権侵害を認めるためには,同種の素材を採り上げた他の著作物にはみられない原告著作物の表現上の本質的な特徴部分が被告著作物において有形的に再製されていることを要すると解すべきである。」

つまり、著作権侵害をいうには、原告の睡蓮やひさごの絵柄に、他の絵柄にはない特徴部分があって、その特徴部分がコピーされている必要がある、ということ。

 

そこで、①の睡蓮についてみると、原告の絵柄で表現されているもの(花や葉っぱの配置や表現)は、同じ睡蓮を素材にした他の絵柄でも、同じように表現されていました。

このため、原告の睡蓮は、ありふれた素材や構図を組み合せただけで、これといった特徴がないということになります。

そういう場合、デッドコピーといえるものでないと、コピー品だとはいえないことになります。

被告のシール絵柄を見ると、原告の絵柄とは異なり、赤っぽい色でおしべやめしべが描かれ、浮き葉には葉脈が描かれているので、コピー品ではない、と判断されたというわけです。

 

一方、②のひさご(瓢箪)はというと、原告の絵柄で表現されているもののうち、黒地に太い白色の葉脈が描かれた葉っぱと、白地に黒色で葉脈が書かれた葉っぱとを織り交ぜた部分は、他の絵柄にはなかったものでした。

そこが特徴部分であると認定され、さらに、被告のシール絵柄でも同じような表現がされている(白地の葉っぱの位置が左右逆ですが、そこは大きな違いではありません。)として、コピー品だと認められたというわけです。

 

このように、自分の作品と、相手のものとを単純に見比べ、似てるというだけでは、著作権(複製権)侵害だ!ということにはなりません。

特に、本件のように印鑑とかシールの絵柄のように、大きなキャンバスに絵を自由に描くのと違って、小さなスペースの中で表現するものの場合、表現に制約があるので、同じものを表現しようとすれば、大体似たような感じになってしまうのは否めません。

 

本件訴訟では、被告側から、同じものを素材とした多数の絵柄が証拠として提出されています。

その結果として、原告の絵柄のほとんどがありふれたものだと判断されることにつながっているので、被告側の対応しては参考になる案件ですね。

 

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特許権侵害における取締役の責任

2014-12-16 23:57:20 | 特許

寒い…

お腹空いたなと思ったら,先週見た「マツコの知らない世界」で,コンビニのおでんを話題にしてたことを思い出し,初挑戦してみようかなと。

今日は,事務所のすぐ近くにあるローソンで。

ちょっと買いすぎた。10時過ぎの時間なのにお腹いっぱいになってしまった(>_<) 

ローソンのおでんは,大根にこだわりがあるとのこと。確かにおいしかったです(^^)

 

 

さて,おでんの話はこれくらいにして,表題に移ります。

東京地裁平成26年11月18日判決(平成25年(ワ)第14214号)なのですが,表題に書いたように,特許権侵害事件において取締役の責任が問題となりました。

法的根拠は,会社法429条1項(役員等の第三者に対する責任)です。

この条文,会社法の数ある条文の中でも裁判例が多く,かなり重要条文です(司法試験でもよく問題になる)。

 

特許権侵害事件では,特許権者は,普通,特許権侵害行為をしている会社を相手に訴訟提起します。

取締役の責任追及するとなると,特許権侵害行為の有無や損害額といった通常の争点の他に,会社法特有の争点(取締役の職務について悪意又は重過失の有無)が増えるし,個人よりも会社の方が賠償金の支払い能力が高いのが通常なので,個人を訴えてもね…,といったことがその理由です。

ところが,本件の特許権者は,特許権を侵害した会社(Y社とします。)の取締役(代表取締役Bと平取締役A)に対して責任を追及したという,あまりない事案です。

 

特許権は,「音叉型治療器」というもの。

  ※ 特許第4539810号公報より引用(図2)

こんな感じで,凝りや筋肉痛などの症状のある患部に押し当てて使うもののようです。

 

Y会社が,この発明品である音叉治療器を使用していたことに争いはありません。

被告側は,原告とY社の間で発明を実施する合意があったんだと主張しましたが,そんな合意はないとして,Y社の特許権侵害が認定されました。

 

普通は,この後に,じゃあ原告の損害額はいくらなの?という判断になるのですが,本件では,このY社の特許権侵害行為について,被告となった取締役に悪意又は重過失があったかがさらに問題になります。

とはいえ,

「被告Bは代表取締役としてY会社の本件治療器に係る業務を執行し,被告Aも取締役として同業務についての意思決定に関わっており,特許権侵害につき悪意又は重過失であったと認められる。」

と,職務に関する悪意又は重過失があっさり認められちゃってます。

 

また,会社法の規定(会社法429条1項)による取締役の責任追及の場面でも,原告に生じた「損害」の立証に関して,特許法上の推定規定(特許法102条2項)が当然のように適用されています。

特許権侵害によって被った損害である以上,特許法上の規定を適用することに問題はないという判断なのでしょうね。

 

会社ではなく取締役個人を標的にしたという点で,原告は,被告となった取締役A,Bがよっぽど許せなかったのかな。

それとも,会社がすでに休眠会社等になっていて,お金を取れそうになかったのか。

いずれにしても,会社が特許権侵害行為を行えば,取締役としての責任を追及される可能性もあることを認めた点で,なかなか興味深い判例ですね。

 

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中国企業との契約 ~仲裁について~

2014-12-12 20:00:00 | 法律一般

先日からの続きで、中国企業との取引に関して、今回は仲裁合意についてです。

先日のセミナーは、この仲裁合意について、中国の弁護士さんの話を聞きたくて参加してきました。

弁護士会館で行われたのですが、企業の方々も結構参加されていて、会場は満員でした。

 

さて、日本国内の取引先企業とビジネス上のトラブルが生じた場合、日本の裁判所で最終的に解決されることになります。

でも、相手が中国企業であるとちょっと話が違ってきます。

 

まず、そもそも紛争解決の手法としては、大きくは、訴訟と仲裁があります。

訴訟は裁判所を舞台としますが、日本国内での活動がない中国企業を相手に日本で訴訟を提起すると、仮に勝訴しても、それを中国で執行することはできません。

敗訴した中国企業が判決にしたがってお金を払ってくれればいいのですが、知らんぷりされるとなすすべがないのです。

 

そうであれば、じゃあ中国の裁判所に訴訟提起するか、という話なりますが、中国の裁判所を使って紛争解決することはできれば避けたい。

中国では司法の独立がなくて共産党の影響下にあるし、裁判官には異動がないので地元企業と癒着しがちで、日本企業に不利な判断がなされるおそれがあり、公平性という面で問題があるからです。

 

というわけで、中国企業とのビジネス上の紛争を解決する手段としては、商事仲裁が利用されることが多いです。

商事仲裁というのは、民間の仲裁機関(各国にあります)での手続で、紛争の解決を第三者である仲裁人(ベテラン弁護士などが多い)による判断にゆだねるものです。

仲裁人は当事者が選び、非公開で、かつ一審制なので、早期解決が可能です。

 

この商事仲裁に関して、セミナーで聞いてきたことを以下、箇条書きにします。

 

・相互主義の観点から、被告地主義(仲裁を申し立てられる側の国の仲裁機関を利用すること)の採用が増えている。

 → 日本企業が仲裁を申し立てる場合、相手となる中国企業の所在地である中国の仲裁機関に申し立てることになる。

・中国には数百にも及ぶ仲裁機関があるが、中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)が最も信頼できる。

 → CIETACは北京と上海にあるが、仲裁人名簿(この名簿の中から仲裁人を選ぶ)はどちらも共通。

 → 仲裁機関が多いため、どの仲裁機関を使うのか、契約書できちんと特定しておくことが必要。

・交渉上、中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)を選択できなくても、できるだけ大都市の仲裁機関を選択するとよい。

 → 地方に行けばいくほど、地元企業に有利な判断がなされるおそれがある。

・中国の仲裁機関を利用して仮差押や仮処分(差止め)といった保全措置をとれば、中国での執行が可能。

 → 日本の仲裁機関での保全措置は中国国内で執行ができない。

 

このように、仲裁機関を利用して紛争を解決するケースが増えているとのことです。

とはいえ、仲裁手続するにも手間とお金はもちろんかかります。

外国で行うとなれば、手間とお金は日本で訴訟する場合の比ではありません。

 

その意味では、できるだけ争いにならないよう契約書をできるだけきちっと作っておくことは大切ですね(この点は、取引先が日本企業でも同じですが…)。

 

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中国ビジネス契約 つづきのつづき

2014-12-09 20:00:00 | 法律一般

今日はいきなり本題。

 

中国企業と取引する場合の形式的な問題について、前回、「契約当事者の問題」、「口頭での契約成立の問題」、「言語の問題」の3つを書きました。

今日は、残りの2つについて。

 

4.代表者やその権限の問題

日本では、通常の株式会社や有限会社の場合、会社の代表者は、代表取締役です。代表取締役社長とか、代表取締役会長とか。

会社と契約を結ぶ場合は、このような会社の代表権限がある人との間で結ばないと、通常は、会社に契約の効力を及ぼすことができなくなります。

「代表」という肩書がなくても、○○事業本部長、部長、課長などでも一定の権限が与えられている場合もあります。

事業本部長といった事業部門長であれば、表見支配人という規定(会社法13条)がありますが、部長や課長に至ると、どこまでの権限が与えられているか外からわかりません。

よほど大きな会社の事業部門長でなければ、代表取締役と締結することが安全といえます。

 

このように、代表権限がある人と契約を締結するというのは、中国の会社との取引でも同じです。

では、中国の会社の代表者は、どういう肩書なのか?

薫事長、総経理といった肩書をよく耳にしますが、それらの肩書≠代表権者とのこと。

代表者は定款で定められるため、薫事長が代表権者である場合、総経理が代表権者である場合、どちらもありですが、実際は、薫事長が代表権者であることが多いそうです。

また、誰が代表権者であるかは、営業許可証(日本の商業登記簿のようなもの?)で確認できるそうです。

 

5.印鑑の問題

次に、印鑑です。

中国の会社も、契約書には押印します。会社の印鑑としては、公印と契約専用印というものがあり、契約書には契約専用印がよく使用されるとのことです。

ちなみに、中国では、日本の印鑑登録・印鑑証明という制度に当たるものがないそうです。

 

注意すべきは、署名押印だけのページを作らないこと。

中国政府による契約書の審査が必要とされる場合、政府から修正指導があった部分を後から簡単に差し替えできるよう、便宜のため、署名押印だけのページを作る例もあるそうです。

でも、それをしてしまうと、契約書が勝手に差し替えられてしまうリスクがあるということでした。

便宜のためとはいえ、当然のリスクなので、避けるべきですね。

 

形式的なところで説明があったのはこんなところです。

 

で、このセミナーに行った主目的は、紛争解決手法としての「仲裁」に関する話が聞きたかったから。

仲裁についても、いろいろ説明があったので、それはまた改めて、記事にしようと思います。

 

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