医師日記

「美」にまつわる独り言です
水沼雅斉(みずぬま まさなり)

カラマーゾフ的美意識4

2007年01月19日 10時35分08秒 | Weblog
 ドストエフスキーの執筆活動を行った地、サンクトペテルスブルクにあるピョートル宮殿の大滝です。

 この本では、さまざまなこの世の問題点を、しかも百年以上前の本なのに、現代社会にも通じる問題点を、一つの本の中でダイナミックに展開してしまうのです。

 親子関係、兄弟関係、男女関係に始まり、拝金主義、物質主義、遺産相続問題、思想、自由主義・共産主義・社会主義、教会と国家、宗教か経済か、有神論無神論、幼児虐待、裁判の問題点、病気、貧困、精神の病、差別、非平等、嫡子庶子(ちゃくししょし)問題→正妻の子か妾腹(しょうふく)の子の問題、不倫や恋愛道徳観、殺人、自殺、いじめ・・・

 その中で、印象的で深~く、およそ読者が一生忘れ得ない場面が、綺羅星のごとく、これでもか、これでもか、と挿入されていくのです。

 これはまるでクラシックの作曲家であり、オーケストラとその指揮者です。

 あるいは巨大な蒸気機関車のようです。


 特に物語のラストで、アリョーシャに寄せた、亡くなったイリューシャの友人である(十二使徒を暗示する十二人の)子供たちの「カラマーゾフ万歳!」がなぜだか僕にはとても印象的でした。

 そしてこの物語には続編が予定されておりましたが、その内容はアリョーシャが革命家となって、その子供たちを率いてロシア皇帝を討つ、という説があるそうです。

 残念ながら、それは完成されずにドストエフスキーはこの世を去りました。

 ぜひ読みたかったとも思いますが、あったらあったで僕の苦悩も二倍になりますし、イメージは出来上がっておりますので、僕のつたない頭で考えるのもまた悪くないものです。

 実際にお読みになられる事をお薦めいたしますので、読まれる方には以下はネタバレ注意、これ以上ここをお読みにならないでください。

 すでにお読みになられた方や、どんな話か知りたい方は、解説が心もとなく、間違っているかもしれない可能性を念頭に、続いてこれをお読みください。



父:フョードル・パーヴロウィチ・カラマーゾフ

→常識ハズレで金の計算だけしか能がない。
下品で粗野で好色で乱痴気。
無神論者のくせに表面だけはずるく取り繕い、古く悪いロシアの代表のような男。
著者の言葉では「ロシア的でたらめさ」。
ちなみにドストエフスキーもフョードルという名です。


長男:ドミートリイ・フョードロウィチ・カラマーゾフ(愛称ミーチャ)

→フョードルと前妻の子。
元軍人にして「軽率で、気性が荒く、激情家で、せっかちで、遊び人」。
フョードルの血が最も濃い気がします。
ある意味こちらは現代ロシアの代表でしょうか。
破滅的でせつな的でありながら、純粋なところもあり、物語的には主役級。
やはりロシア的(カラマーゾフ的)好色さと自堕落さに、純粋さと高潔さを併せ持ち、生への渇望がほとばしります。


次男:イワン

→後妻の子。
気難しく、成績優秀。
神は人間の知力が創りだしたものなので、それを否定すれば人間の知をも否定することになるから神はしぶしぶ認めるが、神の創ったこの世の調和への「入場券」は返したいと願います。
この本の真の主役(だと僕は思う)。
ヨーロッパ的ニヒリズム理論に対して、イワンの意見を通してドストエフスキーによるロシア的ニヒリズムとしての返答という性質を帯びている気がしました。
最後には発狂してしまう。
発狂の際、悪魔と会話するのですが、その悪魔は劇中の人物と重複しているように思えます。
しかし、精神の病に陥り、悪魔にさいなまれるということが、つまり良心の呵責に悩まされることと感じました。


三男:アレクセイ(愛称アリョーシャ)

→後妻の子。
作者は主人公としています。
純粋で瞑想的、本性から誠実、真理探究者、信ずる者。
無知ではないが無垢であり、長老に惹かれて教会で半修道僧生活します。
兄二人を中和するような役割。
ある意味これからのロシアを託された若者の役割なのか。
現代のキリストを示唆する役回りです。
となれば、キリスト教社会ではみんなが好きな、物語中のユダ探しをするのも興味深いでしょう。
果たしてだれがユダなのか?? 僕は二人のユダを見ました。


フョードルの庶子スメルジャコフ

→存在が薄いくせに、微妙な存在。
ある意味、すべての人物との関連において対立します。
父と思しきフョードルとも、当然大きな事件となるくらい対立します。
育ての親のグリゴーリイとも、思想的宗教的な対立があります。
長兄ミーチャとも、犯人を巡っての対立が在ります。
そして一番大きな対立が次男イワンとのものです。
そもそもスメルジャコフを無神論的に造り上げたのがイワン。
そしてイワンはスメルジャコフと、悪魔と・・・。
そして三男アリョーシャとも。
一説には、当時ロシアで実際にあった去勢派の象徴とも。

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