【社説】:首相の長男秘書官 公私混同、更迭は当然だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:首相の長男秘書官 公私混同、更迭は当然だ
岸田文雄首相は、あす6月1日付で長男の翔太郎・政務秘書官を交代させる。
翔太郎氏は首相公邸で親族と忘年会を開き、公的スペースで非常識と思える記念撮影までしていた。「政務秘書官として不適切であり、けじめをつける」のが理由だと首相は説明した。事実上の更迭である。
特別職の国家公務員という役職を考えると、目に余る公私混同で、更迭は当然だ。そもそもなぜ秘書官に起用したのか。国会議員の世襲を念頭に置いていたとしたら、有権者をばかにしていると言えよう。
首相公邸は、執務の場である官邸に対し、住居である。今は首相父子が住んでいる。ただ、海外の首脳と会談する部屋や、晩さん会で国内外の要人をもてなす大ホールなどもある。万全の警備体制を敷き、維持管理費は年約1億6千万円という。
その公邸で、翔太郎氏は昨年12月末、親族と忘年会を開き、赤じゅうたんの敷かれた階段に約10人が並び、組閣時をまねしたような記念撮影をしていた。昨年8月の内閣改造時に新閣僚の撮影が行われた所だ。親族の誰も、おかしいと感じたり、止めたりしなかったのだろうか。
忘年会について、首相が会見で用いる演説台で男女がポーズを取っている写真などと共に週刊文春が先週、報じていた。
「公邸の私物化だ」「秘書官として不適格」…。野党の批判を浴び、与党内からも苦言を呈する声が出ていた。首相は当初「誠に遺憾。私から厳しく注意した」と述べるにとどまった。自身も忘年会に顔を出していたというから、処分できなかったのかもしれない。
なぜもっと早く決断できなかったのか。ようやく更迭したのは、衆院解散後の総選挙を有利にしたいからではないか。
地元広島市で開いた先進7カ国首脳会議(G7サミット)を無事に終え、内閣支持率は上向いた。この問題が発覚すると一転、風向きが逆になった。このままでは政権の足を引っ張りかねないと判断したのだろう。
翔太郎氏の不適切な行動は今年1月にも指摘されていた。首相の欧米歴訪に同行した際、公用車を使って観光名所を回ったり買い物をしたりなどしたと、週刊新潮が報じたからだ。
閣僚らへの土産の購入が目的だったなどと首相は説明。政府も「個人的な観光を動機にした行動は一切なかった」と、かばい続けた。とはいえ、翔太郎氏の撮影した写真を政府は使っておらず、土産代の原資は首相のポケットマネーだったという。これでは公務と言い切れまい。
首相の政務秘書官に身内を充てるケースはさほどなく、通常は個人事務所からベテランの秘書らが就くことが多いという。「適材適所」と岸田首相は強調していたが、「身内びいき」との批判も強かった。本人のこれまでの言動から考えると、無理筋だったと言わざるを得ない。
自身の責任について首相は「先送りできない課題に一つ一つ答えを出し、まい進することで職責を果たす」と述べた。
少子化対策や格差是正など、山積する課題の解決には国民の理解が欠かせない。その前提となる、政治や政権への信頼を回復するためにも、長男の秘書官起用が正しかったか、首相は謙虚に反省すべきである。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年05月31日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます