【卓上四季・12.01】:ばら色の未来
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【卓上四季・12.01】:ばら色の未来
近未来の交通事故現場の話である。負傷者は意識不明に陥ったが、直ちに身元が確認され、最適な医療施設で医師の処置を受けることができた。命を救ったのはけが人が携帯していたIDカードだった
▼1970年に日本生産性本部から出版された「一億総背番号」で描かれたばら色の未来図である。カードに記載された病歴や投薬歴の個人情報が最適な治療を実現したのだという。かつて一億総背番号制の導入が構想された時代から、医療の改善は制度創設の格好のうたい文句だったらしい
▼マイナンバーカードに健康保険証機能を持たせたマイナ保険証も医療の質の向上がメリットに掲げられる。だが、別人情報のひも付けや漏えいへの懸念は払拭されていない。普及が進まないのはその証左だ
▼病歴などは不当な差別など不利益を被ることがないよう注意を要する個人情報である。日本医師会などが2014年、利用範囲の拡大に懸念を示す共同声明を出したのもそのためだろう
▼患者の同意を前提とする情報提供は、特定の薬歴だけを除外するなど細かい選択はできない。秘密にしたい病気もあるはず。尊厳や人権を傷つけるようなことがあってはなるまい
▼現行の健康保険証の新規発行があすには停止されて事実上の義務化が始まる。その先に待っているのは果たしてばら色の未来か。
元稿:北海道新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【卓上四季】 2024年12月01日 04:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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