心拍の変化には心理的要因と生理的要因がある.音楽の演奏で気分が高揚したり癒されたりすることが心拍数に反映することが前者だが,それ以前に演奏は肉体的負荷を伴う.心理的要因に興味があるとき,生理的要因による心拍変化はバックグラウンドになる.スケール練習みたいに機械的で感情に訴えない演奏をしたときの心拍を測定した例があれば,バックグラウンドとみなせるだろう...と思ったら,
Hidehiro Nakahara, Shinichi Furuya, Peter R. Francis and Hiroshi Kinoshita
Psycho-physiological responses to expressive piano performance
International Journal of Psychophysiology 75 (2010) 268-276
があった.しかしこの論文の著者の一人,木下博氏ががウェブにアップされた
http://www.yamaha-mf.or.jp/onkenscope/kinoshitahiroshi1_chapter2/
の方が,より新しい知見も含め要領よくまとめられていた.図は上記ウェブから転用させていただいた.
両手での 4 オクターブの上行・下行の連続スケールをメトロノームの 5 段階テンポ(bpm=240・320・400・480・552)と 3 段階の音の強さ(p・mf・f)の組み合わせ(計 15 条件)を 11 名のピアニストに各条件で,4 分間演奏させた平均とのことである.
安静時の心拍は毎分 71 拍,椅子に座って安静にしているときの消費エネルギーは,0.022kcal/min/kg.ピアノ演奏を他の運動と比べると,自動車で走り回るよりはきつく,家で家事(料理や掃除)をしているときの値程度であって,歩行や自転車乗りでの値に比べると明らかにゆるいことになる.
16 トンとしては指定されたテンポはかなり速く重労働と思う.被験者も 552bpm というほぼ最速に近いテンポでの両腕によるスケールを 4 分間続けるのはきついという意見だったそうだが,この測定によればこのようなテンポでも心肺機能への負荷は比較的軽いことになるのだそうだ.
ピアノ以外の楽器の演奏によるエネルギー消費はhttp://www.yamaha-mf.or.jp/onkenscope/kinoshitahiroshi1_chapter3/ に同じ木下氏がこの記事の続編としてアップしておられる.ドラムス演奏の 0.067kcal/min/kg,足踏みオルガンの 0.054kcal/min/kg が目立って大きい以外はピアノの場合と似たり寄ったりであった.
先日の「引き込み現象?」実験を見直すと,ゆっくりしたバラードで心拍が 10bpm 上がるのは,やはり生理的要因だけでは説明がつかない.被験者を変えて実験するのが先決か?
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