そのすべて、風とか光の具合、
一秒もはずせなかった精巧で美しいなりゆき。
神様はいるとどれほど思ったことか。
奇跡はあるとどれほど思ったことか。
息をひそめて、どれほどそれを待っていたことか。
そのかつての度合いを誰かに言いたくて、
その気持ちを熱く胸にたぎらせて、
濃い夏草みたいな思い出の匂いで窒息して死にたい。
燃えるような陽の光の中、いちめんの麦畑をイメージして、
歩いて去ってゆく。
どこまでもハチに続く道を。
親しかったみんなに誠実に別れを告げて、
ちょうどよい夏のある日に、
私は逝きたい。
『ハチ公最後の恋人』（中公文庫）/吉本ばなな
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ばななさんは、自分が経験したこと、感じたことしか書けないと、
言っていたと思う。
作品を読むたびに、「どんだけ経験してるんじゃ！」と思う。
ただ経験しているんじゃなく、経験から目を逸らさない姿勢が凄いのかな。
あまりにも真面目に真正面から向き合って、嘘をつかない。
そうするようにしているというより、そうするしかないのかもしれない。
そして書くときは、書き物のプロとしての冷徹さを保つ。
生半可じゃ自分が引き裂かれるように感じるんじゃないだろうか？
作家って大変な生き物だな。
そして私は買った本を全部読んでしまった。あっというまだった。。。あぁ
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