NOTEBOOK

なにも ほしがならなぁい なにも きたいしなぁい

『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』のヨンウやその他諸々のオリジンを感じさせる佳作、『無垢なる証人』

2022-08-07 | 備忘録
ー『無垢なる証人』(クロックワークス公式)

『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』の脚本家、ムン・ジウォンさんのデビュー作であり、『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』の原型であるとされる本作。

「第2の「イカゲーム」? 自閉スペクトラム症の主人公が弁護士に…“ヒット要素なし”と言われた異色ドラマが、大ウケの理由」(文春オンライン)
映画の中で主人公の少女ジウは、「私はたぶん弁護士になれないと思う。自閉症だから」(映画『無垢なる証人』)と話しており、韓国ではこのジウが成長した姿がウ・ヨンウではないかとも囁かれた。『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』は、ドラマの監督が脚本家のムンへ、「ジウの続きを書きませんか」と提案したことが始まりだったそうで、ただ、ムンは記者懇談会(7月26日)で「ウ・ヨンウとジウは別の人物」として、こう語っている。
(上記より一部引用)

文春オンラインからの孫引きとなりますが、韓国国内での記者会見で脚本家のムン・ジウォンさんは『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』の監督から「(『無垢なる証人』に登場する自閉症のキャラクター)ジウの続きを書きませんか」と提案したことが『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』が生まれた始まりだと答えているようで、『無垢なる証人』の高校生ジウが『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』のヨンウの原型であることが明言されています。

『無垢なる証人』予告編


長年人権団体の弁護士として活躍したものの、父親が連帯保証人となってしまった借金を弁済するため、大手法律事務所に移籍しバリバリ働くヤン・スノ。スノの有能さを買っていた弁護士事務所の代表は、社会貢献の一環として刑事事件の無料弁護を依頼する。
金持ちの老人が家政婦に殺害されたとされる事件の被告弁護人となったスノは、今回の逮捕が唯一の目撃証言のみによって逮捕されたことを知る。その証言者は15歳の自閉症の女子高生だと知り、自閉症者の証言を法廷で陪審員の前でさせれば証言の信用度が下がると考え、その自閉症の女子高生、イム・ジウに接触していくが…


『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』が話題になってきたあたりから、本作のイム・ジウの「私は自閉症だから弁護士に成れない」と言うセリフが引用され、うっすらと本作のジウがヨンウのモデルだと認識してはいましたが、ジウに限らず『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』の要素の原型と思われる描写が至る所に散らばっており、ニヤニヤしながら面白く視聴しました。

まず、主人公ヤン・スノの設定が『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』を第12話まで観ていると非常に興味深い設定だと感じました。『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』のヨンウは大手弁護士事務所のハンバダで倫理的に問題があるような案件も担当し、その度に葛藤を抱いていました。第5話「ドタバタVS腹黒策士」のATMメーカーの実用新案にまつわる裁判第12話「ヨウスコウカワイルカ」での女性差別的な解雇を行った生命保険会社の裁判がそれです。特に第12話では企業側やそれを主導したハンバダへの複雑な思いを抱えており、更には原告側の弁護士から事務所移籍を誘われるようなシーンまで。

本作のヤン・スノのウ・ヨンウと真逆の設定は『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』の第13話以降の物語を暗示しているように感じます。

真実に気付いたスノが弁護人の利益と反するような尋問を証人であるジウにすると、事務所の代表が弁護士の義務に反するような行動を取るスノを責めます。するとスノは「弁護士も人間です」と応じます。このセリフ、つい先日聴いたぞ?となりました。
そう『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』第12話でリュ弁護士がヨンウを呼び止め話しかけます。「依頼人の権利を守り、損失を防ぐことが仕事です」とあくまで弁護士の義務を語るヨンウに対して、「でも弁護士は人間でしょ。判事や検事とは違います。判事と検事の”事”は”仕事”だけど弁護士の”士”は人でしょ。(中略)私たちは人として…1人の人間として依頼人の隣に座るんです。”あなたは間違っていない応援している”そう言って手を握るのも大切なことなんです。そのためには誰の見方につくべきかちゃんと判断しないと。自分にウソはつけないでしょ。」とリュ弁護士はヨンウに語り掛けます。スピリットが同じです。
二審の前日、スノの誕生日を祝うスノの父親からのスノへの手紙は便箋が『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』第5話「ドタバタVS腹黒策士」で被告側ATMメーカーの社長がヨンウに宛てた手紙と同じ便箋だったり、利益よりも弁護士倫理を優先すべきと背中を押す内容が共通していて、ここでも『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』のオリジンを感じられました。そしてこのシーンがめちゃくちゃ良い…スノの父親がめちゃくちゃ良い味で。


証言者となるイム・ジウは自閉スペクトラム症であり、高い知能を持った少女として描かれます。またお母さん特製の表情を解説した表が自室に貼ってあったり、弁護士に成るのが夢だったりとヨンウのオリジンであることを感じさせます。
また、閉症特融のふるまいの為、学校では陰湿ないじめにあいつつも、唯一の友人であるシネがジウを守っています。この関係性も『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』のヨンウと唯一の友人であるトン・グラミの関係を思い起こさせますが、本作では実はジウへのいじめをかばった為に逆にいじめのターゲットになったシネが裏でジウをいじめていると言う辛いシーンが描かれます。ジウとシネがこう言う辛い関係性だったからこそ、シネと異なりグラミは”サイコ”とあだ名される奇人で孤高の存在であり、どんな状況にあってもヨンウの友達であり続けた設定になったのではないかと思わざるを得ません。ありがとう、グラミ…

ヤン・スノの大学時代からの友人で人権派弁護士であるスイン。友人以上恋人未満的な関係性で描かれますが、大学時代の友人で弁護士と言う関係性が、ヨンウの父グァンホとヨンウの実の母テ・スミや大学時代の後輩でハンバダの代表であるハン・ソニョンとの関係を思い起こさせると感じるのは深読みのし過ぎかもしれないですが、そう感じてしまいます。


『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』の原型としても興味深く、1作の映画として、ミステリとして非常に面白い映画でした。気になったのは原題と日本語タイトル。韓国での公開タイトルは『証人』だったそうです。翻って日本での公開タイトルは『無垢なる証人』です。証人であるジウが自閉症だからこんなタイトルなんでしょうが、韓国のタイトルと比べると、日本人が自閉症≒無垢と考えていると配給会社は考えているのかと思えて、日本と韓国では映画会社・配給会社と観客との間に信頼関係が異なるんだなぁ、日本の映画会社・配給会社は日本の観客を馬鹿だと思っているし、日本の観客も馬鹿なのかもと更に悲しくなりました…





再び登場の"ザ・家父長制"判事リュ・ミョンハ判事と遂に姿を現した"家父長制"『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』第12話「ヨウスコウカワイルカ」

2022-08-06 | 備忘録
-『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(ウ・ヨンウ弁護士は天才肌 | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト

第1話から通底していたこのドラマの敵の1つ、"家父長制"。第12話にして遂に台詞に出てきました、長男以外の人権を踏みつける、時には長男も踏みつける"家父長制"。そして同時に"家父長制"ギャグと言うこのドラマに限らず、初めて目にするギャグまでも。

今回の依頼人は外資系生命保険会社と合併を予定している韓国の保険会社。社内結婚をしている夫婦はどちらかが辞めなくてはいけないと言うリストラ施策を実施し、面談では社内結婚をしている女性社員に対して、性差別的な言動で退職を迫り、退職を拒否した社員から訴えられています。

どう見ても依頼人企業側が性差別的な対応をしたのが明白な為、ヨンウは乗り気ではありません。ミョンソクに依頼人企業が勝てば、性差別的な解雇が合法的になってしまう、社会を良くしないと訴えますが、嗜められてしまいます。

このドラマの面白い所は、大手弁護士事務所と言う設定の為か、依頼人は必ずしも弱者ではなく、大手企業など強者、"家父長制"の支配者側が多いです。弱者であっても"家父長制"的側面を持っていたりします。だからこそのヨンウの葛藤が産まれてドラマになるんですが。

依頼人を訴えた原告の弁護士はその筋では人権派弁護士として知られているリュ・ジェスク弁護士。このリュと言う苗字の設定が秀逸。

第6話「私がクジラだったら…」で登場した対面した相手に"本貫"(日本の本籍と苗字が合わさった様な概念?)を描きまくり、相手をステレオタイプに当てはめる"ザ・家父長制"、リュ・ミョンハ判事の再登板が味噌。いつものごとく、弁論準備手続きの為に原告、被告側双方の弁護士の顔合わせの際に、早速"本貫"を訪ねますが、原告側の弁護士、リュ・ジェスク弁護士はリュ・ミョンハ判事と同じ"豊山リュ氏"と言う"本貫"。気をよくしたリュ判事は更にリュ弁護士の父親の話をしようとしますが、リュ弁護士はリュ判事を性差別的だとやり込め、更には"本貫"上ではリュ弁護士の方が叔母に当たると述べてまさかの"家父長制"ギャグを展開していきます。こんなの見たこと無いです。"家父長制"がこんなに面白くなるなんて…!

裁判は原告に有利な形で展開し、その流れで原告にヨンウが同情的である事を知っているクォンが、ヨンウを陥れる為にハンバダが依頼人の生命保険会社に対してリストラの方法を教授した際の内部文書を原告側のリュ弁護士に送りつける描写からのツイスト(脚本上の”ひねり”)。これこそツイストだろ!って思います。『相棒』がツイストの為に悪人ぽい人を犯人にしないで、社会的弱者や人権派や支援団体の人を犯人にしがちなのとは訳が違います。人権派弁護士を真摯に茶化さず描く真っ当さに驚きました。そして原告側の勝訴と思いきや、まさかの敗訴の展開は『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』的だなと思いました。簡単にカタルシスは与えてくれません。

しかも今回も負けたはずの原告側は晴れやかで、勝ったはずのハンバダの弁護士陣や依頼人はどんよりしています。リストラを行い、被告側として裁判に来ていた人事部長はなんとクビになります。勝ったのは被告企業だけで働く人は部長職でも切り捨てられます。また、同時並行で展開されるミョンソクが過去に弁護した元被告が逆恨みして、ミョンソクも共に弁護したパク・ハスク弁護士を襲撃した後に逃走した件からのサスペンス描写は必見。サスペンスの常道をなぞりつつ、肩透かしを食らわせてからのミョンソクの吐血。普通のサスペンス映画だと、殺される!と思ったら違ったと言う描写の後に同じように殺される!と言う描写があり、本当に殺されたり、襲われたりする演出が多いです。が、本作では、そこから更に捻り、殺されなかったけど、吐血をすると言う、助かったけど、助からなかったみたいな絶望的な展開が待ち受けているとは…

第12話冒頭でミョンソクが徹夜していた描写があり、しかも朝食はファーストフード店のハンバーガーとポテトだけと言う描写まであります。その後も夜遅くまで働く様子が描かれていました。ミョンソクは激務で食事も栄養のあるものを食べていない事がサラッとわざとらしくなく演出されています。これは第12話に限らず、徹夜だったり、まともに食事を摂っていないと言う描写がこれまでも挟まれていました。もっと言うと、第1話の段階でヨンウとの会話中に咳をしている描写もありました。これは伏線というよりも細かな演出と言うべきものです。私の深読みでは無いと思います。


そしてそして、裁判後にリュ弁護士から打ち上げに誘われたヨンウとスヨンはリュ弁護士の元に。打ち上げの場でリュ弁護士が詠む詩は、第5話「ドタバタVS腹黒策士」の被告側の社長がヨンウに投げかけた、「勝つだけの有能な弁護士になりたいですか。真実を求める立派な弁護士になりたいですか」と言う問いかけへの答えの様な詩でした。しかも前段でリュ弁護士はヨンウを自身の弁護士事務所にスカウトしていたし、なんとも今後の展開を感じさせる詩です。

そしてそしてそして、次回予告では出張名目で韓国の観光地、済州島へハンバダのミョンソクチームが向かうと言うシーンが!しかも何故かグラミやヒゲ店長まで!何があるのかもはや分からないです。ミョンソクの吐血は大した事は無くて、ミョンソクの休養の為のバカンスであれば良いのに……!そしてスヨンとヒゲ店長がまさかの?グラミとクォンもまさかあり得るのか??でもこんな楽しそうな展開が用意されていると言う事は、辛い展開もその分ある可能性が高い訳で…

物語の軸と言うか、クリフハンガーもテ・スミのグァンホへのボストン行きの提案、クォンによるハンバダからヨンウ追放計画、ヨンウの転職、そしてテ・スミの息子の件などまだまだあるのですが、あと4話で型がつくのだろうか…もう最終回が来るのが悲しすぎる…

こんなに可愛いタイトルは見た事ないし、甘い展開ばかりだからやっぱりツラい話だった飴と鞭ドラマの本領発揮『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』第11話「お塩君、胡椒ちゃん、しょうゆ弁護士」

2022-08-06 | 備忘録
-『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(ウ・ヨンウ弁護士は天才肌 | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト

第11話は冒頭からラブラブシーンもコメディシーンもフルスロットルで嬉しい反面、嫌な予感がしました。だって『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』ですから。飴と鞭ドラマですから…


初っ端からハンバダのエントランスでジュノを待つヨンウ。ジュノに会えば、「会いたいから待ってた」と伝えて、まんざらでもないイ・ジュノ氏。ヨンウがエレベーターに乗ると、ハンバダのハン・ミニョン代表と2人きりになり、悩みはない?とハン代表から問われるヨンウ。ハンバダの掲示板に書かれた抽象を念頭に聞いているのかな?とか視聴者としては思いましたが、ヨンウはキスの仕方の悩みを語り、ハン・ミニョン代表は困惑。私は大爆笑です。

そしてフロアではヨンウが執務室からジュノを見つめ続けていると言うシーンがホラー的な演出で描かれます。またも大爆笑。更にヨンウの視線に気付いたジュノはヨンウの執務室に向かいますが、執務室の前で呼び止められて執務室に入れません。ですが、ドSなジュノくんの面目躍如と言わんばかりに手のひらをヨンウの執務室のガラスに手をつけます。それに気づいたヨンウは執務室の内側のガラスに自分の手をつけ、ガラス越しに手を合わせる訳です。エロい事してますね、社内恋愛め!こんなに甘くて面白いシーンばかりなので、それはやっぱり地獄が待っているわけで。

今回の依頼人は、闇カジノ仲間で買った宝くじの分け前を求める依頼人。妻と共にハンバダにやってきますが、オシドリ夫婦ネタを展開した後で、ヨンウからかば園長宜しく自然界のオシドリは仲良し夫婦などでは無く、夫が浮気しまくりですよと指摘をします。これは慣用句が実際と異なっている事の指摘に留まらず、物語の行き先を暗示していました。証拠が無いから、証拠の捏造や証人買収をしようと提案する依頼人に頑として譲らないヨンウ。そんなヨンウに対して、「柔軟性が無い!」と非難する依頼人たち。このシーンすら、終盤のヨンウの柔軟性に繋がる伏線である点もほほーってなります。


結局、裁判は原告の情婦の偽証によって原告の勝訴となり、宝くじの当選金は三等分に。14億ウォンを手にしたオシドリ夫婦の夫は情婦とその金で楽しく暮らすために妻に離婚を迫ります。韓国の民法だと宝くじの当選金は離婚時の財産分与の対象外の様なので、離婚時に宝くじの当選金を妻に分与する必要が無いよう。ここでヨンウが依頼人に求められた柔軟性を発揮するのは面白い展開でした。可愛いタイトルの意味も終盤、このヨンウの柔軟性が発揮されるタイミングで明らかになります。からの飛躍が始まりグサグサやられます。アレしかオチは考えられませんでしたが、あんな演出するのは本当に凄い、Netflixマネーと思いました。『MIU404』第1話でも出来なかったのに…

あと、オチのシーンでヨンウのケアをしたジュノはケアの説明はしたが何故そんなことを知っているのかは語りませんでした。これも脚本が上手いなぁと唸ります。何故そんなことを知っているのかといえば、恐らくはヨンウの為に、自閉スペクトラム症に付いて勉強しているからって事なんですよね。では、何故勉強しているかと言えば、ヨンウの事を真剣に考えているって事なんですよね。落涙です…

そして事件のオチの飛躍が単に事件のオチであるだけでは無くて、テ・スミがヨンウの父グァンホに提案したヨンウのケアに繋がる事を暗に伝えていて、またほほーってなりました。ヨンウを慮るグァンホはテ・スミから渡されたテサンのボストン支部のパンフレットを眺めており、思い込みの馬鹿親父め!ってなりましたよ…ヨンウはもう大人だよ!グァンホの前でジュノとキスするくらいには!


Lee Jun-ho becomes Woo Young-woo’s designated hugger | Extraordinary Attorney Woo Ep 11 [ENG SUB]



それにしてもクォン・ミヌ…どこまで落ちるのか(第12話で更に落ちる所まで落ちますが…)、そして、そしてスヨンが不憫過ぎてツラいけど、結婚詐欺師にお金巻き上げられる前に教えてくれる人が居て良かった…あと詐欺師に高い酒のボトルの支払いさせて、ラッパ飲みの演出も最高です。

【振り返り】脱北者差別と母の愛とベテランの妙手、『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』第6話「私がクジラだったら…」

2022-08-04 | 備忘録
-『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(Netflix

本エピソードの主役は、被告の脱北者の女性でも、被告である母と娘の為に奮闘するヨンウ弁護士でも無く、縁故主義的な”良い顔”した判事のおじさんでした。


脱北者の女性の強盗障害事件を担当することになった、ヨンウとスヨン。ミョンソクからはスヨンが被告女性に感情移入し過ぎてヒートアップしているからなだめてくれとヨンウは頼まれるも、被告に会うと娘と離れ離れになる状況に感情移入してしまいミイラ取りがミイラになる状況に。


本作は韓国における脱北者の過酷な現状や脱北者に対する差別が描かれます。本当にこう言う社会問題を真摯に描く姿勢とその姿勢を支える作品のクオリティに頭が下がります。また、被告の被害者が夫からDVを受けている描写に容赦が無く、この作品の本気の一端が見て取れます。

本作の被告である脱北者女性の描写も面白いです。ミョンソク曰く、"魔性"的な魅力を持った姉御肌で、全く論理的では無い破天荒な人物として描かれます。単に"可哀想な"人でも、乱暴者でも無く、です。


と、被告の人間描写も素晴らしかったのですが、出色なのは被告の裁判を担当する判事の男性のキャラクターです。

冒頭の顔合わせの際には、日本の本籍の様な東アジアの土地の概念、"本貫"を検事やヨンウ、スヨンに尋ね、"本貫"に関連するステレオタイプを開陳し、そのステレオタイプに重ねてヨンウを◯◯出身の人らしくないと言ってみたり、自身の"本貫"に距離的に近い'本貫"の検事に対して、親近感を示したりします。これまで描かれて来た保守的で、縁故主義的なおじさんとして描かれています。


最悪な判事が担当するんだと思いきや…終盤"ベテランの妙手"を発揮するどんでん返しには、このドラマの描くキャラクターの複雑さに圧倒されてしまいました。

【振り返り】弁護士が守るべき事は依頼人の利益か弁護士の倫理か?苦過ぎる結末『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』第5話「ドタバタVS腹黒策士」

2022-08-03 | 備忘録
-『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(ウ・ヨンウ弁護士は天才肌 | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト

クォン・ミヌ弁護士が学生時代のあだ名、”腹黒策士”を発揮するエピソード。このエピソードは思いの外に苦味があり、且つヨンウにとって重要なエピソードだと思います。だからこそコメディパートとロマンティックパートが多め笑

あるATMメーカーが実用新案を申請し、競合ATMメーカーのその実用新案特許を侵害していると訴えます。アメリカで公開されたATMのオープンソースの設計図を基に依頼人の会社がATMを作ったのか、それともそのオープンソースの設計図と関係なく開発したのかが争点として争われます。


ATMの専門知識が必要な裁判であるにも関わらず、クォンとヨンウが担当になった事をクォンだけがチョン・ミョンソク弁護士から聞いており、クォンはヨンウにその事を知らせませんでした。必要な資料も依頼人とのミーティングの直前まで知らせていませんでした。

クォンにその点を抗議すると、嫌だと突っぱねられます。ヨンウとクォンは新人であるが、雇用契約は1年契約であり、ライバルであると。ライバルであるからには、助け合いをすべきでは無く、勝ち負けがあるのだとクォンはヨンウに宣戦布告します。それを受けて立つヨンウはこれまでに無く、裁判の"勝利"に拘泥していきます。


何故クォンはそんな事をするのか?クォンは、ヨンウが退職届を出した一件で無断欠勤となっていた事が咎められていない事を根に持っており、ヨンウに攻撃的な態度を見せていきます。今振り返ると、第1話の時点でヨンウの履歴書に貼ってあったハン・ミニョン代表のメモ書きを目にした時からクォンはハン代表とヨンウの関係を勘ぐっていました。

後々のクォンの発言から推察すると、クォンは恐らくエリートでは無く、コネも無い人物なんだと思われます。だからこそ、ヨンウへの配慮やコネに対してはムキになって反応するのだと思います。このクォンの行動は韓国社会が競争社会である事、またコネ・縁故主義的である事への批判の様にも読み取れます。


依頼人とのミーティングのシーンでは、また別の側面の韓国社会批判が見てとれます、兵役時代に所属していた部隊の話で盛り上がる依頼人とクォン弁護士。それにチョン弁護士のシーン。女性であり、兵役義務の無いヨンウは話の輪に入って行けません。ここにも韓国が男性社会、縁故社会である事がサラッと描かれます。(途中から入ってきたジュノの所属部隊は?と言う質問をサラッと交わし、兵役話で盛り上がる彼らに冷たい視線を向けるのは何故なんでしょうか。)


裁判に際して、ヨンウはジュノと共に依頼人の会社へ向かい、依頼人たちが嘘を付いて居ないか確認するのですが、その前に依頼人たちが嘘を付いているか居ないのかを判断するための練習を車の中でします。こんなにロマンティックでキュートなシーン入れるかね?最高です。

Park Eun-bin asks Kang Tae-oh how he feels about her | Extraordinary Attorney Woo Ep 5 【日本語字幕 CC】



ヨンウからの練習問題に面食らいながらもくぐり抜けたジュノとヨンウは、依頼人の会社の開発部のチーム長が本当の事を言っているかを聴取するシーンが展開されます。このチーム長への聴取シーンの演出の見事さに見返すと驚かされます。絵に描いたような嘘つきであるチーム長とのやり取りが非常にコミカルに描かれますが、このシーンもこのエピソードで重要であると言うのがこのドラマの侮れない部分です。


聴取後、再開された裁判の結果、依頼人の主張が認められて競合メーカーのATMは販売差し止めの仮処分を受ける事になります。それを受けて、競合メーカーは非常に危機的な状況に。そんな最中に競合メーカーの社長はヨンウだけに手紙を寄越します。それはヨンウの良心に訴えようとする必死なメッセージでした。「勝つだけの有能な弁護士になりたいですか。真実を求める立派な弁護士になりたいですか」と。


そんな中での「春の日差し」事件です。

Park Eun-bin gives Ha Yoon-kyeong a special nickname | Extraordinary Attorney Woo Ep 5 【日本語字幕 CC】


このシーンは涙腺を破壊しに来ています。第1話から語られてきたスヨンのヨンウに対する複雑な思いや、都度都度のヨンウに対するスヨンの行動を踏まえて見ると、そりゃ泣きます。号泣しますよ…そもそも撮影の舞台裏を見ると、ヨンウ役のパク・ウンビンさんもスヨン役のハ・ユンギョンさんも演じる前の下読みの段階でうっすら泣いているんだもの。


結局、競合メーカーが依頼人のメーカーのATMがアメリカで公開されたオープンソースの設計図を参考にしていた事が明らかになり、競合メーカーへの販売差し止めの仮処分は取り消されました。ですが依頼人の本当の狙いは、仮処分によって競合メーカーの評判を失墜させ、大手銀行との商談をまとめる事だったと言う…

その為に、ヨンウたちハンバダの弁護士たちも法廷も利用された事に気付き、ヨンウは打ちひしがれます。クォンに勝つ事に囚われたヨンウは依頼人たちの嘘に気付きながらも見て見ぬふりもしていた事を思いしったから。

白眉なのは、ヨンウが悔しさの余り涙を流すシーン。ジュノに事の顛末を吐露し、悔しい気持ちを吐き出します。悔し涙を流すもののヨンウはうつむき表情は見えなくなります。ヨンウの弱った姿を目の当たりにしたジュノは抱きしめようとしたのか、手を差し伸べようとしますが途中で伸ばした手を止め引っ込めます。なんだこの強烈な演出は。凡百のドラマなら抱きしめる所をグッと堪える。頭が下がります。


事務所の自室に戻ったヨンウは、勝つだけの有能な弁護士になりたいですか。真実を求める立派な弁護士になりたいですか」とヨンウに問いかける競合メーカーの社長から届いた手紙を自室の壁に貼り付けて、戒めとする様子が展開されます。

[Bonus Clip] Woo Young-woo’s office gets a makeover 🌊 | Extraordinary Attorney Woo Ep 5 [ENG SUB]

上記はカットされたシーン。手紙を壁に貼る前に、捨てたと言っていたジュノからのプレゼントが捨てられておらず、そのプレゼントに喜ぶヨンウがファンシーに描かれています。このシーンがあっても良かったですが、やはり社長の手紙を弱めてしまう気がするのでカットして正解ですね。