よみびとしらず。

あいどんのう。

聖夜の贈り物はトイレの蓋

2018-12-26 10:44:10 | 随筆
とあるお宿に五日間泊まっている。
この宿には過去にも何度か滞在したことがあり、前回の滞在時には館内の工事がおこなわれていた。そして今回、何となく部屋の壁紙なんかが新しくなっているような気がする。リニューアルしたのだろうか。その、リニューアルにともなうのであろうか。
部屋のトイレに、蓋がついていなかった。
人の出入りが激しい駅やショッピングモールなんかのトイレには蓋がついてないことはままあるが、あのような具合に、宿の室内にあるトイレの蓋がなかったのである。よくあるビジネスホテルタイプの宿なので、むろんユニットバスである。ユニットバスのトイレに蓋がついてない。みなさん、体験したことはありますか?まあまあ嫌なものですよ。
でもたぶん部屋のリニューアルがおこなわれたようなので、その一環でトイレの蓋はなくなったのかな。そうであろうな。わたしはそう結論付けることにした。それ以外に方法がないのだから仕方がない。フロントの方に尋ねるには、わたしにはちょっと難問すぎる。こんなの、一体なんて尋ねろというのだ。
わたし「トイレに蓋が、ありません」
フロント「はい」
わたし「………」
フロント「………」
気まずいにも程がある。これから五日間滞在する宿でそんなことはしたくない。トイレの蓋なんて、頼んで持ってきてもらえるようなものじゃないし。
部屋のリニューアルにともない、トイレの蓋がなくなった。よく分からないけど、たぶんこれがこの町におけるトレンディなのであろうな。よく分からないけど、よく分からないのはわたしが流行に疎いからであろうな。
わたしはそう思うことにした。

そして12月25日、日中所用にて外出したんである。
出先から帰ってきたのである。
部屋のトイレに、蓋がついていたのである。
……サンタさんが?
滞在五日目にして、よもやトイレに蓋がつくことになろうとは。一体誰が予想できただろうか。そもそもユニットバスのトイレに蓋がないという事態を予想できる人がまずいないであろう。その想定外の出来事を目の当たりにし、そしてそれを受け入れつましく過ごしてきた結果、滞在五日目にしてトイレに蓋がつけられた。これはやはり、サンタさんからの贈り物と考えるのが妥当ではなかろうか。
別にわたしは、サンタさんに「トイレに蓋を」と願った覚えはないのだけれども。しかしそこはサンタクロース。わたしの深層心理を真によみとり、いまのわたしが本当に欲しいものを贈ってくださったにちがいない。じっさい、あると嬉しいものですね。トイレに蓋があるさまをみてちょっと笑ったのはこれが初めてです。なんて素敵なクリスマスでしょう。こんなことはなかなか、体験できることではございません。つまりはこれが聖夜の奇跡…?

聖夜聖夜と申してますが、実際にトイレの蓋が取りつけられたのは日中の出来事です。清掃スタッフが清掃がてらにつけたのか。清掃は他の日にもお願いしていたのだから、どうせならもっと早くに取りつけてほしかったと思わないでもない。でもそうしてしまうと12月25日、わたしの願った(願ってないけど)トイレの蓋を小脇に抱えて路頭に迷うサンタクロースが現れていた可能性もなきにしもあらず。だからやっぱりこれで良かったのかもしれない。

滞在中、宿の方からトイレの蓋に関するコメントは一切なく、わたしもトイレに蓋が取りつけられる現場を見ていないのだから、この真相はきっと神様だって知らないにちがいない。

宿のスタッフはよくよくご存知であろうが、本来お客様は神様でありすなわちこの場合神様の立場はわたしとなり、わたしは存じ上げないことであるからやっぱり、きっと神様だって知らないにちがいないクリスマスに起きた奇跡の贈り物は、トイレの蓋。

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