よみびとしらず。

あいどんのう。

夜と海

2021-06-26 11:52:50 | 散文
異なる海に放り出された
わたしの肌にこの塩は合わぬと
自分の涙でその水を埋め尽くそうとした
さかなはひとり
泳ぎ方も忘れて瞳を閉じた
そのまま空に落ちていくことも能わずに
ただ彼を慰めるためだけの夜が訪れる

力強く否定された力強さに押し負けて
さかなは息の仕方も忘れてしまうくらいの孤独を堪(た)える
ただ愛しいのだとそれだけの思いに囚われて

海の水の違いにも最早気づかない
さかなはあるべき場所を見失い海を離れて地を駆ける

夜に化ければこれが本当の姿だと
暗闇のなかであなたは笑った
海の香りが微かにこの鼻にかかる頃
夜は開(ひら)けて
わたしは空に似たなにかを思い出す
もう覚えていない呼吸の仕方を
海に置いてきたのはひとりのさかな
わたしとあなたの出会うはずもない海の無い場所は
真昼の光に晒されている

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