逃げ出した先の現実にひとり
わたしと向き合おうとしてくれたあなたとも
支配することでわたしを縛りつけようとしたあなたからも
遠く離れたこの場所で
わたしは幸せになれるのだろうかという問いは
なれるわけねえだろという返答にのみ込まれて消えた
贖罪(しょくざい)は終わることなく続く
あなたの手のひらはもう届かない遠くかけ離れたこの世界にも
朝と夜は訪れて鳥は囀(さえず)り風の鳴る音
わたしの腹はすき砕(くだ)けた大地に花は咲く
わたしとあなたとあなたの声は
いまもこの身にあり記憶なくとも
泣き方と笑い方は教わらずに覚えた
ふるえるからだは嘘をはくやり方もそれは必要なものだと覚え込み
不自然なニセモノの笑顔は定着されて
それがわたしの笑い方となった
記憶をたよりにしようとも
その記憶なくわたしの手のひらは虚空をさまよう
つかむものなき世界に立ちて
だから無視するなというあなたの声は
どこかから流れてきてまたどこかへなりと消えていく
この身にありて記憶なきもの
贖罪なんかどこにもないよとあなたは笑う
だから世界は絶望ばかりなのだと闇を招き入れる準備は整った
わたしはあなたの手の届かない場所にいて
あなたはそれでもその手を差しのべて
お前の帰る場所はここしかないのだと主張した
その言葉の正しさを知っているわたしは
身につけたニセモノの笑顔で笑う
カラカラと
渇いた瞳は涙でにじんだ
さてこの涙はいつに覚えた泣き方だったか
ニセモノのほうでもそうでないほうでも
さしたる違いはあるまいと
盛大な勘違いをしたままわたしは笑う
それぞれの生き方に口をはさむなかれ
今なお縛りつけられたからだに残された
みえない糸はこの身を守りまた傷つける
からだはたくさんの傷跡と傷口を携(たずさ)えて
それでも歩む手の鳴るほうへ
『鬼さんこちら 手の鳴るほうへ』
わたしは人となり鬼となりてからだは歪む
誰も手を差しのべることのない場所に座りこみ
あなたとあなたはわたしを廻りまた新しい朝は訪れる
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