よみびとしらず。

あいどんのう。

文鳥の壁を林檎は砕く

2019-03-05 09:44:47 | 随筆
夏目漱石。言わずとしれた文豪である。いまさらわたしが紹介する間でもないだろうし、わたしも人様にご説明できるほどよくは知らない。「吾輩は猫である」「坊っちゃん」、一昔前は千円札だったひと。わたしができるご説明はこの程度である。
それでもさすがは文豪様たるゆえんか、わたしにも好きな作品がある。「夢十夜」だ。ネタバレに考慮して紹介をすると、とてもすてきな作品です。お勧めです。以上です。…紹介する気がないのではなく、わたしの語彙力の問題でこの程度の紹介しかできないことをどうかご理解いただきたい。というか、わたしはまぎれもなく「夢十夜」が好きなのであるが、もうここ何年も読んでいない。読みたいと思うときはあるし、じっさいに「夢十夜」が収録されている文庫本を手にすることも何度かあった。けれども結局、「夢十夜」は読まずに終わってしまった。今日はそのあたりの理由について語ってみたい。

「夢十夜」を文庫本で読もうとすれば、一般的には新潮文庫の「文鳥・夢十夜」になるのではないかと思われる。比較的どこででも手にはいる文庫本だ。ない場合はネットで注文しましょう。たぶん注文できるはずです。ネットで買い物をしたことがない原始人なのでそのあたりの世の中の仕組みについてはよく分かりませんけども。
で、「文鳥・夢十夜」であるが、「夢十夜」が読みたいのであれば「夢十夜」から読み始めたら良いものを、「文鳥・夢十夜」のタイトルの通りに収録順序は「文鳥」→「夢十夜」となっているため、まあ準備運動がてらというかふつうに、まずは「文鳥」から読みすすめる。これが間違いの元であり、「文鳥」から読みすすめるものだから、わたしはいつまでたっても「夢十夜」が読めないのであった。

「文鳥」は夏目漱石がモデルとされている作家が主人公で、ひらたくいえばこの主人公が文鳥を飼うという物語であるのだが、この主人公がとにかくまあ読んでいて腹がたってくるのです。ネタバレはさけたいので詳細は書きませんが、もう本当にね。なんでお前はそんなにもそんなにもなのだと。そんなに長い作品ではないのですが、さすがは文豪さんゆえ感情移入しやすいのか、読めば百発百中でわたしはこの主人公のことが嫌いになり、主人公のモデルは夏目漱石なので主人公が嫌いということは夏目漱石のことも嫌いとなり、誰がこんなやつの小説をこれ以上読むかあ!と文庫本を投げつけたくなる思いにかられ、じっさいに投げつけることはありませんが読みたいという思いはすっかりなえて、毎回「夢十夜」にはたどり着かずにおしまいとなる次第です。

これがタイトルに書いた文鳥の壁の正体だ。

あんなにも小さな文鳥が、あの文豪たる夏目漱石の前に立ちはだかりてわたしに「夢十夜」を読ませないのである。
文鳥さんめっちゃすごい。

まあ本当にすごいのは、毎回、ここまでわたしに主人公を嫌いにさせる夏目漱石の文章力なのですが。「文鳥・夢十夜」の文庫本を手にとるころには、「文鳥」を読み終えたあとの嫌悪感はかなり和らいでいる(というか「文鳥」の内容をほぼ忘れている)もののそれがあったということは覚えているので、なおのこと「夢十夜」から読み始めれば良いのですが、喉元過ぎれば熱さ忘れる。嫌悪感あった言うてもそないにたいしたものではなかろう〜とたかをくくり、真面目な性格も相成って収録順に、はじめのほうにある「文鳥」から読みはじめると、誰がこんなやつの小説をこれ以上読むかあ!の結論にいたり、読みたかった「夢十夜」は読まずに終わるというループ。わたしはわりと頭が悪いです。


か弱き「文鳥」も夏目漱石の壁となりえるということを伝えたくてこれを書いたのですが、この話には後日談がありまして。

先月、ひょんなことからわたしの手元にアイパッドがお越しになりまして、そのアイパッドから「文鳥」を経由せずとも単発で「夢十夜」が読める事実が判明しました。しかも無料で。
もう何年も何年も、わたしと夏目漱石の間に立ちはだかっていた文鳥の壁は、アイパッドを入手してから数日のうちにやすやすと砕かれました。林檎すげえ。
これが文明ってやつか。
すごいけどほんのりこわいなあとも思います。「夢十夜」は読みました。読んでみると、おもしろさうんぬんよりもその読みやすさに驚きました。なにこれ。すごい読みやすい、と。このような奇妙な物語は説明が難しく、よってどうしても難解だったり読みにくい文章になりやすいのに、夏目漱石の「夢十夜」はとにかく読みやすいと思いました。夏目漱石。言わずとしれた文豪ですね。


ついでの余談

アイパッドは入手しましたが操作に慣れてないのでこの文章は(これ以外のものもほぼそうですが)ガラケーからしたためてます。
ガラケーからでもこれだけの文章が書けるほど、「文鳥」の主人公はとにかくむかっ腹が立つ存在なので気になる方はご一読ください。わたしのお勧めは「夢十夜」です。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿