よみびとしらず。

あいどんのう。

硝子

2021-03-13 10:00:07 | 散文
雨は壁にこびりつき風化した
流れたままの液体は硬く透明な膜となる
簡単に砕けて刃をなした
柔らかなあなたの気配のそこかしこから

ガラスの内側に太陽は昇る
それをわたしはわたし自身だと偽った
太陽のぬくもりにはついぞ届かない
わたしはガラスを叩き割る
手に入れたかったものを手に入れるため
ガラスは砕けてわたしに刺さる
痛みに目を醒ませば夜明け前
太陽は行方をくらませた

ガラスは割れてまた組み立てられて壁をなす
ひび割れたガラスの内側に
いつの間にかおさまったわたし自身は
歪(いびつ)なガラスに歪んだ姿のまま映される
ガラスを叩き割る気力もないわたしの姿を
太陽のようだとあなたは言った
怒りに身を任せれば
どこかでガラスの割れる音がした
本当に望むものは何であったか
硬く透明な膜をただ美しく思った
ひびひとつないあの頃のわたしにはもう戻れない

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